2012年11月06日

ソフトバンク株とイー・アクセス株の裁定取引に大チャンス到来の2日間

11/1・2は、イー・アクセス株とソフトバンク株の取引に大きなチャンスでした。

先週木曜の2012/11/1に、米スプリント・ネクステルの買収によりソフトバンクの株価が大きく下がったことを受け、ソフトバンクとイー・アクセスの交換比率を見直す方向で検討中と報じられました。(*1)
10月1日にイー・アクセス買収を発表した際のソフトバンク株の基準価格は3108円でしたが、10月31日終値は2527円と基準価格に比べ18.7%低い水準となっていました。

なお、本件の報道を受け、ソフトバンクは「現時点で決まった事実はない」とIRで公表しています。
ソフトバンクのIR(2012/11/1):
http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr1/tdnetg3/20121101/7r4myu/140120121101029254.pdf

「現時点で決まった事実はない」というのは水面下でどのような動きがあっても、取締役会での機関決定を正式に行うまでは全て「決定する前」になりますので、観測報道が出たときのお決まりの文句です。明確に否定するのでない場合は、誤報ではない、少なくとも検討・交渉を行っていることは間違っていないと読むのが大人の見方になります。
この報道を受け、11/1の株価終値は、ソフトバンクは+3.60%の2,618円(前日の決算発表を受け株価が上昇)、一方、イー・アクセスの株価は前日比+10.04%の44,400円となっています。
交換比率を、16.95(44,400÷2,618)までの上昇を市場は織り込んだことになります。
11/2の株価終値は、ソフトバンクは2,714円、イー・アクセスは45,432円なので、株価比率は16.76で、前日の11/1から大きな動きはありませんでした。

ソフトバンクのイー・アクセスの株式交換のリリース文には、ソフトバンクの基準株価1株3,108円として株式交換比率を決めるが、「10取引日間の終値の平均値(公表後基準価格)」が3,108円の85%未満である場合には、52,000円を公表後基準価格で除した数で株式交換比率を調整すると書かれています。(*2)

ソフトバンクの10取引日間の終値の平均値が3,108円の85%である2,641円未満となったのは10/22からで、11/1までの9営業日までの間はずっと2,641円未満となっていました。
11/1の終値で推定される新交換比率は20.11(52,000÷2,572)。一方、市場でのソフトバンクとイー・アクセスの株価比率は16.95なので、ソフトバンク売り・イー・アクセス買いをすれば、株式交換比率の調整が実際に発表された場合には、株価比率が16.95が20.11に近づく過程で裁定利益が狙えることになります。ソフトバンクとイー・アクセスの場合、交換比率と実際の株価は2.5〜3%台のディスカウントの水準で推移していましたので、その分を織り込んでも、新交換比率の発表直後の売却で15%程度の利益率を狙えるチャンスだったことになります。




株式交換のリリース文に条件がはっきり書かれているので、ソフトバンクの株価が2,641円未満となったときから株式交換比率の調整がされるだろうと読むことだって可能でした。

観測報道が出てもなお、株価に十分に反映されなかったのは何故か。
これは私の11/1の夜の疑問でした。

このまま株式交換されても交換比率は16.74なので、16.96前後の株価比率でソフトバンク売り・イー・アクセス買いをした場合、最悪、交換比率の調整がされなくても1%程度の損失とソフトバンク売りの金利と取引手数料が損失、交換比率の調整がされれば15%程度の利益が見込める状態です。
ソフトバンクがイー・アクセスの出資比率を1/3未満にするとか報道されていますが、「いったん100%にする」と孫社長は名言もしている報道記事がありましたので、最悪の最悪で何かの事情で株式交換自体が撤回される可能性は極めて低い。
株式交換のプレスリリース(*2)を読んでも、交換比率の調整のタイミングや交換比率の調整を行うかどうかの細かい条件の有無は分からない。第2四半期の決算発表を受けて株価は上昇し、2,618円とトリガーの2,641円に近付いており、その後に株価が2,641円を10営業日以上超え続けてソフトバンクが逃げ切る形になる可能性はなくはなさそうです(11/2には2,714円まで上昇しています)。
他にも何か重大なリスクの見落としがあるか、ないか。
ただ、しっかりと9営業日もの間、ソフトバンクの10営業日平均株価がトリガーの2,641円を下回っている以上は、交換比率の調整がされる可能性は結構高そうではあります。

