2014年12月30日

銀行の投信販売現場に行ってきました。親が銀行のお客様(上カモ)だった!(その2)

(前回からの続き)
前回の記事: http://money-learn.seesaa.net/article/411474440.html 

○銀行の相談の個室へ
親が「退職金運用の相談」をしに行くということで、休日ののどかな昼下がりに、銀行の投信販売現場へ付いていくことになりました。調査同行です。
場所は、都内某所にある、駅の改札を出て目の前の都市銀行の支店です。実家からはそう遠くなく、大きい支店ではないですが、都市的には上の下ほどのランクのエリアでしょうか。
しかし、銀行に、自ら週末に時間の予約までしてわざわざ行くものなんですね。
まあ、父親は週末じゃないと時間が取れないので、銀行も、週末対応をしないと商売にならないのでしょう。

銀行に資産運用の相談なんて、ふだん私が自分で行くことはないので、ここは勉強させてもらおうと身を引き締めて入ります。

さて、支店に入ると、担当者が2秒で出てきて笑顔でお出迎えです。
週末対応というのも結構あるようで、ブースの相談窓口の方も3〜4席が満席で面談中。で、ブースのところを進んだ個室に通されました。15平方メートルほどの、十分に心地いい空間です。さすが、多額の手数料を払っていると個室になるようです。
ご担当者は、「シニアフィナンシャルアドバイザー」みたいな肩書きの30代前半くらいの女性です。

黙って聞いているという約束なので、私はお地蔵さんです。私も、銀行の商売の邪魔をするのが目的ではなく、実態調査が目的です。
親も、「意地悪な質問とかするなよ」と言うので、本当にいい人です。(銀行にとって)

コーヒーを出してもらって商談開始です。

○NISA口座
まずは、NISA口座を作りにきた、ということで、NISAのご説明。
銀行員「NISAは、投資で得た売却益・配当・分配金などの税金が非課税になる制度です。年間100万の投資が5年間できて最大500万まで投資可能です」とぽんと説明します。
父親も、「年間100万円じゃあんま意味ないですね」とか言いながら、用意してきた住民票を提出します。親が「口座は他に変えられるのか?」と聞くと、「はい、毎年変更可能です」と回答。
あとは、NISAキャンペーンのご説明。
注意点(損失を出しても損益通算できないとか、銀行では投資対象が投資信託だけに限られるので選択肢は狭いですよとか)は、当たり前ですがここでは説明しません。これは、帰り際に、書類を見せながらパパっと説明します。「聞いてるかどうかはともかく説明しました」という体はきちんとやっていますね。聞き流すタイミングを狙っているのと明らかに早口になるのはさすがです。


○毎月分配型投信ってどうなんですか?
そこから、銀行のお姉さんと、朝の朝礼で聞いたような経済動向などの話を受け応えしていきます。
テレビの経済ニュースくらい見ていれば分かるようなソツのないお話です。相手のリテラシーに合わせて丁寧に説明していたと思います。2,3か所、細かいところで事実認識を間違っているところはありましたが、大勢には影響のない程度です。

親が「投資信託の毎月分配金っていうのは新聞とかで良くないっていうのを見るんですが、どうなんですか?」と聞くと、銀行さんは「そんなことありません」ときっぱり。「定期的に決まったお金をお届けする仕組みで、悪いものではありませんよ」「ただ、収益部分と特別分配金というのがありますので、運用報告書をよく見て下さいね」だそうです。
このへんは、最近のメディアの論調もあり、回答のテンプレートがきちんと用意されているようです。
そして、肯定的に言い切るというのが相手の納得感を出します。親は、理由を聞いているのではなくて、「悪いものではありませんよ」というのが欲しかっただけなのですから。正解です。
元本の払戻しを「特別分配金」という分かりずらい言葉を使っていましたが、これが意図的なのか昔からの慣習で言っていたのかどうかは不明です。

