2012年11月30日

サクラダの破産手続開始を受け直近の決算書を検証 (三田証券はお見事!)

東証一部上場の橋梁建設大手のサクラダ(5917)が平成24年11月27日に破産手続開始の申し立て(いわゆる倒産)をしました。
サクラダ 「破産手続開始の申立てに関するお知らせ」
http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr1/tdnetg3/20121127/7son75/140120121127042289.pdf

2012年2月には10億円の第三者割当新株予約権発行による資金調達(平成24年8月27日までに全量が行使され10億円確保済み)も行い、中国企業との提携協議開始を発表するなどしていたが、平成25年3月期業績も完工高減少、先行コストの発生、工事採算悪化等で資金繰りは一層逼迫。10月末の支払いを延期し動向が注目されていた中、11月末決済の資金確保が困難となったことからこのような事態となったという経緯のようです。
なお、橋梁建設は業界全体が不調なようで、日刊産業新聞の記事(2012/11/15付)では、「鉄骨・橋梁ファブリケーター10社(連結8社、単独2社)の4―9月期決算が出そろい、7社で赤字を計上した。売上高は7社で増加したが、昨年度の受注物件が厳しい採算だったため、経常損失となった。稼働率は上昇傾向にあるものの、本年度中も受注競争が続いており、改善するのは来年度以降になりそう」と伝えられています。

ふと、直近、2012年9月末での決算書を見たのですが、何か腑に落ちないところがありました。
株式会社サクラダ(5917) 平成25年3月期 第2四半期決算短信(非連結)
http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr1/tdnetg3/20121113/7r6tjc/140120121102031080.pdf

業績は厳しい状況とはいえ、売上は4〜9月で30億円。これは前年同期比の22億円よりは増えています。営業利益は1.8億円の赤字、経常利益は3.1億円の赤字です。赤字とは言え、滅茶苦茶な赤字でもありません。
継続企業の前提に関する注記も付いており、赤字のため資金調達の困難性も重要な懸案事項であり、移転先である袖ケ浦新工場の構築資金の準備には十分ではないこと等から、新たな資金調達のための増資計画等を策定中あると記載がされています。
腑に落ちないというのは、「新たな資金調達」の目処が立たないという事情はあるのでしょうが、お手上げには早いなあと思ったためです。

ちなみに、倒産処理手続きには、主に破産、民事再生、会社更生の手続がありますが、大きな特徴として、破産が会社の清算を目的とする手続きであること、民事再生、会社更生は会社の再建と目的とする手続きであることです。つまり、破産ということは事業活動はおしまい、処分できるものは処分して債権者へお金を返して、それでも残余財産があれば、残った分が株主に分配されます。通常、破産処理というのは、頑張れるところまで頑張った末に行われるので、債権者が雀の涙ほどの資金を回収し、もちろん株主は1円ももらえない、というのが私のイメージです。

サクラダの平成24年9末のバランスシートを見ますと、10億円の資金調達の効果もあってか、現預金が8.8億円あります。運転資金の支払いである営業債務(支払手形・営業外支払手形・工事未払金)は12.5億円ですが、有利子負債は8千3百万円しかないですし、納品済みの未回収金である完成工事未収入金は21億円もあります。入金タイミングや支払タイミングや決算後の10・11月の動向は分かりませんが、「11月末決済の資金確保が困難となった」から、「はい、もうお手上げで破産です」っていうほどの感じにも見えないんですよねえ。ただ、サクラダは工事進行基準を適用しています(*注1)。有力な売上先は官公庁系であることから下半期での完了が多く、売上30億、完成工事未収入金21億というバランスからは工事進行基準による売上の割り合いが大きそうな雰囲気はあり、そうだとすると、工事進行基準による売上で計上されている完成工事未収入金が実際に入金されるのは相当先になり、資金繰りには窮していたという推察も出来ますが、現預金が8.8億あるので、もう少し粘ろうと思えば粘れる状況ではあったのではないかとは思われます。
もはやこれ以上事業を続けていても改善の余地がないので、少しでも余裕があるうちに早い段階で破産してしまえという誰かの何かの意図もあるのかなと若干感じますが、破産して得する人は誰かと考えたとき、申し立ての弁護士か誰かが事業資産を破格に安く引き取れる可能性くらいしか私には思いつきません。




で、バランスシートに戻って、破産・清算による分配余力をざっくり考えます。換金できそうな確度の高い資産は現預金と完成工事未収入金で約30億円。上記でも出てきました’工事完成基準で計上された完成工事未収入金’は実際に工事が完了しないとキャッシュになりませんが、進行中の案件の完了部分について簿価でどこかに事業譲渡等により引き取ってもらうことは難しくはないと思いますし、完成工事未収入金のうち工事完成基準での売上分の割合も分かりませんので、換金できそうな確度の高いということにしておきます。
負債は一通り支払わないといけないとして、約25億円(繰延税金負債は支払いの必要はありませんが、6千万しか計上されていないので省略。工事損失引当金は現時点で支払いが確定したものではありませんが、どこかに事業譲渡等により引き取ってもらう場合に簿価から差し引かれるだろうと思いますので、そのまま残して考えます)。
換金できそうな確度の高い資産30億から全ての負債25億を差し引くと、固く見て約5億円の株主への分配余力が残っちゃいます。あと換金価値がありそうなのは、土地2.6億円、投資有価証券1.1億円などがあります。残りの会計上の資産は約12億円ですが、換金価値ゼロということはないでしょう。適当に固めな計算で土地・投資有価証券は5割回収で3.7億円、その他の資産が1割回収で1.2億円とすると、固く見た場合の約5億円に乗っかりますので、株主への分配余力はだいたい10億円位になります。