結果としては、11/1に観測報道が出た、その翌日の11/2の18時に、交換比率は16.74から20.09へと調整されました(*3)。

そもそも何故、交換比率見直しの観測報道が出て来たのでしょうか。
日経記者が交換比率のリリースから見直しがあるのではないかと気付いて取材をしてグッジョブな報道をしたのか。
ソフトバンクが「急な超大型M&Aの発表で株価が急落しただけだから一過性の要因であり株価は戻るはずだ!もう少し様子を見ようよ」とかゴネてたところに、イー・アクセスのアドバイザー兼大株主のゴールドマン・サックスがキレて、さらに決算が良かったものだから本当に株価が上がっちゃったらヤバいと思って日経記者にチクッて記事につながったのか。。
それともどこかで誰かの言及があったのか。

このあたりの事情は推測の域は出ませんが、後から結果として見えることは、観測報道が株式交換比率の調整発表の後押しに影響した可能性は多少はあるかもしれない、ということです。

注)(*1)〜(*3)は下の「続きを読む」にて詳細を掲載しています。
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2012年06月11日

粉飾決算(財務諸表の虚偽記載)による上場廃止ルールの変更見通し

2012/6/9付の日経新聞で、東京証券取引所が粉飾決算(財務諸表の虚偽記載)による上場廃止ルールを見直す見通しが伝えられています。
「今後はすべて、企業統治に問題があることを示す特設市場に移し取引を継続、3年間で状況が改善しない場合に上場廃止にする。手続きを透明にし売買もしばらく継続することで、投資家の信頼を高める考え」であるとのことです。「東証は金融庁との協議を進めたうえで今夏の取締役会で上場廃止基準の改正を決めたい考え」で「年内にも実施」の方向のようであります。

現行では、上場企業の財務諸表に虚偽記載があり、東証が「影響が重大」と判断した場合に上場廃止となるというルールになっています。
ただ、この「影響が重大」という判断が明確でないため、憶測を伴い株価が乱高下する要因となったり、過去の事案との整合性が図られていないなど、特にオリンパスの件において批判が起こったことに対応したようです。オリンパスの件では外国人投資家も多く、諸外国では日本のような粉飾決算による上場廃止ルールはないらしく、上場維持の要望が多く寄せられていた経過もありました。

財務諸表の信頼性が保たれていることは株式市場の信頼性のインフラであるため、重要な粉飾決算を行った企業は市場から排除することによって、株式市場全体の信頼性を確保するというのが現行ルールの趣旨であったのかと思われます。しかし、粉飾決算をしたことで悪いのは不正を働いた企業の経営者であり、そのことを知り得ずに株式を購入した投資家は粉飾決算が明らかになった時点で株価の値下がりという損失を受け、さらに、上場廃止により流動性がなくなるという二重の損失により、「虚偽記載を理由とした上場廃止という措置は、不正を働いた企業だけでなく、その被害者ともいえる株主も厳しく罰せられるという側面も持つ」ことになります。
「株式市場が「不正に甘い」という印象を持たれてはいけない」ため、虚偽記載を行った企業は「特設注意市場銘柄」に割り当てられます。「「特設注意市場銘柄」銘柄に指定された企業は毎年、内部管理などの体制をチェックされ、3年たっても改善が不十分と東証が判断した場合、上場廃止となる。上場廃止の判断ポイントが虚偽記載の悪質性から、再発防止に向けた企業の取り組みへと移る」ということです。




方法論としては、一部や二部・マザーズとは別に「特設注意市場部」といったような特別市場を設け、全く別の取引の場へ移すというのもあり得るのかと思います。個人的には、事情はあれ、上場廃止という措置はいったん上場している企業の取引の機会を完全に奪うものであるため、結果、現に取引をしている株主の保護にならないと思います。上場廃止が決定した時点で流動性がなくなることが嫌気されて取引機会が確保されている場合よりも低い株価になってしまい、必要以上の損失を受ける場合もあるように思えます。虚偽記載以外での上場廃止銘柄も同じような取扱いでも良いのではないかと思わないではないです。

*「」は日経記事の引用部分になります。

【本ブログでの関連記事】
・2012/1/21 オリンパス上場維持決定!
http://money-learn.seesaa.net/article/247509665.html
・2011/12/6 オリンパス第三者委員報告と大量保有報告書
http://money-learn.seesaa.net/article/239071441.html
・2011/12/4 オリンパス 上場廃止か維持かの可能性についての論点まとめ
http://money-learn.seesaa.net/article/238620624.html

【関連記事】
・ダイヤモンドオンライン 保田隆明 株ニュースの新解釈(2011年12月9日)
http://diamond.jp/articles/-/15257
・ロイター 訂正:焦点:オリンパスの上場維持・廃止、東証判断に複数シナリオ(2011年11月21日)
http://jp.reuters.com/article/economicPolicies/idJPJAPAN-24249420111121

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posted by ASK at 22:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 金融・資本市場 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする