2015年05月30日

トヨタ自動車の優先株は日本債券クラスを代替する投資対象として適しているんじゃないかと思った件

日本を代表するあのトヨタ自動車(7203)が優先株「AA型種類株式」を5000億発行することが少し前から伝えられています。
この優先株ですが、ニーズにマッチする一部の人にとっては良い投資対象なのではないかと思っています。

簡単な概要は、下記の通りです。
・非上場だが議決権を持つ。
・発行後5年間は譲渡や換金ができない。
・発行価格は決定日の終値に20%超上乗せした価格。
・おおむね5年目以降は普通株への転換あるいは発行価格でのトヨタへの取得請求ができ、株価が下落するリスクを軽減できる。
→株価が下がった場合はトヨタが元本での買い取りをします。株価が20%超値上がりすれば、普通株に転換してキャピタルゲインが狙えます。優先株での保有を続ければ2.5%の配当は得られ続けることができます。
・議決権はあり。
・配当は発行後、段階的に増える。発行価格×配当
発行日が属する事業年度: 0.50%
2事業年度目: 1.00%
3事業年度目: 1.50%
4事業年度目: 2.00%
5事業年度目: 2.50%
6事業年度目以降: 2.50%
・残余財産の分配は、一般債権者に劣後し、普通株主に優先
 →トヨタが倒産した場合、紙くずになることが想定されます。(倒産する場合には債権者への分配以上は望めないため)

・トヨタの説明資料
AA型種類株式に関するご説明資料
http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20150428/997c6n/140120150428454511.pdf
AA型種類株式に関するQ&A
http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20150428/997c7e/140120150428454538.pdf
トヨタ自動車、中長期保有を前提とした「AA型種類株式」の発行に向けた手続きを開始
http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/7764179

2015年6月の株主総会で決議により発行が正式に決まってから、「必要な条件が整い次第、市場環境等を勘案し」発行する予定のようです。今年(2015年)の夏頃でしょうかね。

私の所感としましては、長期安定運用を考えるのでしたら、日本債券クラスの代替商品としていいではないかなと思いました。
株価が下落した場合の元本での買い取りをしてもらえるので、優先株という名称ですが、債券、とりわけ「転換社債(新株予約権付社債)」という意味合いの方が強いです。発行後、数年間の利回りは低いですが、現状の日本での国債長期金利が0.5%を下回っている状態を考えれば、利回りが低いということはありません。
「発行後5年間は譲渡や換金ができない」というのが最大のネックですが、一定期間の流動性を犠牲にして、高い確度で(トヨタの信用リスクで)、5年経過後は2.5%+αのリターンが期待できるのであれば、悪くないのではと思います。
いざとなったら証券会社が買い取ってくれる手当は出来るのかもしれませんが、流動性がないので参照価格が出ないわけですから、元本で買い取ってもらうよりも買いたたかれる気はします(笑)。
5年超放っておいても構わないという資金の運用先であれば、個人向け国債より良いという判断もあるでしょうし、日本債券クラスがここまで金利が下がってくると利回りも低下しきっている中、金利上昇リスクをヘッジしたいというのもありです。金利上昇については日銀バズーカの弾薬が残っている間は大丈夫とみんな思っているでしょうが、いつかは分からないがどこかで金利は上がっていくはずで、5年もつのかどうかは誰にも分かりません。
5年待って金利が上がっていて(かつ、日本に信用不安がなければ)トヨタ優先株から日本債券に戻せばいいし、低金利で2.5%以下の長期金利のままならトヨタ優先株を持ち続ければいいし、株価が20%以上がっていたらラッキーも付いているというわけです。

トヨタの信用リスクを負いますが、なにぶんトヨタですので。トヨタが倒産したらどうしようかと心配するなら、他に心配することがたくさんあるでしょう。
5年間の流動性がないのと、トヨタとは言え信用リスクがありますから、過大な資金を投じるのはもちろんやめておいた方がいいでしょう。
配当率で予定されている利率以上のインフレが起こると実質価値が目減りすることにはなりますので、5年以内にハイパーインフレが日本で起こると信じる人は買わない方がいいでしょう。

私が1番良いと思っている点は、流動性を犠牲にはするものの「元本保証」であるということで、(うちの親みたいな)初心者や投資に慣れていない人に適しているではないかということです。損する心配が(ほぼ)ない、というのは大きいです。
似て非なるものとして、最低なのは仕組債で、多少の利回り(2〜4%くらい)とそれなりに高い可能性で元本が返ってくるように見えて、何かが起きた時に大損するような危なっかしいものを、初心者に「何かは起きない」と思わせて売りつけて、金融機関がしこたま手数料を抜いて儲けるという構図で、投資家にリスクを押し付けるものです。(売り方が悪いと訴えられますけど、それもそれで、自己責任の世界でちょっと説明が悪かったといって情弱救済というのはどうなんだというのはまた思うところでもあります)

良い話に罠はないのかと、気になるのはトヨタの今回のAA種優先株発行の目的ですが、「次世代技術のための研究開発資金の調達にあたっては、研究開発投資が当社の業績に寄与するまでの期間と、株主の皆様に当社へ投資していただく期間とをできるだけ合わせることが望ましいと判断し、中長期の保有を前提とした議決権のある譲渡制限付種類株式」を発行することにした、「中長期保有によるガバナンス効果を経営に取り入れることで、中長期の視点でトヨタを支えトヨタとともに歩んでいただける株主様に報いる株式をご提案するものです。持続的成長と未来への挑戦に向けて、バランスのとれた経営を推進し、さらなる中長期での企業価値の向上を目指します」と公式資料での説明がされています。
このAA種優先株は、個人向けをターゲットにしているそうですし、長期ホールドしてもらう個人株主を確保したいというのが建前ですが・・
だいたい、こういう公式見解の文章は建前が優先され、本当の目的は分かりませんが、トヨタから見て普通株式よりも資本コストで有利だという検討は絶対にしているはずですし(株価下落時の元本買い取りリスクを考慮しても2.5%の利回りなら違和感はないような)、株主の平均保有期間とか分布図とかの分析をして長期保有の個人株主を本当に広げたいと思ったというのも一側面であるのかもしれません。

日本ではこういった優先株が発行されるのは珍しいので、投資家目線で妙味のある投資対象がトヨタを契機に広がることも期待したいですね。
日本で優先株を上場しているのは唯一、伊藤園のみです。伊藤園の優先株は研究したことがありますが、この記事はここまでで。

【関連記事】
・2014/12/27 アベノミクスの行く末と、個人投資家としての中長期の投資スタンスを考える
http://money-learn.seesaa.net/article/411362434.html
・2014/12/29 銀行の投信販売現場に行ってきました。親が銀行のお客様(上カモ)だった!(その1)
http://money-learn.seesaa.net/article/411474440.html



【関連する記事】
この記事へのコメント
これは、エクイティ・ファイナンスになるので、普通株に転換されれば、1株利益の希薄化にもなり得そうです。

配当については、普通株が5年後には大きく増配している場合は、普通株に転換した方が高い配当が得られるケースもありそうです。
その場合は、次のXX経済ショックに注意が必要ですね。
Posted by タカちゃん at 2015年05月30日 22:29
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック