セッションの主な目玉は下記の3つ。
・超合理的ETF活用術 山崎元さん(楽天証券経済研究所客員研究員)50分
・ETF投資入門〜投資を始めるなら、まずETFを考えてみよう〜 太田田創さん(株式会社GCIアセット・マネジメント チーフ・マーケティング・オフィサー)
・世界経済・日本経済と市場展望 武者陵司さん(株式会社武者リサーチ代表)
他は、運用会社の各社からのプレゼンテーションです。
特に、武者リサーチの武者陵司さんの講演は、アメリカ経済と中国経済の現状と中長期的見通しをロジカルかつ分かりやすく、様々なデータを用いて検証したもので、経済状況を見る上で参考になるところも多く、非常に良かったです。
講演の内容について一部メモしましたので本記事にて共有いたします。
○超合理的ETF活用術 山崎元さん(楽天証券経済研究所客員研究員)50分
「ほったらかし投資術」の著者でもある経済評論家の山崎さんの講演は、インデックス投資ナイト以外では初めてお目に掛かりました。本業でのお立場と楽天証券主催ということもあり、インデックス投資ナイトの登壇時と比べ「ややマイルド」な姿勢だったことが個人的にはウケました。もちろん、歯に衣着せぬ物言いは健在の範囲です。
まず、ETFとは、
E いい、
T 手数料の
F ファンド
というオヤジギャグからスタート。
・近年普及が進んでいるファンドラップについて
ファンドラップは販売会社の手数料稼ぎのためのツールであり、ETFの組み合わせで疑似ファンドラップを組むことは簡単で、同じような運用内容であれば、毎年1%を超えてETFが有利ということが確実な差がある。
ファンドラップという提案は、コストも劣悪で、金融機関に他人が取るべきリスクが分かるわけがないし、マーケットタイミングをみて収益をあげられるのか疑問だというのが山崎さんの見解。
また、ラップ型バランスファンドは買うべきでない、買うことが合理的ではないと言います。
*ファンドラップのコストと運用が不利になる点は当ブログでも検証しております。
・ETFの優位性のポイント
・ETFは安価で便利な運用の部品 −売り買いできる分散投資がETF
・手数料差は確実かつ大⇒低コストなETF以外のファンドを勧めるアドバイザーは怪しい(手数料稼ぎのための邪な意図がある)
運用商品のリターン=市場リターン+運用スキル−手数料
→市場リターンは共通、運用スキルは評価不能、手数料は確実な差である。
→運用スキルは過去の実績と将来の成績は相関しない。手数料1%を超えるアクティブ運用のファンドは検討する必要がない。公募投信5000本の99%の商品は検討に値しない。(間違ったことを言っていないと思うが、これを言うと金融業界の友達が減っていく)
・国内上場のインデックス商品(ETF、インデックスファンド)
国内上場の外国株式ETFが投資適格な対象になった
海外ETFは売買手数料・為替手数料の関係で使いずらい
国内上場の外国株式ETFにも長所がある。例えば、1680(上場MSCIコクサイ株)は資産残高100億を超え運用が安定している。 ⇒ほったらかし投資術の最後の章では、先物を使う方が配当に対する課税を軽減できるのではないか(裁定が働いていれば)という点も解説している。
DC専用ファンドがリテール向け販売され。楽天証券が取り扱う三井住友・DC全海外株式インデックスファンドは0.25%の信託報酬で、ETFに匹敵する低コスト。積立投資に使うのに適している。
・個人の金融資産運用のポイント
投資家のタイプ、資金使途はよく語られるが、意味がない。資産運用はお金を増やすことで、使い道は後から選ぶことができる。最適なポートフォリオから、リスクがどうなのかを考えればいい。
商品の種類ではなく、リスク資産への投資額でリスクを認識し、最適な運用になる。
資産運用全体の合計を最適化する。証券会社の口座、確定拠出年金、NISAと口座別に考えない。
適切な場所(口座)に運用商品を割り当てる。
・日本の長期金利の低下
長期債には金利上昇リスクがある。長期金利の低下余地が乏しく、株式と債券の補完効果が働かない。
7/22政府発表の長期金利想定は、2015年度 0.9%。2016年度 1.4% ・・と経済再生を前提に上昇見込みになっている。ベースラインでも2019年度にかけて2.0%へ上昇していく見込み。
個人の無リスク資産は、現金及び国内債券。国内債券は個人向け国債変動金利10年満期型がいい。(*個人向け国債は元本保証の商品設計になっています)
金利が上昇してきてバランスシートがおかしくなる銀行が出てきてもおかしくない
いきなり目標リターンを決めてはいけない。リスクを議論した上で決めるべき。
・リスク資産と投資額の決定
最悪の場合にどれくらい損をしても耐えられるかを考える。
「360」 65歳から95歳まで30年360ヶ月。360万あれば月1万円ずつ多く取り崩せる。360万の損は、老後の取り崩し額が月1万円減ると思うとイメージが出来るのでは。
個人のポートフォリオ計算例は、リスクは過去10年のデータ、期待リターンは機関投資家運用計画等より作成をし、リスク資産部分のリスク・リターンの計算例を示しています。
国内株式 12.97%、東証REIT 4.8%、先進国外株 26.13%、新興国外株 7.58%、個人向け国債 48.52%の配分で、期待リターン 2.7607%、リスク 8.566%。
リスク資産部分のみ大まかに、国内株式 30%、東証REIT 10%、先進国外株 50%、新興国外株 10%で、期待リターン 5.1%、リスク 16.4%。
・ETF、今後の期待
1.アクティブ運用のETFの本格的登場→数料を下げた良心的なアクティブ運用商品をETFで出してくること(投信で手数料を下げると自社商品との競合が起こる)
スタイル固定型(スマートベータを含む)、裁量運用型、両方に登場予知がある
2.長期投資商品としての認知
3.もう1段の手数料競争
4.外国株の配当処理の進化
○ETF投資入門〜投資を始めるなら、まずETFを考えてみよう〜 太田田創さん(株式会社GCIアセット・マネジメント チーフ・マーケティング・オフィサー)
2008年にETF投資入門という本も上程している太田さんより。タイトルの通り、ETFについての入門的な解説です。
太田さんが2000年代前半からETFに注目していた理由。
1 日本最古のETFは「日経300株価指数連動型上場投資信託」で、1995年5月に登場。世界最古のETFはカナダのTIPS35で、1990年3月に上場。日本でも5年後から早くもETFはデビューしている。
2 2001年7月に5本のETFが東証に上場
3 個別株投資は醍醐味があるが、万人向けではない
4 インデックスファンドは基準価額のみで買付/解約する。(場中の値段で売買できない)
5 販売手数料がなく、信託報酬も低率(売買委託手数料は別途必要)
6 アクティブファンドのα(アルファ:超過収益)獲得の不確実性。
超過収益の源泉は個別株調査だが、IT化の進歩に伴い、情報格差・非対称性が低減する中、以前と比べ企業調査そのものが超過収益の創出に有効なのか議論は尽きない。不祥事(東芝やフォルクスワーゲン)を事前に知り、先に売ることは不可能
7 日本株アクティブファンドのうち、継続的にベンチマークを上回れるのは全ファンドの2割程度。確実ばβ(ベータ:市場平均値)獲得がより重要に。
8 2006年前半当時、NY上場・iShares MSCI Japan ETF(EWJ)の出来高が、NY市場でベスト5に入っていた。
個人的に参考になった点は、2015年4月以降現在の米国ETFの資金流出入のトップ10です。ランキングを見ると、先進国株への流入が多く、新興国株・エマージング債、米国REITからの流出が目立ちます。マネーフローを見る上で参考になりますね。
ETF.comというサイトで、ETF ANALYTICS&DATA > ETF fund Flows で確認できます。定期的にチェックしていこうと思いました。
SPY(SPDR S&P 500)は流出が目立っていますが、ユニットトラストインベストメントという 時限性(有期。ただし、2100年以降)がある仕組みで、また、配当の処理の問題で不利があり、バンガードのVOO(Vanguard S&P 500)に資金が移っているそうです。
最後に、GCI エンダウメントファンド(成長型/安定型)の紹介をしていました。
(参考)2015/8/1 [感想・書評]エンダウメント投資戦略 山内英貴/著 ハーバードやイェールが実践する最強の資産運用法
○世界経済・日本経済と市場展望 武者陵司さん(株式会社武者リサーチ代表)
1番役に立ったセッションです。以下、書き起こしです。
目先のマーケットには強気。来年前半にかけて大きく押し上げられるだろう。
理由
・中国は危機的状況にあるが、当面は当局の政策対応により表面化しない
・来年の先進国経済はかなりいい
原油価格下落は先進国(石油消費国)にボーナスをもたらす。原油価格下落の経済効果は1年8ヶ月のタイムラグがあり、好影響を与えるのはこれから。
原油価格下落は日本は1.7%のGDP押し上げ効果がある。
向こう1〜2年を展望すると、中国がリスク。どのような形で顕在化するか分からないので警戒が必要。
長期を考えると非常に明るい。日経平均がオリンピックの頃に4万円になってもおかしくない。日米とも長期的な株価上昇トレンドが予想される
40か国世論調査では、世界の平均は中国がスーパーパワーになると考える人が多い。
世界の常識は中国の時代である。
グローバル経済を見るには、今、アメリカで何が起こっているか。今、中国で何が起きているか。を考えることが重要。
アメリカで次々とイノベーションが起きてくるのではないか。
時価総額トップ10のうち5社はIT企業。アップル、グーグル(アルファベット)、マイクロソフト、アマゾン、Facebookで、新しい産業の企業たちである。
中国の成長は3つのフリーランチに支えられていた。
・市場アクセス(契約や財産権が中国内ではないが、海外で自由に獲得出来る
・技術(模倣、盗むなどして獲得して世界に売っていった)
