プログラムの内容は下記の通りです。
第一部:
「なぜインデックス運用が注目されるの?」(モーニングスター株式会社 朝倉智也氏)
第二部:
「バンガードが投資家に選ばれる理由〜低コストと分散投資〜」(バンガード・インベストメント・ジャパン株式会社 三上和久氏)
「資産形成のためのSPDR ETFの活用」(ステートストリート グローバルアドバイザーズ株式会社 杉原正記氏)
「個人投資家のためのiシェアーズ活用術」(ブラックロック・ジャパン株式会社 渡邉雅史氏)
第三部:
「ETFで賢くグローバル投資」(晋陽FPオフィス カン・チュンド氏/東京証券取引所 高橋直也氏/モーニングスター株式会社 朝倉智也氏)
モーニングスターが主催となって、主要ETF運用会社のバンガード、ステート・ストリート、ブラックロックの3社の協賛と、東証、SBI証券、マネックス証券、楽天証券による特別協力として開催されるイベントです。
こちらのイベントは毎年行われていて、2012年、2013年にもお邪魔していて、特に毎回そんなに変わるものでもないのですが、ETFを通じた資産運用をメインテーマにしたイベントは珍しく、プレーヤーが勢揃いのため、ついつい行ってみたくなり、本年も行ってきました。
・2012/12/18 海外ETFの活用方法 具体的に何に投資し、どのようなポートフォリオを組むといいのか【ETFカンファレンス2012より】
http://money-learn.seesaa.net/article/308499793.html
・2013年はレポなし
全体としての印象は、2012年の時は、ETFを資産運用に活用している人に向けて具体的にどのように運用していったり、どのようなETFを用いるべきか、という内容色が強かったのですが、年々と、これからETFを活用して資産運用をしていくことに関心のある個人投資家に興味を持ってもらう、という色合いが強くなっているのかなと思います。
裾野を広げるためのマーケティングがこのイベント開催の目的でしょうから、方向性は間違っていないと思います。既にある程度のことを知っていると、アップデートする情報もなくなってしまっているのですが、私のようなリピート参加よりも、新規参加を促したいのでしょう。(テーマのタイトルなどを見て想定内だったので問題はないのですが)
簡単にカンファレンスの内容と感想を振り返ってみたいと思います。
第一部:「なぜインデックス運用が注目されるの?」(モーニングスター株式会社 朝倉智也氏)
モーニングスター朝倉社長のプレゼンテーションです。
Part1 資産運用商品の新たな潮流 −アクティブからパッシブへ−
世界的にETFの純資産残高は増えているという全体感の話です。
日米の投資信託の純資産残高におけるインデックスファンドの比率で、米国は年々上昇し、18.4%、日本は2008年の7.8%から年々低下し、6.0%になっています。あくまで投資信託だけですが、逆に言うと、米国でも8割はアクティブ運用なんですね。
ETFでは、米国ではETFの本数が増えていて、2014年10月には1,403本に上っています。残高も年々増加して、1,889ビリオンドル、200兆円もの残高があります。スマートベータ型ファンドの純資産残高・本数も増加してきていて、ETFと言っても、様々に裾野が広がってきていることが分かります。
ETF運用会社は、本イベントの協賛の3社、ブラックロック(iShares)、バンガード、ステート・ストリートの3社で8割に上っています。
Part2 インデックス運用の魅力
最初のスライドに下記のように書いてありますが、これがポイントを突いていると思います。米国の投資家がETFを購入する理由は、低コストという理由が半分以上のようです。
「インデックス運用は極めてシンプル」
・市場全体を保有
・優秀なアクティブファンドを探す手間が省ける
・運用管理コストならびに取引の執行コストを抑えることができる
↓
・シンプルであるが故に、投資初心者に最適
・投資経験者の中にも、他のやり方がうまくいかなくなると、シンプルなやり方に戻る
一方で、国内設定のインデックスファンドとアクティブファンドの信託報酬(税込)の比較というチャートが示されましたが、何とアクティブファンドの信託報酬は上がり続けていて、2014年は1.61%になっています。2004年には1.43%だったのが、2011年は1.53%、2012年は1,54%、2013年は1.56%という推移です。私が見るには、販売会社が信託報酬2%以上のものをどんどん売っている結果なのでしょう。
インデックスファンドの信託報酬は下がり続けていて、2014年は0.75%です。インデックスファンドは各運用会社が一通りインデックスファンドシリーズを出していて、コストをきちんと見て自分で選択する個人投資家が主な買い手になり、信託報酬の競争が起こるため、このような2極化になるのでしょう。
アクティブファンドの販売側の言い分として私も聞いたことがありますが、優れたアクティブファンドは一定のキャッシュを保有し相場下落時にはショックを軽減するので、全額株式に投資をするインデックス運用よりも下落率を抑えられ、良いパフォーマンスが出るのだ、というものがあります。
これについて、「一見合理的であるが、多くのアクティブファンドマネージャーは、市場が大きく下落する前にキャッシュを増やしたり、市場が下落した後にキャッシュを再投資するような能力を持ち合わせていない。それどころか、逆に株価が低水準にある時に多額のキャッシュを保有し、高水準にある時にキャッシュを少額しか保有しない場合の方が多い」とばっさり切り捨てています。
