2012年10月08日

消費税の簡易課税制度が見直しの方向か!? 簡易課税制度で中小企業は20億円を節税している

平成24年10月4日付で、会計検査院は「消費税の簡易課税制度について」を公表しています(会計検査院法第30条の2に基づく国会及び内閣への随時報告)。

会計検査院は「現行制度のまま税率が上がれば益税が増える」と懸念し、「みなし仕入率の水準について、必要な措置を講ずる改正が行われれば、いわゆる益税の問題は一定の改善が図られることとなるが、会計検査院の検査によって明らかになった状況を踏まえて、今後、財務省において、簡易課税制度の在り方について、引き続き、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう不断の検討を行っていくことが肝要である」としています。

2012年8月に成立した消費増税法では「みなし仕入れ率を見直すとしており、財務省が検討している」(日経より)という動きとなっているようです。

会計検査院 国会及び内閣への随時報告(24年10月4日(1)): http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/24/h241004_1.html
「消費税の簡易課税制度について」に関する会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書
要旨のURL(PDF): http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/24/pdf/241004_youshi_1.pdf
全文のURL(PDF): http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/24/pdf/241004_zenbun_1.pdf

消費税は、事業者が、販売時に受領した税額から商品の仕入れ時に支払った税額を差し引いて納付する制度になっています。(販売額が税込105円(消費税5円)、仕入れ額が税込63円(消費税3円)だと、受け取った消費税5円から支払った消費税3円の差額の2円を納付します。実際の発生額によって消費税を納める方法が本則課税となっています。)
事務負担の軽減のため、売上高が年5千万円以下の事業者には「簡易課税制度」が設けられており、簡易課税制度を選択することにより、売上高の50〜90%を仕入れ額とみなして税額を計算できます。業種により、みなし仕入れの税率は決まっています。
みなし仕入れ率が実際よりも高ければ、納税額は少なくなり、実際に計算した場合の消費税額よりもみなし仕入れ率での消費税額で事業者が得をした場合の差額が、税金の一部が事業者の手元に残るため、ここで言う「益税」ということとなります。(上記例で、みなし仕入れ率が80%だとすると、仕入の消費税は100円×80%×5%の4円となり、納付する消費税は販売5円から4円を引いた1円になります。原則法による実際の計算では2円を納付しないといけないので、この場合、簡易課税を選ぶことにより事業者は1円得をする(1円の益税)ことになります。)

国税庁:[手続名]消費税簡易課税制度選択届出手続
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_13.htm

「消費税は、平成元年4月に導入されてから20年以上が経過しており、消費税に対する国民の信頼性等を向上させるために、簡易課税制度の適用対象となる基準期間における課税売上高の上限額の引下げによる適用範囲の見直しやみなし仕入率の事業区分の細分化によるみなし仕入率の水準の見直しが行われてきているが、17年度から22年度までの間における簡易課税制度適用者の割合は個人事業者が60%強、法人が30%弱とほぼ横ばいで推移している」とのことです。




消費税の免税制度もあります。
小規模事業者の事務処理能力等を勘案して、資本金等の額が1000万円以上である法人で、課税期間に係る基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者は、原則として消費税の納税義務が免除されます(事業者免税点制度)。
第1期課税期間又は第2期課税期間において多額の課税売上高(5億円超)を有し、簡易課税制度を適用して申告している法人が12法人あるようです。(吸収合併又は吸収分割により事業を承継した法人が7社で、上場企業である法人等が設立した新設法人が5社)

会計検査院の調査によると、簡易課税の制度を利用した中小企業など4699事業者を検査したところ、79.6%の3742事業者で、「益税」が発生していた(簡易課税制度を適用したことにより納付消費税額が低額となっている)ということで、益税の推計額は21億7647万余円。一方、957事業者では、簡易課税制度を適用したことにより納付消費税額が高額となっており、2億2712万余円ということです。対象期間は、法人については22年2月から23年1月までの間に終了する課税期間、個人事業者については22年分の課税期間。
事業者は、本則課税と簡易課税のうち、自分に税金が少なくなる方を選ぶのが基本であると思われますから(あまり考えず、計算が簡単な簡易課税を選ぶ人もいるのでしょうが)、簡易課税の制度を利用した事業者の多くで「益税」が発生していること自体は当然であるとも受け取れます。問題は、差し引き20億円が「節税」されているということで、消費税率が上れば「益税」の額も増えるため、消費税増額をにらみ、これを早期に是正しようという動きであるのだと考えられます。

