ウェブのコラムに新聞やらマネー誌での識者のコメントでは、近時では、みんなが寄ってたかって「毎月分配型投信」の悪口を言っています。
悪口の理由は、
・資産運用は複利で行ってこそ意味があるのに、利益を吐き出してしまうので、複利が効かない。
・分配金に税金が掛かるので再投資する場合には非効率的であり長期資産形成に向いていない。
・儲かっているかのように見せかけて元本を勝手に取り崩している。
という、もっともらしい理由で語られます。
一部の識者の方々は、「毎月分配型投信」と聞くだけで反射的に「ケシカラン!!」と言います。
しかし、「毎月分配型投信」の牙城はビクともしていません。
モーニングスターで2013年10月7日時点のランキングを見ると、上位10本は見事に日本株のインデックスファンドと分配型ファンドが並びます。
モーニングスター ファンドランキング:

http://www.morningstar.co.jp/FundData/FundRankingJyunshisan.do
グローバル・ソブリン・オープンはかつての栄光はなくなったと言われながらも今なお純資産1兆円超えで堂々の2位ですし、以下、フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド、新光 US-REITオープン 『愛称:ゼウス』、ピクテ・グローバル・インカム株式(毎月分配)、ラサール・グローバルREIT(毎月分配型)、フィデリティ・USリートB(H無)という恍惚としたファンドたちが立ち並びます。日本人はグローバルリートとハイイールド債が大好きです。「日本人はリスク選好が低い」と言われますが、これは明らかに大嘘です。
これだけの人気を誇る「毎月分配型投信」を、何故みんな寄ってたかって悪口を言うのでしょうか。
合理的だと信じる理屈が現実を説明しないのであれば、実際に起きている現実は理屈よりも正しいのです。
言うまでもなく、日本人の金融資産を多く保有するのは高齢者です。
おじいちゃん・おばあちゃんは、いちいち「トウシシンタク」の「キジュンカガク」なんていう訳の分からないものは見たくありません。
で、今まで経済や金融のことなんて誰にも教えてこられていないし、何も分かりませんし、分かりたいとも思っていませんから、基準価額のチェックなんて始めちゃったら大変です。基準価額が高くなったら上がると思ってもっと買いたくなって買う、基準価額が安くなったら怖くなって売る、という高値掴みの安値売りをしてしまうに違いありません。マーケットは、普通の人間の心をもった人が、何の事前学習や訓練なしに参加したら負けるように出来ています。
生活に必要な額を毎月解約するなんてことを手動にしたら大変です。基準価額を見たとたんに利益の範囲内でしか解約できなくなってしまうに違いありませんし、基準価額が分かってしまいますから、裁量で売買をしてしまいます。おじいちゃん・おばあちゃんがマーケットを相手に、自分で売却のマーケットタイミングの意思決定を始めたら大変なことになります。「毎月分配型」であれば、自動的に解約してくれるのだから、解約タイミングを考えなくても大丈夫です。
そして、上ろうが下がろうが、定期的に「使っても大丈夫なお金」が手元に入ることが大切なのです。
毎月分配なら、上がっても下がっても勝手に売却(解約)してくれるという、そんなクールでクレバーな仕組みになっているので、おじいちゃん・おばあちゃんに、売却のタイミングを考えるという極めて高度で危険なことを考えさせる必要がなく、基準価額を定期的に確認する必要もなく、安穏とした日々を送れるのです。
ごくたまに説明を聞き流していて基準価額が維持されたまま分配金を受け取っていると勘違いしているおじいちゃん・おばあちゃんがいて、後から事実を知った時にクレームになったりしますが、金融機関にとっては売り方が下手な奴がやらかした、ちょっとしたかすり傷です。普通は、不審には思っても消費者センターには駆け込みません。うちの親も、分配金は利益の中からのみ出ていると見事に勘違いしていることが最近分かり、私は感動して涙しました。
そう、「毎月分配型」であるからこそ、おじいちゃん・おばあちゃんたちはマーケットの動向や基準価額を気にすることなく、必要な生活費の取り崩しを行い、安定した生活を送っているのです。
それに、そんなおじいちゃん・おばあちゃんは、そもそも新聞の金融欄やマネー誌や識者のコメントなんて見ません。本も読みません。だから、「ケシカラン」なんて声は届きません。
日常生活の中で、損をしていることに気付かず、マーケットタイミングを意識することなく「何も考えなくて良い」というのが大切なのです。
そもそも金融機関の販売員に、売れと言われたものを決められたトークスクリプトで売ること以外の金融リテラシーを持ち合わせている人は少数なのですから、「毎月分配型投信」をやめちゃったら、現場は大混乱必至です。
(まあ、今なら日本株投信をせっせと売れば良いのでしょうが。「アベノミクスでインフレになったらお金が目減りしちゃいますよ」「円高の時代は終わってこれからは円安で日本企業の業績も良くなります」「東京五輪も決まって日本経済は好転が見込まれます」って言われたら「そうかもなあ」と思わされちゃうでしょうねー。)
さらに素晴らしいことに、「毎月分配型投信」は、今の時価と今までに吐き出された分配金の合計を計算しないと分かりません。リスク資産が儲かってるか損してるかパッと見で分かりずらく、基準価額が減っていても。マーケットの上げ下げなのか、分配金のタコ足配当なのか、信託報酬で抜かれているのかが分からない上に、リスク資産の変動に目を背けたいおじいちゃん・おばあちゃんたちに定期的なキャッシュフローを見せることで心を守り、売り手の金融機関はぼったくりの手数料を取れる、極めて合理性の高い商材と言えます。
このような優れた仕組みとなっていて、おじいちゃん・おばあちゃんたちの生活を守っている「毎月分配型投信」が、なぜこれほどにディスられないといけないのでしょうか?
識者の方々は、経済合理的なものがよーく分かっているから「ケシカラン」と言うわけですが、何も出来ないししたくもない人たちに「じゃあどうしたらいいの?」という問題解決が出来ているのでしょうか。
【関連記事】
2012/11/18 毎月分配型投信はなぜ人気があり、売れるのか?
http://money-learn.seesaa.net/article/302460005.html
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