2015年05月03日

[感想・書評] 低欲望社会 大前研一/著

大前研一氏の2015年春の新著「低欲望社会」を読みました。
個人的には非常に良かったです。同氏による「どうしたら日本を良くできるか」という視点からの提言は、日常生活で狭まった視野を広げ、目線を上げ、これからの日本はどうなっていくかということを考える一助になりました。
従来から大前研一氏の論説等をウォッチしていれば、かねてからの議論の延長と言うか、一貫しているものですが、アベノミクス時代の日本の抱える根本的な問題についての大前氏の視点や、安倍政権の政策を酷評しており、日本の現在の政策の数々の問題点と処方箋の主張は参考になります。
提言のまとめや本の執筆自体は優秀なブレーンがいるのでしょうが、70歳を超えて、旧態依然としている各制度の問題点について現代に即した様々な方策を提言したり、現在導入・議論されている政策を指摘し、権力におもねることなく批判的に自分が正しいと考えることを説き続けるパワーはやはり凄いなという素直な感想も持ちました。

低欲望社会  「大志なき時代」の新・国富論

小学館
売り上げランキング: 30

初版発行日 2015年4月28日
全285ページ ・ソフトカバー
目次
はじめに 「坂の上の雲」を見なくなった日本人
第1章<現状分析> 「人口減少+低欲望社会」の衝撃
第2章<政府の限界> 「アベノミクスショック」に備えよ
第3章<新・経済対策> 「心理経済学」で考える成長戦略
第4章<統治機構対策> 今こそ「国の仕組み」を変える
おわりに 日本が変わる最後のチャンス

本書の内容は、2014年12月11日に行われた大前研一主催の勉強会「向研会」の模様の下記の動画と大よそで整合しているものになりますので、興味があれば参考になると思います。


・「低欲望社会」とは
大前氏によると、日本は「低欲望」になっていて、どんなに経済政策をしても消費が増えることにはつながらず、欲望を刺激するよう心理に働きかける政策が必要だと説いています。
「低欲望社会」を象徴することとして、現在の超低金利でも住宅取得にも飛びつかない20代・30代の若手・中堅世代が「物欲・出世欲喪失世代」となっていることを挙げています。
その要因としては、いくつかの分析がされています。就職氷河期や非正規雇用の拡大により平均所得が減少し、パラサイトシングルが増えて家の中に籠るようになった、女性も実家に住んで親の生活レベルがスタンダードになって結婚して生活レベルを落とすのは御免なので男も倹約して貯蓄に励み消費をしない、コンビニの普及により1日1000円あれば生きていける社会の中で育ったために強い上昇志向がなくても生きていくのに困らない、バブルを謳歌していた親の世代は表面的には派手な生活をしているように見えて結局は住宅ローンの返済に追われて現実にはハッピーそうではない、といったことが挙げられています。結果、自動車も欲しくなければ高級ブランドも買わなくなる、といった結果が消費低迷になっているとしています。
本書では、これらの世代の消費を刺激したり、どうやって全体の所得を増やして「欲望」を刺激していくのか、といった具体的な処方箋はあまり示されていないようにも感じます。マクロ的には、若年世代の可処分所得を増やすこと、どんどん消費をしても将来は安泰だと思えるようにしていかなければなりませんが、ピンポイントの政策はなく、日本全体を根本から「国の仕組み」を変えていくしかないということなのでしょう。

・日本の最大の問題は「人口減少」
大前氏は、日本の最大の問題は「人口減少」であり、デモグラフィ(人口統計学)に基づき日本の労働力人口は増えずに高齢化だけが進むことが確実に予想できるのだが、それを克服するための抜本的な対策を何も打っていないことにあると説きます。
日本の戸籍制度が結婚せずに育てていくシングルマザーという選択肢を取れないようにしているので、フランスや北欧のようり事実婚が社会的に認められるよう制度改革していくべきである、労働力人口の減少を補うための移民政策をすべきである、という点が指摘されていますが、これらは既に1993年の「新・大前レポート」で言及し、大前氏も省庁に何度か掛け合ったものの、結果的には全く何も変わっていないということです。

高齢者や女性の活用が喧伝されていますが、これだけでは足りず、出生率をいかに上げていくか、移民受け入れを有効に行っていくべき・優秀な外国人人材が日本に来るような政策を打つべきである、ということが分析されています。

しごく全うな分析であると思いました。アベノミクスの先、「長期的な視点での日本の姿」についてはもっと議論や対処が必要でしょう。
しかし、日本の政治家が移民政策について語ることもタブーのようですが、なぜなんでしょうか?

・アベノミクスは成功しない
「黒田日銀の異次元金融緩和に出口はないと思う。もし黒田総裁が出口を見つけられたら、まさに天才と呼んでいいだろう」(p105)と指摘し、日銀の国債買い入れにより金利上昇による国債暴落のリスクを抱え、日銀が爆発するか、経済が劇的に回復して現在の異次元緩和が終えられるのが先かというチキンゲームは、ハッピーエンドを迎えられる可能性は低いというのが大前氏の見解となっています。

<アベノミクス3本の矢の問題点>(p97より)
○第1の矢 大胆な金融政策(金融緩和、インフレ目標)
・緩和マネーが貸出増加につながらない(低欲望社会)
・国債買い入れにより日銀の内部崩壊リスクが高まる
・円安によるデメリット
○第2の矢 機動的な財政政策(公共投資、国土強靭化政策)
・過度の公共工事で人手不足、資材高騰というマイナス面ばかり目立つ
・財政は悪化の一途
○第3の矢 民間投資を喚起する成長戦略(地方創生、特区、女性の社会進出)
・財政悪化を伴うバラ捲き政策
・特区など、お目こぼしの規制緩和策ばかり

