筆者は、このブログで、個別銘柄に対する自分の個人的見解を述べたりすることを意図したものではないが、趣味に任せてさんざん東電ネタの記事をアップしてきて、ちょっとしたきっかけもあったので、現時点での東電株価の自分の考えについて少々整理をしてみた。
*これは原発事故発生以後、東電株を空き時間で観察してきた いち一般個人が「私はこう思っている」というもの以上のもではありません。株価やその予測に関する意見や売買の推奨を行うものではありません。
**自己責任と言っても場末のいち一般個人の見解を参考にして投資行動を起こすことはお勧めしませんし、お控え下さい。私は何かの参考にされることを想定したものでもありません。
***本記事では一部、補足として(注)により記事下に記載をしています。2011年6月14日付「東京電力の理論株価は1,000円」というレポートが興味を引いた。なるほどと思うところもあったし、ふーんと思うところもあった。少々考えるきっかけも与えてくれたのはこのレポートである。
・マネックス証券チーフ・ストラテジスト 広木隆氏による「Strategy Report」
http://www.monex.co.jp/Etc/00000000/guest/G903/strategy/index.htm*私はマネックス証券に口座開設しており閲覧することに問題がないためよく分かりませんが、昔のレポートは口座開設者のみに提供しているようです。PDFの直リンクを張ればレポートをネット上で見れる感じはしますが、マネックス証券の意図にも反すると思うため、このブログではリンクは張りません。
レポートの概要は以下である。
2011年6月14日のレポートによると、配当割引モデルにより計算した東京電力の理論株価は1,018円だという。
配当割引モデルとは将来の配当金を見積もり割引現在価値を総計することによる株価評価の手法の1つである。
シナリオは、一部報道に基づく法案の内部資料とされる政府の東電支援策の前提となった財務試算を根拠に想定している。2019年3月期に10円で復配したあとは年10円づつ増配し、2023年度に年60円配当に戻るというシナリオである。割引率は長期金利1% + リスクプレミアム5%の6% を使用している(注1)。
また、保守的なシナリオの算定も行っている。配当が機構への返済が完了するまで10円のまま据え置かれ、機構への返済は25年かけて行う試算となっているので、26年後に年60円配当に戻る。それまでは年10円配当が2018年度から2036年度まで続くことを前提とした場合を検討し、その場合は511円になると計算されている。
計算上の前提となっている目先最大のポイントは、閣議決定された原子力損害賠償支援機構法案が国会で成立することである。これが国会を通らなければ、すべて白紙に戻るとしている。
2011年6月16日のレポートで補足が行われている。東電の一定の前提の基に出して計算した理論株価は1,000円と言ったが、東電の株価が1,000円になるとは言っていない。実際の株価が1,000円になるかどうかは別の話で、市場が、そういう見方をするかもしれない可能性があるにすぎないという論理が展開がされている。
流動性が高く、ボラティリティが大きいためトレーディングの好機であるものの、長期にわたって株主への利益還元が見込めず、また、不確実性が一般の株式に比べ格段にリスクが高いため、長期保有を前提とした資産運用の対象にはならないというのが結論として説明をされている。
(レポートの詳細はマネックス証券に口座開設の上ご確認頂ければ幸いです)
・Twitterにて主に自分の関心事の経済系のニュースやネタをクリップしたり雑感をツイートしています。
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以下、本記事で「法案」とは「原子力損害賠償支援機構法案」を指している。
(参考)経済産業省「原子力発電所事故に関する賠償などについて」
平成23年6月14日閣議において原子力損害賠償支援機構法案が閣議決定されましたので公表します。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/index.html株式価値の評価はそもそも主観に基づいてされるものであり、様々な市場参加者の異なる主観が交差することにより株式市場の取引は成立していると言える。成立して値段を付けた株価は集合知の結集であり、一般には、特定の者のよりも正確な見通しが織り込まれているとされている。従って、ここでマネックスのレポートの評価の過程に意見をしようとするものではない。(注2)
東電の行方について、長期的な展望など誰にも分からないし、ましてや株式価値に重大な影響を及ぼす不確定要素が複数あるためマーケットが正確に織り込める状況でもない。
マーケットが適正価値を織り込めないため、1日の取引時間中でのボラティリティが高く、必ずしも本質的なものでなくとも何かの材料が出ると一気に株価の方向性が決まるように見える。(注3)
短期的な値動きに対して、ニュース等では「○○を材料として東電株が下げた/上げた」というような解説がされているが、その○○という理由により何故その変動額又は変動率になったのかという理由の合理的な解説は見られない。
どのような投資主体が東電株の売買をしているのかはよく分からないが、ヘッジファンドや投資銀行によるアルゴリズム取引がかなり大きな割合を占めていると一部では伝えられている。
従って、1つの材料に対して一勢に同じ方向での売買が仕掛けられ、材料によっては株価の変動額・変動率は大きく一方向に振れる。東電の行方の方向性にコンセンサスが見出されるまでの当面の間、激しい変動結果としての株価の水準にどれだけの意味があるかは分からない。
理論的背景はないただの個人的な考えだが、私は東電の株価は期待値で考えられると思っている。
例えば、決まった金額になるまでの売却をしないとして大きく単純化した場合を2つ考えてみる。
1.法案が可決し、10年後か何年後か分からないが、賠償を含む事故処理が収束した場合の東電株がいくらか。仮に1,000円になる考えたとする(将来の1,000円が割引現在価値で今いくらであるべきかが正確だが今回の議論の本質から外れ話が複雑になるので省略する。なお、先のマネックスのレポートは割引現在価値で1,000円としているので、将来の株価が1,000円ではない。ここでの仮定の1,000円とは直接の関係はない)(注4)
2.法案が否決し、さらに破綻処理へ進むと株価は0円になるとする。(*法案の否決が直ちに破綻処理というわけではない)
もちろん1と2のケースの中間シナリオも無数に考えられ、本来期待値に織り込む必要があるが、論点を単純にして分かりやすくするため2つのみで話を進める。
例えば仮に@とAの確率が50%ずつとすると、期待値は1000円×0.5+0円×0.5=500円となる。
こじつけで株価の動きの説明をするなら、例えば法案の閣議決定で2日連続ストップ高になるということは、閣議決定前の市場の法案不成立の疑念はかなり大きく、閣議決定によりAの確率が下がったと市場が捉えたと言える。
実際の株価と自分の考える期待値の株価との乖離が大きくて、利回りが自分にとって魅力的なら、ギャンブルとしての妙味はあるかもしれない。株価水準はどれだけの意味があるか分からないため、実際の株価(マーケットの読む集合知としての期待値)がどこまで客観的に正しいかも分からない。
ただ、政治動向等により期待値の変数が日々動くため、自分の考える株価の期待値もすぐに変わってしまうだろう。
それでも、法案が成立すれば、「ゼロ」になる確率が大きく後退するため、徐々に株価は落ち着いていくだろう。
期待値というのは、繰り返し行われる事象に対して繰り返し行動を取ることによってプラスの結果を追及するには適しているが、1度の事象の行動判断では期待値プラスだからと言って、それに基づくことが正解なのかは分からない。
今回のようにマイナス100かプラス100かというような状況で振れ幅が大きい場合、期待値は気休めでしかない。
さらに法案の成立の確率など事象の起こる確率とその結果の株価を客観的に評価することも出来ない。
東電の場合、「手を出さない」という期待値ゼロの行動の選択枝があり、やはりそれは多くの人にとっては適した意思決定といえるのだろう。
足元で1番大きな問題は、政治の混迷と政権のリーダーシップがないため、法案の成立の可否が分からないことだ。
法案が不成立になると議論はゼロに戻るので、破綻処理がされ株式価値はゼロになる可能性が現実化してくる。
2011年6月19日発行の日経ヴェリタスの記事「東電債権 一応は『正常先』だが」でも下記のように伝わっており、一部引用する。
「法案は管直人首相の退陣時期などと絡めた政治的な駆け引きに使われる可能性がある。銀行の債権放棄論を口にする枝野幸男官房長官だけでなく、民主党内には東電の法的整理論すらなおくすぶる。賠償法案の早期成立のメドはまったくたっておらず、賠償スキームは「砂上の楼閣」そのものだ。」(注5)
先のマネックス証券のStrategyReportで少々気になったのは、法案が否決されれば全ては白紙との注意書きはされているが、法案可決が前提条件とされ、法案否決のリスクを理論株価に反映していない点である。
株価を期待値で織り込むなんていうのは滑稽な話かもしれないが、割引率にリスクプレミアムを加えるという考えもあるという議論はあるかもしれない。試しに筆者が同レポートと同様の計算で、割引率にリスクプレミアムを10%加えてみたところ、株価は321円と計算された。(法案成立は前提条件とされていて、計算上その前提を100%としている以上、レポートの計算に意見するものではありません。念のため。)
