2012年12月18日

投資に保守的な日本人 なぜ個人金融資産の半分以上は「預金」で眠っているのか

日本の家計の金融資産合計は大よそ1500兆円ありますが、そのうち約半分(55.2%)は現預金となっています。債券、株式、投資信託の比率はそれぞれ2%、4%、4%で、いわゆるリスク性資産の保有割合は約10%となります。
日・米・独・仏・英の5カ国を比較したとき、日本の家計は預貯金の割合が最も高く、リスク性資産の割合は最も低い。5カ国のうち1番アグレッシブなアメリカでは、現預金は14.5%しかなく、債券9.6%、株式17.7%、投信11.9%となっており、アメリカ人全体では4割弱がリスク性資産を保有しています。
日本人を総計すると、「投資することに後ろ向き」「投資に関して保守的」と言えます。

<個人金融資産構成比 日・米・独・仏・英5カ国の比較>
家計金融資産の国際比較.jpg
金融庁 平成24年9月 「平成25年度税制改正要望項目」より

日本の家計金融資産の構成比の過去20年間の推移を見ると、リスク性資産の割合に大きな変化はなく、むしろ少し縮小傾向にあるかといった印象です。

<日本の家計金融資産の構成比の推移>
日本の家計金融資産の構成比の推移.jpg
金融庁 平成24年9月 「平成25年度税制改正要望項目」より

政府は、2000年代前半には「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、しばしば新聞などでも目にするキーワードでしたが、リーマン・ショックを過ぎたあたりからはほとんど聞かれなくなりました。
「貯蓄から投資へ」こと自体がそもそもなぜ必要なのかという議論はあまり見ませんが、より多くの資金を投資へ向かわせることにより経済を活性化させることが期待できるでしょうし、新しい産業や企業を資金調達面で支援することにも繋がります。
一方で、日本の財政は940兆円もの国及び地方の長期債務残高(国債等)を国内の資金で調達することにより賄っています。つまり、日本の財政は、家計のお金が預貯金としてゆうちょや銀行に入っており、ゆうちょや銀行が国債を多額に引き受けていることにより、国債金利は10年国債は1%を切る水準となっており、何とか大きな問題が顕在化せずに運営されています。日本国債のリスク・リターンを冷静に考えると日本国債をたくさん持つことは合理的かどうか怪しいものですが、銀行にとっては、自己資本比率規制の上で国債のリスクウェイトが0%となることや、規制産業である金融業は(少なくとも表向きは)お上の顔色に従順であることが’合理的’であると言えます。
そのため、日本政府から見ると、本当に「貯蓄から投資へ」が促されると、日本の財政運営に支障をきたす可能性があります。「貯蓄から投資へ」がさかんに言われていた頃から現在にかけて、何か本気度が見えない、政策的な後押しを全力でしようという感じはしないのは私だけでしょうか。




日本人の金融資産で安全資産が高い理由として、証券アナリスト・ジャーナル2012年7月号の記事でThimonthy Ryan氏が述べているところによると、下記の3点が挙げられています。
第1に、貯蓄に対する文化的な違い。日本では欧米と比べ投、資と勤労に対する考え方の違いがあり、労働倫理が影響している。金融市場が自分の未来をサポートするよりは、きちんと勤勉に仕事をすることを重視する傾向があるという点。
第2に、過去30年間の株式市場についてはリスクテイクがあまり実を結ばなかったこと。日本においてリスク資産の保有により資産が増えたという成功体験がないことが問題との指摘は講義内でもされていたという点。
第3に、日本の家計は、住宅ローン利用による不動産のエクスポージャーが大きく、将来のために手許流動性をある程度確保しておく必要性が高いという点です。

共通した見解はないと思いますが、上記1から3の指摘に加え、もう少し個々人のミクロな視点から、
・金融資産の保有がリスク許容度の低い高齢者に偏在していること
・投資経験に乏しいために資金を投資へ回すことをためらう
・低金利や日本の株式市場の低迷のため期待リターンが低く抑えられるため投資意欲がわかない
といった点も加えられると思えます。日本の金融資産は60代が半分以上を保有しており、生活に十分な預貯金が確保されていれば、今さら資産運用でリスクにさらす必要性はないと感じるのも無理はありません。
いずれにしても、何か特定の要因が強く効いているというよりは、これらの諸要因が構造的に作用し合い日本の家計の金融資産の現状があるものと推察されます。

ただ、一方で、個人レベルで考えたときに、生活に十分な預貯金が確保できるのか、年金は十分に支給されるのか、といった観点から、現在の20代〜40代未満の層の多くは、漠然とした不安を抱えているでしょうし、その漠然とした不安は徐々に現実的な心配に変わっていくかもしれません。
少しずつ、資産運用や経済の動きを学んで実践していく必要性を感じ、20代〜40代を中心に動きが出てくる可能性はあると思いますし、適切なリスク資産の保有を進めることは個々人にとっても生活設計上でより重要性が増してきています。
20代〜40代の金融資産割合は少ないので、マクロ的にはインパクトは小さいかもしれません。ただし、20〜30年という長い期間を経て、相続等により個人金融資産は現在の20代〜40代へ移転していきます。
若い世代にとって、「リスク資産」と向き合うことは、必要性も意義もあるのではないかと思います。

