2015年8月6日に東京・八重洲で行われた出版記念セミナーに、大江さんはテンポの良い口調でお話がお上手で面白いので、どんな内容が離されるのかなと思い、ふらっと参加してきまして、「書籍付き」で参加したので本書を入手しました。
投資賢者の心理学 ―行動経済学が明かす「あなたが勝てないワケ」
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大江 英樹
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 1,103
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 1,103
初版発行日 2015年7月15日
全255ページ ・ソフトカバー・日本経済新聞出版社
大江さんは、行動ファイナンスへの関心があり、本書は、一般の個人投資家が陥りがちな投資の落とし穴について、行動ファイナンスの観点による解説を織り交ぜながら、投資・金融全般について広く解説がされています。本書では、投資や資産運用がメインテーマですが、一部では、保険・年金についての心の罠についても解説されています。
行動ファイナンスとは、伝統的な経済学のように非人間的な面のあるモデルに基づいた考察から、実際の人間による実験やその観察を重視し、人間がどのように選択・行動するかを心理的な側面などを含めて現実の経済行動をもとにして探究する学術分野で、近年のファイナンス研究でも重要分野になっているものです。
本書の内容は良い意味で「極めてまっとう」なもので、ほぼ、違和感のある解説などもない良書であると思いました。投資についての幅広いテーマが扱われていて、分かりやすく、一般の個人投資家が投資についての心構えを学ぶ入門編としては非常にお勧め出来る内容です。全体的に投資初心者向けにとても分かりやすく書かれていると思います。少しだけ専門用語が解説なく飛び出してくるところはあり今まで何も投資を学んだことがないレベルだと分からない単語があるかもしれませんが、全体的な本書の内容を理解する分には問題ありません。
資産運用を始めて間もない方、投資での失敗経験がある方、対面の金融機関から投資信託をお勧めされていたり実際に対面での金融商品を購入している方、年代は退職世代から現役世代まで幅広い年代の方々が、主な本書の対象者と想定されます。
投資の心構えと心理的な罠がテーマなので、経済動向や資産運用の具体的な方法論の解説や商品の選び方やその解説はありません。本書の内容が身に付いて、パフォーマンスを上げるためというよりは、人任せだけにせず、自己責任で資産運用を実践で続けていき、失敗を避けるためには必須であると言えます。
「人任せにせず」というのは、プロからアドバイスを受けることは多くの一般の人々には必要かもしれませんが、良し悪しの最低限の判断と最終的な責任を自分で取れるくらいの金融リテラシーを身に付け、金融機関の言うがままに金融商品を購入して失敗しないための知恵を持っておく、という意味です。
投資や資産運用の実務経験が深く、行動ファイナンスについての本を読んだことがあり、例えば、プロスペクト理論、ヒューリスティック、近視眼的行動などの行動ファイナンスで出てくる言葉を既に十分に分かるようなレベルであれば、特に目新しい事はないとも言えます。
私には特に新しい発見は特段はありませんでした(目新しい発見がないことを確認するというのも時として大切な作業です)。
厳しめに言うと、資産運用の経験が浅く、本書を読んで「目からウロコだ!」と思う方は、投資信託などの購入時においてはいきなりリスクを取りすぎず慎重に経験値を上げていく方が良いかもしれない、というのが率直な感想でもあります。(「プロスペクト理論」は、知っていてもハマってしまう心の罠です。)
著者の大江英樹さんは、野村証券で証券営業や確定拠出年金の導入支援などに従事され、退職後、オフィス・リベルタスを設立され、執筆やセミナーでご活躍されています。
本書でも、証券会社での営業マン時代の微笑ましいお客さんのやり取りの逸話が、多くはないですがいくつか出てきて、面白いところであります。
一方、証券会社の対面営業に対しては悪く書かないようかなり配慮しているように見受けられました。証券マン自身も心理の罠にはまってしまっている、金融の販売員は営業のプロであって金融のプロではない、などの厳しい記載はありますが(そんな出来ない子の顧客はかわいそうですがw)、「お客さんが儲からないと商売が続くないのだから営業セールスはみんなお客さんの利益を考えている」というのが主な主張で、対面の金融機関の現場では、顧客の長期的な利益よりも目の前の手数料稼ぎが重視されている点、顧客の利益と金融機関(販売会社)の収益モデルの構造的な利益相反については本書内では言及は控えられているように見受けられます。
八重洲で行われた出版記念セミナーは、本書の内容とリンクしていて、本を読む前に解説を聞くような感じになるので、理解が進みやすくなり、このような出版記念セミナーというのは読者サービスとして良いかもしれません。
10分くらい開始から遅れて行ったら既に満席で、うしろの空いている席に座ったのですが、大江さんはマイクをお持ちでしたが、マイクの音声が入っていないように感じ、少し聞こえにくかったです(笑)。
本書の内容とリンクしているセミナーでのトピックは下記のようなものでした。セミナーの様子は、ゆくにゃんさんのブログ「肉食女子の草食投資」の「「投資賢者の心理学」出版記念セミナー 大江英樹さん」にて写真付きで紹介されています。
トピックの選び方が「あるある」としてはよく選んであり、参考になるなと思いました。
○投資の世界は勘違いにあふれている・投資で考えがちな常識のウソ
・長期投資はリスクを低減する
・ドルコスト平均法は最も良い方法である
・今、買わないと持たざるリスクがある
・定期預金ではインフレに勝てない
・下がったからナンピンしなきゃ!
・退職金で投資でも始めよう!
勘違いで起こりやすい3つの理由
1.「勘定」でなく「感情」で判断するから
2.損得の結果がすぐに出るから
3. 損をすることが、あまりにも嫌いだから
○資産運用 こう考えてはいけない
・資産運用は金融のプロに相談しよう
・初心者向けにはどんな商品がいいの?
・今 買っておかないと「持たざるリスク」がある
・サラリーマンはお金持ちにはなれない
・投資の儲けは不労所得
○なぜ、株式投資でなかなか儲からないのか
・買い値にこだわる残念な心理
・10勝1敗でも儲からない
・証券会社の営業マンに対し「本当は儲かる株、知ってるんでしょ?」
・みんな、どうしてるの?
・今回だけは違う
○投資信託
・基準価額は判断基準ではない
・テーマ型投信、買ってはいけない
・「信託財産留保額なし」は良いことか?
・分配金に対する誤解
・混ぜるな危険(通貨選択型などの複数階建ての投資信託)
○どうすればいいか?
・心の命ずるままにならない仕組み作り
・ルールを決める
・体験する
・見た目に惑わされない
・他人を気にしない
内容が気になる方は、是非本書を手に取ってみるといいでしょう。
また、本書の目次は水瀬さんのブログ・梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)の「「投資賢者の心理学」は、投資家が「心の落とし穴」にハマらないための解決策まで書かれた行動経済学本」にて紹介されています。
投資賢者の心理学 ―行動経済学が明かす「あなたが勝てないワケ」
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大江 英樹
日本経済新聞出版社
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また、行動ファイナンスについては、マッテオ モッテルリーニ氏の著書「経済は感情で動く―― はじめての行動経済学」のあたりが分かりやすくて面白く、日本で行動ファイナンスが伝えられた一般書の走りでもあると思いますので、合わせてお勧めです。
経済は感情で動く―― はじめての行動経済学
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マッテオ モッテルリーニ
紀伊國屋書店
売り上げランキング: 10,665
紀伊國屋書店
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世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
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マッテオ・モッテルリーニ
紀伊國屋書店
売り上げランキング: 52,561
紀伊國屋書店
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