日・米・独・仏・英の5カ国を比較したとき、日本の家計は預貯金の割合が最も高く、リスク性資産の割合は最も低い。5カ国のうち1番アグレッシブなアメリカでは、現預金は14.5%しかなく、債券9.6%、株式17.7%、投信11.9%となっており、アメリカ人全体では4割弱がリスク性資産を保有しています。
日本人を総計すると、「投資することに後ろ向き」「投資に関して保守的」と言えます。
<個人金融資産構成比 日・米・独・仏・英5カ国の比較>
金融庁 平成24年9月 「平成25年度税制改正要望項目」より
日本の家計金融資産の構成比の過去20年間の推移を見ると、リスク性資産の割合に大きな変化はなく、むしろ少し縮小傾向にあるかといった印象です。
<日本の家計金融資産の構成比の推移>
金融庁 平成24年9月 「平成25年度税制改正要望項目」より
政府は、2000年代前半には「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、しばしば新聞などでも目にするキーワードでしたが、リーマン・ショックを過ぎたあたりからはほとんど聞かれなくなりました。
「貯蓄から投資へ」こと自体がそもそもなぜ必要なのかという議論はあまり見ませんが、より多くの資金を投資へ向かわせることにより経済を活性化させることが期待できるでしょうし、新しい産業や企業を資金調達面で支援することにも繋がります。
一方で、日本の財政は940兆円もの国及び地方の長期債務残高(国債等)を国内の資金で調達することにより賄っています。つまり、日本の財政は、家計のお金が預貯金としてゆうちょや銀行に入っており、ゆうちょや銀行が国債を多額に引き受けていることにより、国債金利は10年国債は1%を切る水準となっており、何とか大きな問題が顕在化せずに運営されています。日本国債のリスク・リターンを冷静に考えると日本国債をたくさん持つことは合理的かどうか怪しいものですが、銀行にとっては、自己資本比率規制の上で国債のリスクウェイトが0%となることや、規制産業である金融業は(少なくとも表向きは)お上の顔色に従順であることが’合理的’であると言えます。
そのため、日本政府から見ると、本当に「貯蓄から投資へ」が促されると、日本の財政運営に支障をきたす可能性があります。「貯蓄から投資へ」がさかんに言われていた頃から現在にかけて、何か本気度が見えない、政策的な後押しを全力でしようという感じはしないのは私だけでしょうか。
日本人の金融資産で安全資産が高い理由として、証券アナリスト・ジャーナル2012年7月号の記事でThimonthy Ryan氏が述べているところによると、下記の3点が挙げられています。
第1に、貯蓄に対する文化的な違い。日本では欧米と比べ投、資と勤労に対する考え方の違いがあり、労働倫理が影響している。金融市場が自分の未来をサポートするよりは、きちんと勤勉に仕事をすることを重視する傾向があるという点。
第2に、過去30年間の株式市場についてはリスクテイクがあまり実を結ばなかったこと。日本においてリスク資産の保有により資産が増えたという成功体験がないことが問題との指摘は講義内でもされていたという点。
第3に、日本の家計は、住宅ローン利用による不動産のエクスポージャーが大きく、将来のために手許流動性をある程度確保しておく必要性が高いという点です。
共通した見解はないと思いますが、上記1から3の指摘に加え、もう少し個々人のミクロな視点から、
・金融資産の保有がリスク許容度の低い高齢者に偏在していること
・投資経験に乏しいために資金を投資へ回すことをためらう
・低金利や日本の株式市場の低迷のため期待リターンが低く抑えられるため投資意欲がわかない
といった点も加えられると思えます。日本の金融資産は60代が半分以上を保有しており、生活に十分な預貯金が確保されていれば、今さら資産運用でリスクにさらす必要性はないと感じるのも無理はありません。
いずれにしても、何か特定の要因が強く効いているというよりは、これらの諸要因が構造的に作用し合い日本の家計の金融資産の現状があるものと推察されます。
ただ、一方で、個人レベルで考えたときに、生活に十分な預貯金が確保できるのか、年金は十分に支給されるのか、といった観点から、現在の20代〜40代未満の層の多くは、漠然とした不安を抱えているでしょうし、その漠然とした不安は徐々に現実的な心配に変わっていくかもしれません。
少しずつ、資産運用や経済の動きを学んで実践していく必要性を感じ、20代〜40代を中心に動きが出てくる可能性はあると思いますし、適切なリスク資産の保有を進めることは個々人にとっても生活設計上でより重要性が増してきています。
20代〜40代の金融資産割合は少ないので、マクロ的にはインパクトは小さいかもしれません。ただし、20〜30年という長い期間を経て、相続等により個人金融資産は現在の20代〜40代へ移転していきます。
若い世代にとって、「リスク資産」と向き合うことは、必要性も意義もあるのではないかと思います。
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ラベル:個人金融資産