【関連記事】
・2012/6/28 J-REIT投資の分配金と資産形成について考える(1)
http://money-learn.seesaa.net/article/277673639.html
・2012/7/2 J-REIT投資の分配金と資産形成について考える(2) −J-REITの分配金と株価のトレンドhttp://money-learn.seesaa.net/article/278575756.html
・2012/7/12 長期の資産形成と自分年金の作り方を考える(1)
http://money-learn.seesaa.net/article/280414842.html
・2012/7/12 長期の資産形成と自分年金の作り方を考える(2)
http://money-learn.seesaa.net/article/280577462.html
・2012/7/14 長期の資産形成と自分年金の作り方を考える(3)実際に行う際のいくつかの留意点http://money-learn.seesaa.net/article/280870898.html
ラベル:個人金融資産
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2012年12月04日

PGMによるアコーディアへの敵対的TOB アコーディアは反対を表明 反対の論拠を読む

PGMによるアコーディアへのTOBで、アコーディアが正式に反対を表明し、経営陣に対して「敵対的」なTOBとなりました。

アコーディアは、2012.11.30にTOBに対する意見表明を一旦行わないといけないため「留保」としていましたが、11月30日までにどうしても作業がまとまらなかったのでしょう。2012.12.03に改めて「反対」を表明しました。
(適時開示資料)
・PGM ホールディングス株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ
http://www.accordiagolf.co.jp/file/pdf/ir_20121203135531.pdf
・配当方針の変更および 2013 年 3 月期(第 34 期)配当予想の修正に関するお知らせ
http://www.accordiagolf.co.jp/file/pdf/ir_20121203135459.pdf
・中期経営計画の策定に関するお知らせ
http://www.accordiagolf.co.jp/file/pdf/ir_20121203135437.pdf
(パワポでの説明資料)
・PGMホールディングスによる公開買付けについての意見
http://www.accordiagolf.co.jp/file/pdf/expl_20121203215632.pdf
(参考)
2012年11月20日開示 PGM側の主張に対する反論資料
・経営方針および2012年11月15日付 PGMホールディングス鰍フ説明資料にある指摘事項に対する当社の認識
http://www.accordiagolf.co.jp/file/pdf/ir_20121120153212.pdf

今までの経緯や資料をきちんと把握している者ではありませんので解釈に間違いがあるかもしれませんが、今回、アコーディアの主張する反対の論拠を読んでみました。
アコーディアの経営陣は優れた成長プランを持っていて、PGMと統合する以上にアコーディアの株主へ利益をもたらすことが出来るし、きちんと配当という形での還元をしていきます、という点、いきなり仕掛けてきたPGMのやり方はアコーディア株主にとって公正ではない、という点が骨子になっています。




(下記、→以下は筆者による勝手な解釈です)

反対の理由:
(一) 当社の新中期経営計画の優位性
(a) 当社の経営力(収益力)は、公開買付者の経営力(収益力)よりもはるかに優れていること
→そもそもアコーディアの方がPGMよりも規模も優っており収益力も上だし経営能力は優れています。アコーディアはPGMより当期予想での営業収益は1.2倍、EBITDA・営業利益・純利益で1.4倍。PGMなんてEBITDAが右肩下がりになってるよ。収益力が悪い会社に統合されたらアコーディアの株主にとって損になりますよ。

(b) 当社の新中期経営計画の実行により当社の収益拡大が見込めること
→アコーディアには、マルチブランド戦略、最適コストの実現、ゴルフ練習場事業の拡大、リテール事業の強化を掲げた中期経営計画という立派なものがあります(作りました)。PGMなんかよりも優れたアコーディアの収益力を最大限に活かしていけば実現可能なんです。このアコーディア独自の新中期経営計画をもって、EBITDAは当期(2013年3月期)の225億円から269億円へ年平均5%の成長が見込めます。

(c) 株主還元を重視した配当政策(連結配当性向 90%)を目指すこと
→当期(2013 年 3 月期)の期末配当金(予想)は、今までは1株当たり1,600円を予定してたけど、大サービスで1株当たり 5,500 円(総額56億円)に大幅増額変更します。当期の純利益見通しは54億円(4〜9月の半期で36億円は達成済み)で、ほとんど配当に回します。さらにさらに、稼いだ純利益の90%を目処に今後も配当していくよ。アコーディアは独自の優れた事業計画があるから、4年後(2017年3月期)は8,392円になるよ。
直近の平成24年9月末の現預金は50億円で、有利子負債は520億円あるんだけどね。ちゃんと中期計画と株主還元は出来るから任せてね。

