先週木曜の2012/11/1に、米スプリント・ネクステルの買収によりソフトバンクの株価が大きく下がったことを受け、ソフトバンクとイー・アクセスの交換比率を見直す方向で検討中と報じられました。(*1)
10月1日にイー・アクセス買収を発表した際のソフトバンク株の基準価格は3108円でしたが、10月31日終値は2527円と基準価格に比べ18.7%低い水準となっていました。
なお、本件の報道を受け、ソフトバンクは「現時点で決まった事実はない」とIRで公表しています。
ソフトバンクのIR(2012/11/1):
http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr1/tdnetg3/20121101/7r4myu/140120121101029254.pdf
「現時点で決まった事実はない」というのは水面下でどのような動きがあっても、取締役会での機関決定を正式に行うまでは全て「決定する前」になりますので、観測報道が出たときのお決まりの文句です。明確に否定するのでない場合は、誤報ではない、少なくとも検討・交渉を行っていることは間違っていないと読むのが大人の見方になります。
この報道を受け、11/1の株価終値は、ソフトバンクは+3.60%の2,618円(前日の決算発表を受け株価が上昇)、一方、イー・アクセスの株価は前日比+10.04%の44,400円となっています。
交換比率を、16.95(44,400÷2,618)までの上昇を市場は織り込んだことになります。
11/2の株価終値は、ソフトバンクは2,714円、イー・アクセスは45,432円なので、株価比率は16.76で、前日の11/1から大きな動きはありませんでした。
ソフトバンクのイー・アクセスの株式交換のリリース文には、ソフトバンクの基準株価1株3,108円として株式交換比率を決めるが、「10取引日間の終値の平均値(公表後基準価格)」が3,108円の85%未満である場合には、52,000円を公表後基準価格で除した数で株式交換比率を調整すると書かれています。(*2)
ソフトバンクの10取引日間の終値の平均値が3,108円の85%である2,641円未満となったのは10/22からで、11/1までの9営業日までの間はずっと2,641円未満となっていました。
11/1の終値で推定される新交換比率は20.11(52,000÷2,572)。一方、市場でのソフトバンクとイー・アクセスの株価比率は16.95なので、ソフトバンク売り・イー・アクセス買いをすれば、株式交換比率の調整が実際に発表された場合には、株価比率が16.95が20.11に近づく過程で裁定利益が狙えることになります。ソフトバンクとイー・アクセスの場合、交換比率と実際の株価は2.5〜3%台のディスカウントの水準で推移していましたので、その分を織り込んでも、新交換比率の発表直後の売却で15%程度の利益率を狙えるチャンスだったことになります。
株式交換のリリース文に条件がはっきり書かれているので、ソフトバンクの株価が2,641円未満となったときから株式交換比率の調整がされるだろうと読むことだって可能でした。
観測報道が出てもなお、株価に十分に反映されなかったのは何故か。
これは私の11/1の夜の疑問でした。
このまま株式交換されても交換比率は16.74なので、16.96前後の株価比率でソフトバンク売り・イー・アクセス買いをした場合、最悪、交換比率の調整がされなくても1%程度の損失とソフトバンク売りの金利と取引手数料が損失、交換比率の調整がされれば15%程度の利益が見込める状態です。
ソフトバンクがイー・アクセスの出資比率を1/3未満にするとか報道されていますが、「いったん100%にする」と孫社長は名言もしている報道記事がありましたので、最悪の最悪で何かの事情で株式交換自体が撤回される可能性は極めて低い。
株式交換のプレスリリース(*2)を読んでも、交換比率の調整のタイミングや交換比率の調整を行うかどうかの細かい条件の有無は分からない。第2四半期の決算発表を受けて株価は上昇し、2,618円とトリガーの2,641円に近付いており、その後に株価が2,641円を10営業日以上超え続けてソフトバンクが逃げ切る形になる可能性はなくはなさそうです(11/2には2,714円まで上昇しています)。
他にも何か重大なリスクの見落としがあるか、ないか。
ただ、しっかりと9営業日もの間、ソフトバンクの10営業日平均株価がトリガーの2,641円を下回っている以上は、交換比率の調整がされる可能性は結構高そうではあります。
結果としては、11/1に観測報道が出た、その翌日の11/2の18時に、交換比率は16.74から20.09へと調整されました(*3)。
そもそも何故、交換比率見直しの観測報道が出て来たのでしょうか。
日経記者が交換比率のリリースから見直しがあるのではないかと気付いて取材をしてグッジョブな報道をしたのか。