○仕組債(日経平均リンク債)
さて、本丸の定期の満期金の次の運用先です。
銀行「今、定期にすると0.0何%ですね」
親「そんだけじゃねえ」
銀行「そうですよね」
ということで、さっと出してきたのが仕組債です。
日経リンク債。大ざっぱな中身は、満期3年ほどで、利率が4〜5%、日経平均が50〜60%くらいがノックイン、早期償還条項あり。
細かい説明は省略しますが、ノックインすると、元本の50〜60%水準の日経平均で返ってくるという商品です。すなわち、元本を大きく減らす可能性があるが、滅多にそれは起こらず、利率が4〜5%もらえるという商品です。
利息が欲しい人に、ノックインは「滅多に起きない」と言ってしまえば売りやすいと言えます。
そして、良いところは、オプションの売りとのセットで、オプションの売り収入と仕組債の利率の差が銀行の儲けですので、いくら抜いているのかが顧客にはよく分からないように出来るところです。
銀行はどれくらい仕組債で利益を出すのか?はよく分かりませんが、以前、証券会社の人から「だいたい3〜4%くらい。最大9%位もありうるけど、それを超えると金融庁検査でヤバいのでやらない」と聞いたことがあります。いずれにせよ、いくら儲けているのか相手に見せないことは大切です。

銀行の姉ちゃんも力が入り、過去の日経平均のチャートを見せながら、「絶対に大丈夫とは言えませんが、リーマン・ショックのようなことがなければまず問題ないでしょう。今は、リーマン・ショックのような大惨事は起きないような体制が敷かれています。」とか言ってました。親は真に受けていました。
ノックインが起きる可能性は確かに低いとは思いますが、2005年に2008年を想像できた人はおらず、2015年に2018年が分かる人はいません。
銀行なので、証券会社みたいにゴリゴリには押してきませんし、来る前に「仕組債はやめてくれ」と言ったのが効いたのか、ペンディングになりました。(既に保有中のものもあるようですが、早期償還になることを願うばかりです)

利回りのためにどういうリスクを取るか、ということで、仕組債が絶対悪とは言いませんが、仕組債は、流動性をなくし大損する可能性があるので、他のインカムゲインを得る投資手段を取ってもらいたいものです。さすがに仕組債を買う話になったら介入しようかと思いましたが。

○私募投信
次に、49名までしか勧誘できませんと言いながら、私募ファンドを出してきました。仕組債みたいな商品設計ですが。これは、親のリアクションがあんまり良くなかったので、あっさり引っ込めました。

○お勧め投信
すると、親が「何かお勧めはないんですか?」という禁断の質問をしました。
銀行のお姉さんも笑顔で「あります。すぐ持ってきます」と席を立ちました。
ここでは、何故か結構待たされました。仕組債しか用意をしてなかったのでしょうかw
グローバルの医薬品セクターに投資する投信と、グローバルREITに投資する投信と、もう1本(印象に残らず忘れた)、お高い3本のパンフレットを持ってきて、販売用資料に記載してある、商品の魅力を説明されました。
ここは、本来は、既存のポートフォリオの中になぜこれらの投信を入れるべきか、という観点が欲しくはありますが、うちの親に分散の意味とか相関とか説明してもどこまで通じるか微妙です。

銀行や証券会社で投信で運用している人のポートフォリオを見させて頂くことがありますが、その時の売れ筋やテーマ型に沿って、じゃかじゃかと とりあえず5〜10本を買って、なぜそのリスクを取り、どういうリターンを期待しているのか、よく見えてこないことが大半です。
運用者(お客さん)自身も、明確な運用ポリシーを持っていません。(←ほんとは、ここをきちんと引き出して、お互いに確認しながら、ポートフォリオを提案するのが対面の仕事!)
で、成績の悪いものは見直しで、良かったものは利益確定して、次の売れ筋やテーマ型に乗り換えられていき、販売手数料が金融機関に落ちていく、という流れになります。

○終了
あとは、既存の保有投信の損益状況の確認です。両親別々に口座を作って、それぞれで運用をしていました。さすが、アベノミクス相場のおかげで、投信の基準価額は上々でした。

だいたいこんな感じで、この日は購入には至らず、「NISA口座が出来たら新しい提案をさせて頂きます!」となって終了しました。
文章が長くなって恐縮ですが、実際に掛かった時間も長かった。所要時間3時間でした。