その根拠として、過去10年間で、TOPIXを上回った国内型アクティブファンドは3回だけというデータを示しています。2005年、2009年、2013年です。共通して、マーケットが急上昇する年は、アクティブが勝つようです。
Part3 アクティブファンドの課題
朝倉社長は、日本の情報開示にも難があると指摘しています。例えば、米国では、ファンドマネージャーの経歴やファンドマネージャーが自分の資産のいくらを運用するファンドに入れているか(同じ舟に乗っているのかどうか)、インセンティブの評価方法の開示義務がありますが、日本にはありません。金融庁には働きかけているが、なかなか進まないそうです。
アクティブファンドの注意点として、名指しでいくつかの事例を挙げています。名指しで説明するのはさすがです。
例1 ファンドマネージャーの交代によりパフォーマンスが低下する場合があります。アクティブバリューオープン(通称 アクシア)は、国内大型株のカテゴリーで相対的に高いパフォーマンスを出していましたが、2008年8月にファンドマネージャーが交代してから、パフォーマンスは普通になり、純資産を大きく減らした要因になっています。
モーニングスターの参考URL:アクティブバリューオープン 『愛称 : アクシア』 ★★★
http://www.morningstar.co.jp/FundData/Chart.do?fnc=1996022902
例2 影響力のある経営者の交代に注意とし、さわかみファンドは2013年1月に澤上氏の長男に経営をバトンタッチし、資金流出が増えています。また、2010年〜2013年では、国内大型グロースのカテゴリー内でアンダーパフォームしているようです。
モーニングスターの参考URL:さわかみファンド ★★★
http://www.morningstar.co.jp/FundData/Chart.do?fnc=1999082402
例3 急激な資金流入に注意とし、JPM ザ・ジャパンが2013年頭に急激に残高を増やした結果(2012年に300億円弱だった残高は、2013年に1276億円にもなっています)、2013年、2014年(12月時点)の国内小型グロースのカテゴリ内でのパフォーマンスはアンダーパフォームしました。2005年から2012年までは毎年全ての年でオーバーパフォームしたのに、です。
モーニングスターの参考URL:JPM ザ・ジャパン ★★★
http://www.morningstar.co.jp/FundData/Chart.do?fnc=1999121502
2011年12月に金融庁の金融審議会「我が国金融業の中長期的な在り方」WGで「投資信託に関する現状の課題と対応」という説明をして、各所に余計な事をと怒られたそうですが、現状は変わっていないとのこと。
金融審議会での朝倉社長のプレゼンテーション資料:
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/w_group/siryou/20111216/01.pdf
Part4 インデックス運用のポイント
インデックスファンドの利点は、購入手数料の低さ(ノーロードでゼロ)、少額での金額指定購入、分配金の再投資です。
ETFの利点は、相対的な信託報酬の低さです。
絶対的な優劣ではなく、これらのポイントを踏まえて、自身にとってインデックスファンドかETFにするか、両方をミックスして活用するかを考えれば良いという話です。
ETFの選択のポイントは、コスト(信託報酬)、純資産残高、出来高、乖離率、ポートフォリオの中身です。これについての情報はモーニングスターで比較検討が可能です。
さらに詳細情報は海外ETFは米国モーニングスターのサイトや、運用会社の個別情報ページで見ることが出来ます。
Part5 ETFを活用してポートフォリオを構築する
ポートフォリオを構築するにあたって、いわゆる経済の連動性が高くなっている結果、アセットクラス毎の相関係数が高くなっています。過去10年間の先進国株式と新興国株式の相関係数は、2004年0.73だったのが、2014年0.88に上昇しています。(相関係数は1になると全く同じ動きをするという意味ですので、ほとんど同じ動きをするということが分かります)
そのための対処策として、下記のような提案がされています。
・新興国株式はより広範囲な分散を図る(例えば、iSahres MSCIエマージングETF、iSahres MSCIフロンティア100ETFの組み合わせで、より広い投資先への分散が出来る)
・ETFでコア&サテライトのポートフォリオを構築する
1.大型株中心のポートフォリオから小型株も組入れる(例 先進国小型株ETF VB(バンガード・スモールキャップETF、VSS(バンガード・FTSE・オールワールド))
2.新興国株式にフロンティアマーケットの株式も組み入れる(例 フロンティアマーケットETF FM(iシェアーズ MSCIフロンティア100ETF))
3.インフレヘッジのためにインフレ連動債やREIT等を組み入れる(例 インフレ連動債権ETF TIP(iシェアーズ 米国物価連動国債ETF)、REIT ETF RWR(SPDR ダウ・ジョーンズ REIT ETF)、RWX(SPDR ダウ・ジョーンズ・インターナショナル・リアル・エステート ETF))
そして、現在のマーケット環境を踏まえた「新たな時代」の運用で大切なことをまとめています。
「新たな時代」のポイントは、低迷する利回り、円通貨の下落、変動の激しいマーケット、市場間の高まる相関関係の4つ。
そのためには、@目先の相場を予測して投資は行わない、A最大限にコストを抑える、B様々な資産を組み合わせた分散投資を行う、ということです。