参考:
日経 2012/10/4付 「8割の事業者に「益税」 消費税の簡易課税で、検査院指摘」

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2012年10月02日

孫さんは損する?損しない? ソフトバンクがイー・アクセスを破格のプレミアム245%で買収

ソフトバンクが株式交換によりイー・アクセスを100%子会社化することが公表されました。
直前の売買日の終値でイー・アクセスの株を買った人は、一夜にして3.45倍になりました。

○ソフトバンク 2012/10/1
ソフトバンク株式会社による株式交換を通じてのイー・アクセス株式会社の完全子会社化に関するお知らせ
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120121001012500.pdf
○ソフトバンク・プレゼンテーション資料「ソフトバンクとイー・アクセスの経営統合について」(PDF形式:5.90MB/58ぺージ)
http://webcast.softbank.co.jp/ja/press/20121001/pdf/20121001_01.pdf

財務アドバイザーは
ソフトバンクはみずほ証券とプルータス・コンサルティング
イー・アクセスはゴールドマン・サックス(GS)
となっています。
ゴールドマン・サックスは関連会社を通じて、イー・アクセス株式の約 30.5%の株式を保有しています。ゴールドマン・サックスの財務アドバイザリー‐チームは、イー・アクセス株式を保有するゴールドマン・サックスの関係会社より独立して行為できるように、情報隔壁を設営したと説明がされています。
(とは言え、売り主と利害関係があるGSだけからの算定評価では怪しいので、)イー・アクセスは、UBS 証券株式会社からも、一定の前提条件のもとに、合意された株式交換比率がイー・アクセスの株主(ソフトバンク及びその関連会社を除く。)にとって財務的見地から妥当又は公正である旨の意見書(「フェアネス・オピニオン」)を合わせて取得したとしています。(*ただ、GSは株主として高く売却したい立場と売り主のアドバイザーとしてより高く評価されるよう交渉する立場で利害は一貫しているとも言えます。買い手のソフトバンクのアドバイザーであればGS内で利益相反があり問題ですが)

イー・アクセスの直近 15,070円の株価のところ3.45倍の 52,000円と評価されています。時価総額では約1800億円の評価がされています。
ソフトバンクのプレゼンテーション資料P33によると、
イー・アクセスを買収する企業価値は、株式価値 1802億円、有利子負債 1849億円で3651億円となります。
ソフトバンクにとって、下記の通り、7220億円の価値があり、「正当な価値」と説明をしています。
(7220億円の内訳)
・SBへのシナジー(想定)(顧客基盤の強化、ネットワークの共用、その他 経営効率化によるFCF増加額の現在価値)が3600億円(ソフトバンクにとってのアップサイド)
・顧客獲得コスト(モバイル 契約数 420万人×3万円/契約、ADSL 契約数140万×0.7万円/契約) 1360億円
・設備投資額等(減価償却後) 2260億円
(*買い手のソフトバンクにとって7220億円の価値があるため、7220億円以内の支出であれば買い手にとって合理的な評価額ということになります。一方、売り手のイー・アクセスにとって、顧客獲得コスト、設備投資額等で1360億円+2260億円で3620億円の価値が既にあると評価できるため、買収する企業価値3651億円は売り手の株主にとって合理的な評価額ということになります。)

開示資料では、「ソフトバンクとイー・アクセスは、イー・アクセスの現在の株価と、イー・アクセスが保有する@移動体通信サービスのネットワーク、A顧客基盤、及びBソフトバンクモバイルとの間で創出が見込まれるシナジー等を総合的に勘案し、両社協議の上、イー・アクセスの普通株式の評価額を決定」したと説明されています。

ソフトバンクの直近株価1 株 3,108 円で割ると交換比率は16.74、すなわち、承認手続等の後、イー・アクセスの株主にはソフトバンク株が16.74株割り当てられます。1株に満たない端数はキャッシュで精算されます。

