金融機関が顧客に対してフェイス・トゥ・フェイスで提供する「サービス」には、大きく分けて、「セールス」と「コンサルティング」の2つのスタンスがあります。
ここで言う個人向け金融サービスにおける「セールス」と「コンサルティング」の違いは、その姿勢と収益をどこで取るか(金融機関にとってのゴール)の違いです。
例えば、現在のマーケット環境であれば、顧客は、下記のような点が気になっているでしょう。
・今の日本の株式市場はプチバブルか?いつまでダンスは続くのか?
・為替はさらに円安が進むのか?
・現在の日経平均はどこまで期待が織り込まれていてどの水準が現実的か?為替水準と妥当な日経平均のラインはどうか?
・まだ割安感のあるセクターは残っているか?
・ここまで下がった10年国債の長期金利はどうなるか?
・J-REITはバブルか?
・トレンドのピークと歯車の逆回転がはじまるとしたら考えられる要因は何か?
・政局の波乱要因はあるか?
・参院選までは今の調子?消費税増税が決まるとどう反応する?
・国内要因ではなく海外要因でのショックはあるか?
(あるいは、投資初心者であれば、もう少しシンプルに、これからまだ上がるか下がるかという結論を、「まだ上がりそうな銘柄を探している」といったことが最も気になるでしょうから、これに何らかの固有名詞を提供出来ればOKなのかもしれません。)
仕事でもって金融機関で働いている人であれば、これらについて何らかの見解を持っているはずです。
現場では、顧客が納得し、顧客のレベルに応じた、信頼され優れていると思ってもらえる洞察を提供することが重要です。
鼻くそをほじりながら日経の上っ面を読んでいることを言えば尊敬してくれる顧客から、あらゆる意見と判断材料を集めた上で意思決定をどうすべきかを提案する真剣勝負が必要な顧客まで、顧客の属性はさまざまだと思いますが、顧客に応じて、顧客の金融リテラシー、性格、スタンス、価値観、好みや望みといった要素を総合的に捉えることが必要です。
ここまでは、セールスもコンサルティングも大きくは変わらないでしょう。
セールスは、株なり投信なり仕組債なりを「売る」ことが目的で、売ることによって手数料を得ることにより成り立ちます。
ですから、顧客を相場の見通しが上がるか下がるかのどちらかへいかにうまく誘導出来るか、あるいは、顧客がある程度の相場の方向性を持っている際に、いかに良い気持ちにさせながら手数料の高い商品をうまく売るかが腕の見せ所となります。見通しについて顧客を納得させ(通常の金融商品は相場が上がると儲かりますから、上がる方へ誘導することが多いでしょう)、さらに、なるべく手数料の高い商品を顧客が買うことを正当化するための高度な能力が要求されます。
ただし、現実としては、手数料の高い商品「だけ」を並べてお勧めする、というスタンスも広く用いられているようです。「お願い営業」や「売り込み」もいまだに多く見られます。
コンサルティングは、顧客に有益な情報を提供したり最適な商品を探してきて案内したりしながら、意思決定をサポートすることを目的とします。アドバイスフィーや利益の一部を成功報酬とするような収益を構築することにより、販売よりもプロセスや結果に対してよりフォーカスを当てていると言えます。
「情報提供」や「自分では気づいていなかった気付き」を顧客に提示し、最適な意思決定をサポートすることが目的です。基本的には相場が上がるか下がるかは分からないのだから、常に、ポジティブな材料とネガティブな材料をエビデンス(裏付け)とともに揃えて説明し、顧客の認識に間違いがあれば正しい方向へ導き、また、信頼関係のある長期的な関係が前提となりますし、顧客自身にも時には厳しい意見に耳を貸す度量が求められます。
セールスとコンサルティングのどちらが上位ということはなく、ビジネスモデルの違いです。金融サービス提供者側のビジョンやスタンス、あるいは、何かを買わないとお金を払う価値がないと思う人もいればプロセスの重要性を重視する人もいるでしょうから顧客がどちらをより望むか、というバランスで需給が決まるのが本来のはずです。
ビジネスモデルも異なりますから、セールスは飛び込みでも何でもしていかに顧客をつかまえるか、コンサルティングは安っぽい売り込みは逆効果でマーケティングがより重要という違いもあるでしょう。
一方で、「コンサルティングセールス」「コンサルティング営業」なんていう言葉も存在します。
これは「コンサルティング」が目的ではなくセールスで収益を得ているものに、’あなたのために提案しているのですよ‘という姿勢を見せるために開発された言葉で、ビジネスモデルから見た実態は事実上「セールス」です。
顧客はどちらを求めているのでしょうか?
残念ながら、日本の個人向け金融サービスは、「セールス」が圧倒的な主流であり、「コンサルティング」は本質的な意味での提供がほとんどありません。顧客がどちらを求めているかは実証的には答えを求めることは出来ません。
少なくとも、私が今まで見聞きしてきた範囲では、大手金融機関が提供するサービスにコンサルティングはほとんど期待できません。
「セールス」と言っても信頼関係や長期的な関係は大事ですから、販売に至るプロセスの中でコンサルティングの一定程度の機能は求められます。コンサルティング能力を発揮するのは、金融機関の個々の営業員の能力やスタンス、人間性次第です。
また、富裕層顧客にはこぞって金融機関の営業員が参列しますから、金融機関同士の競争となり、ただのはめ込み(売り込み)ではお叱りを受けて帰されるだけですので、きちんとした「コンサルティング」に近い提案がされているようです。質の高低は格差が大きいようにも思いますが、プライベートバンキングと呼ばれるサービスです。
米国では「コンサルティング」のサービスが広く展開されています。
IFA(インディペンデット・フィナンシャル・アドバイザー:商品を販売する金融機関から独立したアドバイザー)と呼ばれるアドバイザーが多数存在し、資産残高の○%のアドバイスフィーのみでビジネスを成立させていたり、アドバイスフィーと手数料(コミッション)をミックスさせた形態が多くなっています。数人の小さなファームが多数存在し、IFA1人につき金融資産数千万程度以上の30〜50名程度の顧客を抱え、長期的な関係を構築しているようです。IFAの社会的地位や年収も高く、弁護士や会計士と同列、あるいはそれ以上の地位があると言われています。
(なお、海外投資などの業者でよくIFAという言葉が出てきますが、あれはコミッションから収入を得ていますので、ここで言う「コンサルティング」でもなく、全くの別物です。ただの怪しいブローカーであることもありますので、ご注意下さい。)
日本ではIFAが資産を預かって運用するには投資一任勘定という極めてハードルの高い法規制が存在し、米国と同様のサービスを提供することは難しいという側面もあります。
IFAへの信頼があれば資産運用の注文の発注や口座の資産管理等は、ある程度「お任せ」でお願いしたいと顧客は思うでしょうが、これが困難であったりします。
ですが、「コンサルティング」をサービスとして提供出来ないということはありません。
私は顧客としての立場からは「コンサルティング」の方を望みますが、どうでしょうかねえ?
【関連記事】
・2012/12/31 2012年末のポートフォリオと各アセットクラスへの投資方針について
http://money-learn.seesaa.net/article/310846181.html
・2012/11/18 毎月分配型投信はなぜ人気があり、売れるのか?
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