レポートの想定読者はプロ投資家ではなく一般の個人投資家であり、不透明感の強い現時点で「理論株価1000円」とお題目を付ければそれが一人歩きし、誤解を与える可能性はあるかもしれない(「お前もいち個人のくせに個人投資家を馬鹿にするのか」と突っ込みを受けそうです。すみませんすみません。分かりやすく言うと「ちゃんと全文を読まない人もいるでしょ」ということです。)。
タイトルにインパクトはある。同じマネックス証券の内藤忍氏がブログで、「ブログ等を書き続けているうちに多くの読者に読まれたいためキャッチーなタイトルを付けるようになってきた」というようなことを書いていらっしゃるが、タイトルの付け方にレポートの購読数が増えるよう誘因は働いているのかもしれない。
(ご参考)内藤忍の公式ブログ「城繁幸氏が過激なのは、個人がメディア化する時の宿命」:
http://www.shinoby.net/2011/02/post-2331.html法案が無事に国会承認された場合でもまだまだリスク(株価へ影響を与える不確実性)はある。
例えば、下記のような事項がリスクとして考えられる。いずれも現時点での評価は不可能だ。
・「機構による通常の資金援助」による株式取得で普通株の希薄化がどれだけ行われるか分からない。ただし、優先株等を発行して東電による買戻し条項が付され、将来東電か買い戻せば結果として希薄化は生じないため、絶対に希薄化が起こるかどうかは分からない。
・原子力の使用に代替する火力発電の比率を高めるため燃料費が「7000億円は増える」(東電幹部)とも報道されており、リストラで頑張ってどれだけ構造的にコスト増要因を吸収出来るか不明である。ただ、これは東電の意思ではなく国民の意思を反映したエネルギー政策が原因である。いずれは燃料高によるコスト増は価格転嫁されることも容認されるのではないかと見ることも出来るが、どの程度利益を確保出来るかは分からない。
・送発電分離の議論がこれからなされる。上場株式の発行体としての東電の事業体がどうなるか分からず、将来のキャッシュフローへの影響は不明。送発電分離がされたら、東電の普通株式の観点から少なくともプラスの影響は考えられない。
・エネルギー政策の議論の方向性によっては、地域独占という立場が危うくなる。
・いつかは画期的な新エネルギーが第三者により発明され、発電のイニシアティブが東京電力ではなくなるかもしれない。
上記のようなリスクを全て飲み込んだ上で、東京電力の株式を買う理由はあるのだろうか。
言うまでもなく、東京電力は電力供給という社会インフラを支えている企業であり、法案が成立すれば東電はこのまま存続し、事故はいつか収束する。もっとも、上記リスクを含む何らかの要因で将来の一株当たり配当は事故前の1株60円を超えることは難しいかもしれない。事故処理の収束後でも収益力の低下は避けられそうにない。
30〜50円くらいになるのがあり得そうな水準だと予測をするのなら、それでも現在の株価は314円であるから(2011年6月20日終値)、10年経てば配当利回り10%以上でその後も関東から電力需要がなくならない限り永続的に入ってくる可能性がある。その時まで気長に我慢が出来ていれば、含み益も発生している可能性は高い。(10年とは、10年後には事故処理も終息しているだろうという意味での年数)
なくなっても良いと思う分の資金を、お腹を壊すかもしれないが、ポートフォリオのスパイシーな香辛料として組み込んでみるのは妙味がないわけではない(間違っても主食にするのはあまりにも恐ろしい)。
多くの知見ある専門家は揃って「長期投資の対象ではない」と言う。法案が成立しても当面の配当が見込まれない以上は「長期投資の対象ではない」と言う意見がしばらく優勢かもしれない。ということは、それだけ買いに出る人が少ないということ。ギャンブルに勝てば、将来に後から振り返ったとき良い賭けだったという可能性がないとは言えない。あとはオッズとなる株価水準が問題だ。逆張り派で、短期的な変動に動じることのない、超長期投資家にとってはチャンスとなるタイミングがあるかもしれない。(注6)
私個人としては、このような最悪と最高のシナリオでの変動が大きな場合は、普通株のロングと行使期間1〜2年程度で行使価額が現在の株価水準近くのプットオプションという組み合わせが出来るのであれば面白いと思う。行使期間1〜2年とは、東電の破綻処理の可能性がなくなるのに十分と適当に考えた期間である。
行使期間も長めで現在のボラティリティだとプットオプションの買値がすごい高いかもしれないので、実際に面白いかどうかはオプション価格次第ではある。
いずれにせよ個人投資家にこのようなプットオプションは用意されていないので、頭の体操にしかならない。
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