みずほ証券とプルータスは、「DCF 法による算定において前提としたイー・アクセスの将来の利益計画には、大幅な増益を見込んでいる事業年度を含んでおりますが、これは主として、営業力強化による販売数量増及びバックボーンネットワークの共用等による増益を見込んでいるため」に市場株価基準法、類似企業比較法よりはるか上にDCF 法 のレンジがあります。
実際に決定された交換比率16.74は、DCF法でのみ算定レンジに入っています。
みずほ証券のDCF法のレンジは15.55〜22.71、プルータスのDCF法のレンジは13.502〜19.072。

一方、GSは、「DCF法による分析に用いたイー・アクセスの業績見込において大幅な増減益を見込んでいる事業年度はありません」ということです。
GSによる株式交換比率の算定レンジはかなり広くなっています。(*算定レンジが広くなっている理由は不明です)
市場株価分析 3.92 〜 7.07
類似会社比較法 0.22 〜 16.87
DCF法(永久成長率法) 6.42 〜 15.60
DCF法(マルチプル法) 7.10 〜 18.01
実際に決定された交換比率16.74は、類似会社比較法、DCF法(マルチプル法)で算定レンジに入っています。
開示資料では、「類似会社比較法において比較対象とした会社は、いずれもイー・アクセスと直接的な比較対象となるものではありません」と記載があります。(*実際にどうなのかは分かりませんが、GSによる評価での類似会社比較法では上限がみずほ・プルータスの算定レンジよりかなり上をいっており、「比較対象とした会社がイー・アクセスと直接的な比較対象となるものではない」ということは、高いマルチプルの会社を比較対象としてこじつけで選んだとも見て取れる記述です)
(*開示資料からは、「イー・アクセスの業績見込において大幅な増減益を見込んでいる事業年度はありません」としている計画に基づくDCF法の上限が、みずほ・プルータスの「大幅な増益を見込んでいる事業年度を含んでいる」計画に基づくDCF法の上限より大きく上回っている理由は不明です)

(*質疑応答でのi phone5の影響がきっかけとなったという本音が本当であるとすると、普通に考えると、GSがイー・アクセスの買収をソフトバンクに売り込みをしていた中、孫社長が「腹をくくった」タイミングであったというところでしょうか。買った価格が吹っかけられたものかどうかは、シナジー効果が実績として実を結ぶかどうかに掛かっています。)

*アップデート記事
翌日の2012/10/2では、KDDIもイー・アクセス買収を検討していたところ、ソフトバンクが巻き返しスピード決着した様子が伝えられています。また、発表翌日のソフトバンクの株価の終値は前日比2.9%増の90円高で3,195円で、株式市場からは好感される結果となりました。
マネーのネタ帳 2012/10/2
「ソフトバンクによるイー・アクセス買収は孫社長の素早い決断 発表翌日の株式市場は高評価」
http://moneyneta.blogspot.jp/2012/10/blog-post_7174.html

【関連記事】
Hiroの 「グローバルで負けないリスクテイク出来る日本へ」
ソフトバンク、イー・アクセス買収を10分でバリュエーションしてみる 〜買収価格は許容範囲内〜
http://ameblo.jp/hiro-the-hero/entry-11369256708.html
イー・アクセスは直近株価でも、予想PER3.8倍、PBR0.76倍
NTTドコモ予想PER9.9倍、PBR1.08倍、KDDI予想PER10.87倍、PBR1.31倍
イー・アクセスの今期の予想EBITDA(営業利益+償却)は641億円
EBITDAマルチプル(EV / EBITDA)= 3,377億円 ÷ 641億円 = 5.27倍
「M&Aマルチプルの買収の目安が3倍〜5倍が許容範囲内であることを考えると、それほど高いと言う印象は持ちませんが、いかがでしょうか?」

東洋経済 12/10/01 | 21:52
ソフトバンクとイー・アクセス、統合会見の詳細を一挙掲載(1)
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/86b29f388ee2e4b6c1e56ae2528f6de9/page/1/

businessnetwork.jp 2012.10.01
ソフトバンクがイー・アクセスを買収――きっかけは「テザリング」
http://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/2426/Default.aspx

市況かぶ全力2階建
ゴールドマン・サックス「イー・アクセスの株式交換は一株52,000円が妥当。筆頭株主だけど関係ないから。分析して算定したらそうなったから。」
http://kabumatome.doorblog.jp/archives/65711836.html



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