現在の相場を見た投資スタンスは、コーシャスリー・オプティミスティカリー(Cautiously ,Optimistically)で、用心深くも楽観的に、ということを勧めていました。
第二部:ETF運用会社 主要3社によるプレゼンテーション
ETF主要三社のバンガード、ステートストリート、ブラックロック・ジャパンより、各社の提供するETFについての説明です。
バンガードは、ETF所有者がバンガードの所有を通じて規模の拡大とともに低コストを実現するという仕組み、既存のインデックスファンドと合同運用することにより独自性の説明です。
詳細はSBI証券の解説のサイトにて:「〜低コストとベンチマークとの高い連動性を両立〜バンガードETFが低コストを実現できる2つの理由」
https://www.sbisec.co.jp/ETGate/WPLETmgR001Control?OutSide=on&getFlg=on&burl=search_foreign&cat1=foreign&cat2=none&dir=info&file=foreign_info110107_01.html
あのウォーレン・バフェット氏が遺言で、現金の10%を短期国債に、90%を非常に低コストのS&P 500インデックスファンドに投資してください(VanguardのVFINXを推奨)として、バンガードのETFを信頼している、ということも話していました。
ステートストリートは、SDY(SPDR S&P米国高配当株式ETF)とXLP(生活必需品セレクト・セクターSPDR ファンド)は以前より興味があり投資対象にしていないので、検討しようかなと思いました。
SDY(SPDR S&P米国高配当株式ETF)は、S&P高配当貴族指数という、米国株の配当利回りの高さに加え、長期に渡って毎年一貫して増配を実施できる優良企業を抽出した指数で、個人的に注目しています。
ブラックロック・ジャパンは、iSharesブランドで有名ですが、日本へのETF上場に力を入れてくれているところがありがたいです。2014年11月には、債券型のETFも東証に上場させてくれました。引き続き優良ETFの国内株での取り扱いを増やして頂きたいところです。(国内ETFは流動性が低いという問題もありますが)。
1361 iシェアーズ 米国ハイイールド債券 ETF(iBoxxドル建てLHYC)
1362 iシェアーズ 新興国債券 ETF(バークレイズLocal EM国債コア)
1363 iシェアーズ 米国債 ETF(バークレイズ米10年国債)
第三部:「ETFで賢くグローバル投資」(晋陽FPオフィス カン・チュンド氏/東京証券取引所 高橋直也氏/モーニングスター株式会社 朝倉智也氏)
第三部は、朝倉社長のモデレートのもと、ETFを古くから推奨していた独立アドバイザーのカン・チュンド氏、東証の高橋直也氏とのパネルディスカッションです。
まとめると、カンさんの指摘では、ETFの留意点は、下記の点です。
・金額ベースで売買ができない(1株単位で口数調整が出来ないので、100万円を買う、という指定は出来ない)
・分配再投資が自動で出来ない
・流動性が低くスプレッドが気になることがあるので指値で売買することを推奨(東証の高橋氏より、指定参加者制度があるので売買の成立自体はしやすいとの言も)
・自由意思で売買するしかないので、中級以上の人向け。リレー投資は自分で売買する意思がある人向け
・ETFを使ったファンドラップは、大手のラップはラインナップが系列の運用会社のものだったりトータルコストに注意が必要
また、時価総額加重平均だけでなく、スマートベータ型の均等型の商品が欲しいとのことでした。また、債券型にはあまり個人投資家は着目しないが、もっと運用に取り入れても良いのではないか、ということでした。
東証の方は、国内ETFの売買は2014年には1227億円/日になり、2013年の倍以上となっているという話でしたが、レバレッジ型のETF売買が6割ということで、長期マネーの流入が増えているというわけではなさそうです。
また、JPX400について、GPIFがベンチマークにしていること、日銀が買い入れ対象としていることを挙げ、「宣伝しないといけない立場」も兼ねつつ推していました。
だいぶ長くなりましたが、レポートは以上です。
2015年1月17日(土)は東京国際フォーラムで、「モーニングスターカンファレンス2015」があり、グローバルな2015年の投資環境が広いテーマで聞けるので、都合が付けばこちらも合わせて参加しようと思います!
【関連記事】
・2014/12/21(株)お金のデザインの新サービス「ETFラップ」の説明会に行ってきました。
http://money-learn.seesaa.net/article/411045614.html
・2013/10/8「毎月分配型投信」を買うことは正しい
http://money-learn.seesaa.net/article/376971622.html
・2012/12/18海外ETFの活用方法 具体的に何に投資し、どのようなポートフォリオを組むといいのか【ETFカンファレンス2012より】
http://money-learn.seesaa.net/article/308499793.html
参考記事
・関東在住福岡人のまったり投資日記
http://garboflash.blog.fc2.com/blog-entry-348.html
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