・資本獲得(世界の余剰資本が一気に流れ込んだ
→これらが全て転換点にきている。
中国の繁栄は過去。アメリカのイノベーションは将来にわたって起こる。
アメリカ経済について
好調な企業収益。景気が相当いい。ゼロ金利が続いているのは雇用情勢。失業率の低下は臨時雇用によるもの。賃金上昇がみえていない。労働需給が不安定
お金が余って空前の低金利。2%の長期金利。企業業績が好調なのに資金借り入れで投資が起きない
労働分配率の低下(労働者に給料を払っていない)が企業業績の好調の背景。
企業で資金余剰が起きている。資本余剰。設備資本投下資金の劇的な低下。投資を節約可能になっている。儲かるけどカネが余る。海外の収益は海外に溜まり、アメリカ国内の賃金アップに反映されない
IT化による劇的な生産性革命が1番の理由ではないか。
労働と資本の余剰を活用することにより、経済の規模を拡大させることができるか。
需要創造が大事。民間消費支出/GDPの割合は増加している。
生活水準の向上により吸収する能力があるのがアメリカの強さ。
アメリカと真逆が中国である。
消費が減り投資が高まっているのが中国。
総固定資本形成/GDPが主要国の中で高い。支出の資産計上による将来への繰り延べが投資。すぐに需要を増やせるがコストは後払い。きちんと稼働しなければ不良資産になる。
住宅→過剰な住宅が大都市周辺に連立 既に住宅投資は低下傾向。今後劇的な低下が予想される
設備投資→極端な投資をしてきた。典型的なのは鉄鋼。世界の粗鋼生産のシェアを一気に拡大。先に説明した3つのフリーランチがあったから。あらゆる分野で今や設備余剰を抱えている。
インフラ→唯一、公共投資が成長を支えていたが、息切れ状態。
これらから、中国は負の後遺症を抱えている
投資による成長は投資額が増えていかないといけない。中国の投資はこれから収縮していく。経済規模が小さくなることすらあり得る。
消費で成長するためには労働分配率の上昇、貯蓄率の低下が必要。今の中国で起きるかというと難しいのではないか。将来が厳しくなる中で貯蓄を減らして消費が増えるか。
中国の危機が今起ころうとしている。15年8月からのマーケットの背景。
過大投資をもたらせた背景
投資採算により投資を抑制する機能がない。共産主義だから。アクセルしかない。
燃料(マネー)がたっぷりあった。外貨準備の増加がマネーの増加の理由。中国のマネーの供給は外貨で可能になってきた。
最近、中国の外貨準備が減っている。中国は経常収支の黒字があるので外貨準備が減っている。これまで中国に入っている資金が流出していることが窺える。
日本の外貨準備1.2兆ドル(世界2位)。中国は3.9兆ドル。中国は莫大な外貨準備がある。
対外純資産が重要。日本3兆ドル。中国1.78兆ドル。中国の外貨準備の半分以上は借金である。中国の外貨準備は張子の虎。外貨決済の余力がなくなり機能停止に陥るリスクがある。
中国の外貨準備は海外からの借金。民間の外貨保有を認めていないので、中央銀行が外貨を吸い上げる。民間からの資金流出があると外貨準備が減る。
現在、空前の金融緩和の最中。
人民元は弱くなる。中国に投資していた華僑資本が中国から逃げていく。急激に起きて人民元暴落が起きると危機が起きる可能性がある。中国は資本規制を厳しくしたりしているが、いつまでもつか分からない。
労働者の生活を良くすることにフォーカスしてこなかった。規模を大きくして威信を強めることにフォーカスしてきた。
中国の衰弱で恩恵を受ける国もある。インドやベトナム。日本やメキシコも恩恵がある。
世界の生産を独占していた中国が弱くなると他の国に波及する。
異常に低い金利による先進国の消費拡大がある。
生活水準の向上 技術革新により、いずれ、人間は頭を使って労働する必要がなくなる。
レジャーで頭を使う。今後、レジャー産業が盛り上がる。
中国がこけても、人類繁栄のトレンドは変わらない。
日本はどうか。
空前の順風が吹いている。
日本の株式市場は大きな繁栄と下落を繰り返してきた。波がある。地政学的理由ではないか。スーパーパワーとの付き合い方が日本にとって重要になる。
冷戦の終結により、優等生から落第生になった。自動車と電気の繁栄がアメリカのおかげだった。アメリカから導入した技術でアメリカで売っていた。アメリカあっての戦後の繁栄が90年代。半導体シェアは90年の50%から20%に。
日米同盟の終結により戦後の繁栄が破綻した。
韓国・台湾に取って変わられた。失われた20年の最初の10年。
今、日本は復活している。
日本は新しいモデルが確立された。
価格重視から品質優位。スマートフォンの部品。
中国vsアメリカという対立軸で、地政学的な有利な配慮が日本にもたらされる。円安の容認などが典型。
大事なことは、価値がどのように作り出されているか。価値創造のメカニズムの健全性・持続性。
今の日本には価値創造の健全性・持続性がある。
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