(d) 本公開買付けは、新中期経営計画の実行等に比して、株主の皆様の最善の利益とならないおそれがあること
ア. 当社の競合会社の意に従った経営方針又は役員の変更により新中期経営計画が実行されない可能性があること
→アコーディアは独自の計画があるから今の経営陣に任せれば株主をハッピーにするんだけど、収益力がアコーディアより劣るPGMの敵対的に株を買い集められて統合しちゃったら、優秀なアコーディアの経営陣はクビになっちゃうかもしれなくて、そうしたら独自の計画は実現できなくなっちゃうんですよ。

イ. 当社にとっての本経営統合の統合効果は限定的である可能性があること
→PGMなんかと統合したってアコーディアには大きなメリットはないんですよ。既に十分なシェアもあるからこれ以上の購買のボリュームディスカウントも限られているしね。アコーディアよりも収益力の劣るPGMにはアコーディアと統合するメリットがあるかもね。けど、アコーディアの株主にとっては大損害だよ。

ウ. 目標連結配当性向 90%の配当政策が維持されない可能性があること
→アコーディアが今回示した株主への配当還元は、今のアコーディアの経営陣ならではでございます。PGMに統合されちゃったら望めないんだろうなあ。

(二) 公開買付価格の不十分性
→株価はこの1年5万〜6万円くらいで、2012年4月以降の騒動のゴタゴタといった「特殊事情」でしばらく5万円前後に株価が下がっちゃってたけど、アコーディアの収益力に大きな変動があったわけじゃないし、何か株価が過小評価されてたんだよね。TOB価格の81000円に至っても全然安いよ。
わが国における大手証券会社の一つの大和証券がDCF法によって計算したら、本来の株の価値と市場での株価にはたまたま著しい乖離があるってことも明らかになったよ。
DCF法でいくらの価値かっていう数字は出さないけどさ、事業計画を見ればTOB価格が企業価値に照らして不十分だって分かるよね。
121203 アコーディア経営計画.jpg

(三) 目的の不当性−利益相反構造の意図的な創出
→そもそも買収を仕掛けてきたPGMはライバルでね、万が一にもTOBが成功したらPGMは20〜50%位の株主になるんだけど、残ったアコーディア株主とは深刻な利益相反が起きちゃうよ。PGMが影響力を行使して、残ったアコーディア株主が損するようなことをさせられるかもしれない。
やっぱり、協議交渉というのは、公正な条件、すなわち独立当事者間の取引条件でしないと。いきなり仕掛けてきて、アコーディアの経営陣に支配力ないし圧力を行使できる特別の資本関係を構築してから圧力をかけた交渉をしたって株主のためにならない。PGMが「方針に対して消極的な姿勢の当社役員については、退任を求めていく予定」って言うから反対してるんじゃなくて、株主の利益のために反対してるんだよ。

(四) 方法の不当性−極めて不公正な強圧的買収手法の採用
→PGMは、TOB の後にアコーディアに乗り込んでって調べたら統合の条件がTOB価格よりも悪くなるかもしれない、つまり、TOBに応じなかった株主に不公正な株価で統合されるかもしれないと言っているけど、全ての株主の利益を守る経営陣の立場からは認められない。
あと、もし仮に統合をするとしても、収益力とは逆に時価総額はPGMよりアコーディアが高くなっているけど、PGMの株価は平和が8割も持っていて流動性が低いことが原因で、そんな特殊な状況の株価を基準にした統合比率は受け入れがたい。


反対を表明するロジックとして、株主にとってはアコーディアの今のままの体制の方が利益が見込める、すなわち、TOB価格によりPGMと統合すること以上にアコーディア単独で統合効果以上の収益は出るし、アコーディアの現役員陣によってのみ達成されるということが必須なので、その点をきちんと説明していますね。
2009年3月期から2012年3月期は概ね横ばいの業績であり、直近の業績推移と計画を比べるとぱっと見では強気な計画にも見えます。
さらに、配当をかなり思い切って引き上げる案を出してきた印象があります。
事業計画や配当実施の実現可能性についての明確なコミットがされて、いつかのソース会社にように嵐が過ぎ去ったらうやむやになるようなことはないことを願います(記者会見を見ていないので分かりませんが)。
また、敵対的買収では事前に相手会社の調査は出来ないので、段階的に組織再編行為をするにあたり、TOB価格と二段階目の対価を事前に約束することは買い手の善管注意義務からすれば難しいような気がします。すると、敵対的買収は、一気に完全統合するやり方じゃないと今回のような批判の対象に必ずさらされるということなのでしょうかね。

PGMは、同日(2012/12/3)、「2013 年 3 月期以降の連結配当性向を 90%とする計画であることをアナウンスしたことに関しては、その目的が本公開買付けの成立を妨げることであるとすれば大変遺憾」で、「配当予想の修正及び配当性向の維持は、同社の中長期的な成長戦略の実現並びに企業価値の向上を困難とするおそれがあると懸念」していると公表しています。

アコーディアの反対を受けて、PGMは静観のままか、新しい動きがあるのか。
アコーディアは他の株主を探しているという報道もあります。
四季報によると、アコーディアの株主属性は、<外国>23.7%、<浮動株>25.3%、<投信>5.7%、<特定株>41.6%。

さて、TOBの成否はどうなるでしょうか。

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