・個人投資家として考えること
大前氏ご自身は、金融や資産運用のスペシャリストではないので、個人的には防衛策等については少々浅いところを感じますし、本論ではありませんが、投資や資産運用についても一部言及されているので、ここで挙げておきます。
私としては、あくまでも、大前氏のアベノミクスの評価や、大前氏の指摘するような根本的な政策的な課題への解決はなるほどと思うところはありますが、とは言え、現実的には、抜本的な改革にはそれによる利権を失う人の抵抗や、長期的なビジョンを掲げて討ち死にする覚悟で改革に取り組むリーダーが不在の中、そうなると日本の先行きは長期的にどうなっていくか、という点について、どのように見通しを自分の中で消化していくかが重要と考えます。

本書では、株を持っている個人は、アベノミクスの失敗により「いつか必ずやってくる」株価の暴落にどう備えるべきかという点について指摘されています(p148--149)。
・株価上昇局面ではインデックス買いで良いが、日経平均が暴落したら逃げられないので、株式投資の基本を忘れず、PERやEBITなどの指標で個別銘柄を選んでいれば大やけどはしないはずである。
・もっとシリアスな国債暴落というシナリオに備えるなら、インデックスだけでなく、インフラ銘柄などもリスクが高い。より消費者に近い食品業界や日用品業界の強い会社を買っておいた方が賢明。
・下落局面に備えて投資の「3分法」を頭に入れておくべき。「やばいな」と思ったら3分の1を売り、下がり始めたらさらに3分の1を売り、大きく下がってきたら最後の3分の1を売る手法。
・「アベクロバブル」がはじけた時に逃げ遅れないためには、嗅覚の鋭い外国人投資家の動きを注視する。

また、「国債の暴落もカウントダウンが始まっている。これは、予言でも何でもなく、暴落は必ず起きる。前述したように、今後の人口減少で、日本の借金を返すべき人間がいなくなるのだから、その国債をいつまでも持っている訳にはいかないだろう。ゆえに、いつになるか ―明日か、数年後か―はわからないが、起きることは避けられない」(p54)と大前氏は言います。
国債暴落に伴うハイパーインフレの可能性についても現実的にあり得るという見解であり、ハイパーインフレで地獄を見るのは年金受給者などで、カネの価値が下がっても受け取る金額は同じである決まったお金で生活するしかない人々だと指摘しています。
<ハイパーインフレになった場合の影響と対策>(p151)
・年金受給者
決まった額で年金を受給するため購買力減・預金の価値現→資産を不動産・株などへシフト
・働き盛りの若い世代
住宅ローン負担は減少、給料は少し遅れながらもインフレ率にスライドして上昇→リストラや倒産に備えて個々の稼ぐ力を磨く(自己投資する)
・企業
手元資金が紙屑化するリスク・借金負担が軽くなる→手元資金を将来に向けて有効に活用する(設備投資・研究開発・M&A)

アベノミクスの終焉として、日経平均株価は暴落し(アベノミクス開始前の1万円割れの水準で低迷?)、国債暴落に伴うハイパーインフレは起こるでしょうか。
私見になりますが、「実際に将来起こるかどうか」という備えは、「いつ起こるか」というというタイミングを見て行わないと機会損失が生じますし、なかなか難しいものです。もっとも、働き盛りの若い世代の自己投資は、どっちに転んでもすべきものですが。
ただ、ハイパーインフレという言葉に踊らされるのは注意が必要と思います。ハイパーインフレという言葉は世間を煽るには良い言葉ですが、本書では、どのような期間でどの程度のインフレが起こるかと言う具体的な話はされていません。私としては、景気回復を伴わないいわゆる「悪いインフレ」が起こる可能性はあり得ると思いますが、ジンバブエのような例えでのハイパーインフレは起きないと考えます。せいぜい物価が2倍になれば借金は半分になりますから、何千%とかいう状況は現時点で想定はしずらいと思います。

日経平均は2015年5月には2万円を超え、アベノミクスによる短・中期的な景気浮揚感や好調な企業業績、日銀のETF買い入れやGPIFの株式買い入れ、株式市場の制度改革(企業へのROEの意識付け、外国人投資家に敬遠される要因となっていたコーポレートガバナンス改革)により、強気論が通っています。
日銀の燃料が続くことが見えている「今の時点」では、リスクポジションを最大にしてガンガンに攻めることは今のマーケット環境では短期的な結果論では正解かもしれません。過去2年程度はそれが正解でした。
さらに、例えば日本株インデックスについて調整局面が来たら買おうと思っていても、なかなか調整局面もやって来ません。
投資というのは、「もっといけるだろう」と欲を出した時に痛い目を見ることになります。熱に踊らされるというのは、長期的に勝ち残るには慎まなくてはいけないと思います。私自身は「今は大丈夫だろう」と思いつつも、キャッシュ余剰を持ち、いたずらにリスク資産のウエイトを上げることなく、もし調整局面が来たら買い増そうというスタンスを維持しています。長期的に、日本の政策課題やアベノミクスの終焉のいくつかのシナリオについての想定を考えつつ。

(関連記事)
・2014/12/27 アベノミクスの行く末と、個人投資家としての中長期の投資スタンスを考える
http://money-learn.seesaa.net/article/411362434.html
・2011/1/27 お金の流れが変わった! 新興国が動かす世界経済の新ルール 大前研一/著
http://money-learn.seesaa.net/article/182622844.html

低欲望社会  「大志なき時代」の新・国富論

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