結構、典型的にありそうな銀行投信販売の現場だったのではないでしょうか。

○銀行の顧客像
うちの親は、「金融や経済の勉強なんてする気はない」と言い切ります。シニア層で、金融リテラシーはなく、完全受け身で、資産運用自体に興味もないけどリターンは欲しいという方々は日本には相当数いるのではないでしょうか。
こういう方が、銀行の絶好のターゲットになります。比較検討もされずに手数料を払ってもらえるからです。手数料はデジタルに差し引かれるので、実感が出にくいのもポイントです。
銀行は顧客へのリーチで圧倒的に有利な立場にいます。預金の入出金と残高の情報を見て、ピンポイントで電話勧誘が出来ますから。預金口座のある銀行から電話が来ると、トラブルかと思い、とりあえず話は聞いちゃいますよね。まあ、銀行の預金残高の少ない私にも電話が来るくらいですから・・

資産運用のアドバイスというのは簡単ではありません。
悪い言い方になりますが、多くの人たちは、プロセスには関心を持たずに、結果論でのみ判断するからです。マーケット動向の影響や、相対的なパフォーマンスではなく、「得したかどうか」だけが評価軸になります。長期的な視点ではなく、短期的な損得に目が行きがちです。運悪く損したら、金融機関を変えるか、「懲りたからもうやらない」となるのです。
圧倒的な顧客へアプローチできる基盤を生かし、ビジネスとして、コンプラだけは守って、結果に無責任に投資信託を「売る」ことに専念する、駄目になったら新規を開拓する、というのは、顧客に合わせた優れたビジネスモデルなのかもしれません。

「国民の金融リテラシーを高めるべし」というのは実務的にはナンセンスです。その気のない人に強いることは出来ないからです。
少しやる気のある人に機会を提供することは、ニーズがあるかは分かりませんが、もう少しあってもいいかもしれあせん。

最近、資産運用のコラムでは、銀行・証券会社は投資信託を売りつけて手数料収入を得るのが目的だから、お金を払ってファイナンシャルプランナーに相談に行くべき、という論調を多く見るようになりました。
さて、火急の事態に陥っていない場合に、人は、そう簡単にお金を払って相談したいと思うでしょうか?
そもそもフィーを支払って資産運用の相談できるファイナンシャルプランナーでまともな人って日本に何人いるのでしょうか?

マクロ的には、働きかけないと動かない人たちを動かして、リスク資産にお金が流れることで資産価格を上昇させ、加えて、流動性を作り出し、非合理的な行動でプロへの収益機会を提供し、金融機関に支払われる手数料がGDPに貢献しています。投信販売の手数料は「ぼったくり」だとは思いますが、「悪」とは言い切れません。選択しているのは顧客自身ですから。
ただ、やはり、「ぼったくり」に親が巻き込まれているとなると、何らかの対処策を打つかと思うところであります。

○資産運用する上で大切なこと(カモにならないために)
資産運用で長期的に良い結果を出すために気を掛けることは下記の3つです。
・リスクをコントロールすること
・大損してゲームオーバーにならないこと
・リターンを出すこと → 次に、リスクに見合ったパフォーマンスを向上させること
リスクはある程度のコントロールが可能ですが、リターンを上げる確実な方法というのはありません。投資を始めたばかりの人は、リターンにのみ目が行ってしまう傾向がありますが、リターンはリスクの結果でしか得られないので、どういうリスクを取るかを本当は最初に考慮すべきなんです。

私が銀行の投信販売の手数料について批判的なのは、コストが残念だからです。ポートフォリオ提案やお勧め商品が良い悪い以前の問題です。
コストは、「確実に」リターンを下げ、リスクは変わりませんから、高いコストはパフォーマンスに大きく影響します。そして、販売手数料3%、信託報酬2%を取られる現在の投信販売の手数料率では、長期的に良いパフォーマンスが出ない可能性が高いのです。

2014年7月4日に金融庁が出した「金融モニタリングレポート」では、「銀行による投資信託販売の状況」が分析されています。
(レポート) http://www.fsa.go.jp/news/26/20140704-5/01.pdf
(概要) http://www.fsa.go.jp/news/26/20140704-5/02.pdf
141230 売れ筋投資信託の2年毎の乗換え投資の試算.jpg
概要p18より

投資信託の短期的な乗り換えを問題視し、上記表の通り、2〜3 年間での投資信託の乗換え売買を行った際の顧客のリターンをイメージするために、モデルケースとして、2003 年 3 月末から 10 年間、2 年ごとに、その時々に最も人気のあった投資信託に乗り換える売買を行った場合の収益状況についての平均的な試算が示されています。
これによると、
運用果実   12.8%
所得課税  △4.3%
販売手数料 △11.4%
で、結果、10年間で△2.8%(年平均△0.3%)と試算されています。分配金再投資の場合でも年平均 0.7%のリターンしか得られていません。
金融庁は、「モデルケースが、損してるか、ほとんど利益が出てないじゃないか!」と怒ってるわけですね。

ただ、資産運用でコスト(手数料)を大幅に引き下げるのは、自分でインターネットで低コストの商品を購入すれば良いのですが、それもそれで主体的に投資行動をするハードルの高さがあります。

この情報格差を埋めることには日本の金融サービスの大きな課題と機会があるように思います。

さて、どうしたらいいでしょうか?


【関連記事】
・2014/12/29 銀行の投信販売現場に行ってきました。親が銀行のお客様(上カモ)だった!(その1)
http://money-learn.seesaa.net/article/411474440.html
・2014/12/27 ・アベノミクスの行く末と、個人投資家としての中長期の投資スタンスを考える
http://money-learn.seesaa.net/article/411362434.html
・2014/12/23 モーニングスターETFカンファレンス2014に行ってきました。2015年の投資スタンスは「用心深く、楽観的に」(朝倉智也社長)で
http://money-learn.seesaa.net/article/411149960.html
・2014/12/21 (株)お金のデザインの新サービス「ETFラップ」の説明会に行ってきました。
http://money-learn.seesaa.net/article/411045614.html


この記事へのコメント
仕組債(日経平均リンク債)の説明が酷いですねぇ。
>細かい説明は省略しますが、ノックインすると、元本の50〜60%水準の日経平均で返ってくるという商品です。すなわち、元本を大きく減らす可能性があるが、滅多にそれは起こらず、利率が4〜5%もらえるという商品です。

そんな定性的な説明では無くて、定量的(理論的)な数値で説明するべきですね。
例えば、この仕組債の期待リターンは−3%ですとか、元本割れの確率は30%で元本の期待値は95%とか、そういう理論的な数値を使うべきですね。
そうでなければ、この仕組債を買う事が合理的なのかの判断ができません。

金融庁は、金融機関に対して、そこまでの指導をすべきですね。
まあ、そこをあやふやにしないと売れないと言う部分はあります。

投資の相談は誰にもするなが一番正しいかも知れない、投資の事で金融機関から中立的な人でさえも「FXはバクチですが、スワップポイントを獲得する投資手法こそが資産運用です」なんて言うFPもいるからです。
Posted by タカちゃん at 2015年01月01日 18:30
タカちゃんさん

どうもです。

仕組債に限らず、リスクの定量的な説明なんてされませんよ。
コンプラ上、説明するのは、「株価変動リスクがあります」「為替リスクがあります」「金利変動リスクがあります」と、リスク要因を言うだけ。はっきり言って意味のない儀式だとは思います。

リスク量の説明は義務付けるのは難しいでしょうね。じゃあ、どういう根拠のデータにするんだとか、一律に規定し難い気がします。

顧客としては、聞くべきでしょうが、そこまでの認識能力のある人はもはや対面販売の対象外になるとも思います。
Posted by ASK at 2015年01月01日 19:07
確かに毎月分配型は非効率ですしNISAは長短あります。
私が最初に買った銀行の商品は毎月分配型しかありませんでした。
だけど2年前にいくつか行ってみた銀行が勧めた商品は毎月分配型ではありましたが、米国ハイイールドとグローバルリート、米国りートでした。
これからは米国の時代になる、円は安くなるとどこの銀行でも口にしていました。
上記の商品は、ドル円が6割近く上昇している現在、1000万買ったら為替だけで6割上昇しています。
NISAについてもセゾン投信は有無を言わさず特別口座ではなくNISA口座に投入されます。
だけど損よりもリターンが出せると多くの人が思っているでしょう。
銀行も多くの商品の中から、もちろん利益になるというのは当然ですが、リターンを出せそうな商品を勧めます。
そんなに邪険にするものでもありません。


Posted by もっち at 2015年01月03日 01:30
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