ソフトバンクが「急な超大型M&Aの発表で株価が急落しただけだから一過性の要因であり株価は戻るはずだ!もう少し様子を見ようよ」とかゴネてたところに、イー・アクセスのアドバイザー兼大株主のゴールドマン・サックスがキレて、さらに決算が良かったものだから本当に株価が上がっちゃったらヤバいと思って日経記者にチクッて記事につながったのか。。
それともどこかで誰かの言及があったのか。
このあたりの事情は推測の域は出ませんが、後から結果として見えることは、観測報道が株式交換比率の調整発表の後押しに影響した可能性は多少はあるかもしれない、ということです。
注)(*1)〜(*3)は下の「続きを読む」にて詳細を掲載しています。
(*1)
2012/11/1の日経記事「ソフトバンクとイーアクセス、株交換比率見直しへ」により報じられているポイントは下記となっています。
・経営統合を決めたソフトバンクとイー・アクセスは10月1日に決定した株式交換比率を見直す方向で調整中
・ソフトバンクによる米スプリント・ネクステルの買収が明らかになった10月中旬以降、ソフトバンクの株価が大幅に下落したことに対応する。直近の株価をもとにソフトバンク株の割り当てを増やすことで、イー・アクセスの株主の理解を求める狙い
・当初計画ではイー・アクセス株1株に対しソフトバンク株16.74株を割り当てる計画
・10月1日にイー・アクセス買収を発表した際のソフトバンク株の基準価格は3108円。しかし10月31日終値は2527円と基準価格に比べ18.7%低い。イー・アクセス株の買い取り価格は1株5万2000円、買収総額は約1800億円とする計画に大きな変更はないとみられる
・孫正義社長は「複数案を検討しており、出資比率を3分の1未満にする可能性もある」と明らかに
・またソフトバンクはイー・アクセス株の全株取得後に売却や第三者割当増資などで出資比率を引き下げることも検討。2009年に総務省が両社に新たな周波数帯を割り当てた際に、議決権ベースで3分の1以上の出資関係にある会社の申請を認めない指針があったことを念頭に置いている
(*2)
ソフトバンクのイー・アクセスの株式交換のリリース文
http://www.softbank.co.jp/ja/news/press/2012/20121001_01/
「本件交換比率は、イー・アクセスの普通株式の評価額を1株52,000円とし、これを本契約締結日前日までの3ヶ月間の株式会社東京証券取引所におけるソフトバンクの普通株式の普通取引の終値の平均値(1円未満の端数はこれを切り上げるものとする。)である1株3,108円(以下「本件基準価格」)で除した数である16.74(以下「本件交換比率」)とします。但し、本契約締結日後(同日を含まない。)の10取引日間の株式会社東京証券取引所におけるソフトバンクの普通株式の普通取引の終値の平均値(1円未満の端数はこれを切り上げるものとし、以下「公表後基準価格」)が、本件基準価格の85%未満である場合には、本件交換比率は、52,000円を公表後基準価格で除した数(小数点第2位未満は切り上げるものとする。)に調整されるものとします。」
(*3)
2012/11/2 18:00 ソフトバンク及びイー・アクセスの適時開示
ソフトバンク株式会社とイー・アクセス株式会社の株式交換契約の一部変更に関するお知らせ
http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr1/tdnetg3/20121102/7r6tkk/140120121102031124.pdf
変更後
本件交換比率は、イー・アクセスの普通株式の評価額を 1 株 52,000 円とし、これを 2012年 10 月 17 日(同日を含む。)から 2012 年 11 月 2 日(同日を含む。)までの期間の株式会社東京証券取引所におけるソフトバンクの普通株式の普通取引の終値の平均値(1 円未満の端数はこれを切り上げるものとする。)である 1 株 2,589 円(以下「本件基準価格」)で除した数(小数点第 2 位未満は切り上げるものとする。)である 20.09(以下「本件交換比率」)とします。
【マネーの知恵(仮)関連記事】
・2012/10/16 ソフトバンクはSprintを1兆5千億で買収 報道で株価21%下落も「今が買い」とアピール 成功に「自信があります」
http://money-learn.seesaa.net/article/297612019.html
・2012/10/1 孫さんは損する?損しない? ソフトバンクがイー・アクセスを破格のプレミアム245%で買収
http://money-learn.seesaa.net/article/295065037.html
・2011/3/17TOB中の銘柄の株価下落の不思議
http://money-learn.seesaa.net/article/191022261.html
・2011/1/18 PO投資についてまとめ(PO発表後の一般的な株価推移、儲け方、問題点、規制まで)http://money-learn.seesaa.net/article/181380755.html