あれ?株主にも分配がされるかも?ということで、1株につきいくらくらいになるのかを考えてみます。
サクラダの発行済みは約2.5億株です。
現預金と完成工事未収入金分で5億円、その他うまくいけば10億円とすると、負債を全部支払っても株主に1株当り2〜4円くらいの分配余力があるという計算になります。
破産した会社に株主分配があると通常は考えませんから、破産を受けて株価は1円になっています。
なお、整理銘柄指定期間は平成24年11月27日(火)から平成24年12月11日(火)までで、上場廃止日は平成24年12月12日(水)と東京証券取引所より決定されています。

実際に破産処理を進めていくための弁護士報酬を含めたコストなども発生しますし、9月末と11月末までの状況変化もありますので、1株当り2〜4円よりは減る要因もありますが、サクラダのケースでは株主への分配はゼロではないかもしれない、と思われます。

過去には、住倉工業という会社が、破産申請により2002年6月18日に東証二部を上場廃止。2005年末に、1株につき11円95銭の残余財産を分配した事例もあるようです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%8F%E5%80%89%E5%B7%A5%E6%A5%AD

分配されるまでに数年越しになりますし、不確定要素もありますので、株を大量に拾ってみようとは思いませんが、分配金の期待値が10倍くらいあればこういうのも意外と良い投資対象だったりするのかもしれないですね。1円で1株だけ買ってみると今後の経緯が分かるので、手数料はもったいないですが、お勉強には良い材料かもしれません。
(私は破産処理などに詳しいわけではありませんので、もしどなたか、おかしなところなどがあればお教え頂けますと幸いです。)

話は沿れますが、2月に10億円の第三者割当新株予約権を引き受けた三田証券は、1株10円という超有利な条件で8月27日までに36.61%分の行使を全て済ませ、破産発表時に株主上位10位までに名前がありませんから、10位株主の比率である0.48%(133万株)以下まで見事に売り切っています。2月から11月にかけて株価は、20円台から10円近辺まで下落していますが、株価は1回も10円を下回っていませんから、負けなしで、ウン億円を儲けたようですね。
この三田証券は、エーディーワークスのライツ・オファリングの主幹事をやったり、PGMのアコーディア・ゴルフの敵対的TOBの公開買付代理人をしたり、最近ご活躍のご様子であります。

【関連記事】
・2011/2/2 会計の基礎D-2 B/Sの見方、読み方(負債・純資産の部)
http://money-learn.seesaa.net/article/183707612.html
・2011/2/2 会計の基礎D-1 B/Sの見方、読み方(資産の部)
http://money-learn.seesaa.net/article/183706955.html

*注1
有価証券報告書より、完成工事高及び完成工事原価の計上基準として、「請負工事に係る収益の計上基準は、当事業年度末までの進捗部分について成果の確実性が認められる工事については、工事進行基準(工事の進捗率の見積りは原価比例法)を採用し、その他の工事については工事完成基準を採用」との記載があるが、具体的に工事進行基準を適用する案件の範囲は不明。

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この記事へのコメント
完成工事未収入金を確実に換金できそうな資産とみなして良いのかなと少し疑問に感じました。

工事進行基準での完成工事未収入金は会計処理ででてくるものであって、法的に請求できる債権ではないように感じます。

間違っていることを書いていたら、すみません。
Posted by yanai at 2012年12月01日 04:04
yanai様

コメントとご指摘をありがとうございます。
工事進行基準での完成工事未収入金は非常に重要なポイントでしたね。その点を踏まえました加筆・修正を致しました。

どうぞ今後とも本ブログをよろしくお願い致します。

ASK
Posted by ASK at 2012年12月01日 12:16
破産手続開始の申立てに関するお知らせにあるように、負債総額は約26 億9000 万円で、発行済株式の総数は 2 億7314 万2890 株ですね。

問題の完成工事未収入金に関しては、工事途中のものでも管財人の管理下に入るので、きちんとした査定の後、発注側に出来高分の代金を請求する形になると思います。
そうでなければ、工事途中のものは止まったままになり、他の業者に発注することもできないからです。

原価で20億近く使い、査定結果が10億ってことは考えにくいと思います。
もちろん、あんまりにも酷い工事だったら別かもしれませんが・・・。
Posted by れの at 2012年12月11日 16:42
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