日本では、長寿の投資信託がなく、長期の資産形成を目的とすべきである投資信託なのに、資産形成を阻害しているといった指摘があります。
記事中で、FPの深野康彦氏は、「テーマを絞った投信が次々売り出され、流行が去ると見限られる繰り返し」がされてきたためと言います。
大手証券会社や銀行では、「これからオリンピックやワールドカップが行われるブラジルが有望です!」とか言って例えばレアル建の商品を組成し、このような営業トークで流行のテーマを設定して勧められると気の良い日本のシニア層は納得して買ってしまう。そうすると「これが売れ筋です」となってどんどん売れる。そのうちピークが過ぎたら萎んでいく。時流のトレンドは2〜3年で、トレンドが過ぎれば次のテーマが設定され、分配金が高いことをアピールすることにより乗り換えを誘導する、という営業手法がされていると言われています。
本記事では、その中でも長寿の投資信託で注目すべきものが紹介されています。10年以上の運用実績がある投信に絞り、FPら5名の専門家に注目できる商品を5つずつあげてもらっており、中長期で高いリターンをあげたアクティブ型投信で、3人以上が注目する商品は4つあったようです。
選定した5名は、朝倉智也氏(モーニングスター社長)、神戸孝氏(FPアソシエイツ&コンサルティング代表)、竹川美奈子氏(金融ジャーナリスト)、深野康彦氏(ファイナンシャルリサーチ 代表)、吉井崇裕氏(FP事務所ガイアのファンドアナリスト)ということです(肩書きは筆者追加)。
選ばれたお勧め投資信託は下記になります。
続きは下の「続きを読む」をクリックしてお進み下さい(トップ画面からご覧の場合)。
ファンド名 / 運用会社 / 投資対象 /()5名のうち勧めがあった投票数
*基準価額、純資産はモーニングスター(2012/8/10現在)より
・JFザ・ジャパン / JPモルガン・アセット・マネジメント / 日本株・小型グロース /(5) 基準価額 19,485円、純資産286億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/Return.do?fnc=1999121502
・BAMワールド・ボンド&カレンシー・ファンド『愛称 : ウィンドミル』/ ベアリング投信 / 世界債券(為替変動リスクのヘッジ目的および円ベースでの収益確保のため外国為替予約取引を実施) / (4) 基準価額 7,585円、純資産1004億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=1998042806
・DLIBJ 公社債オープン(中期コース) / DIAMアセットマネジメント / 日本債券 /(4) 基準価額 10,033円、純資産246億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=1999121402
・朝日Nvest グローバルバリュー株オープン 『愛称 : Avest-E』 / 朝日ライフアセットマネジメント / 海外株(為替ヘッジなし) / (3) 基準価額8,345円、純資産215億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=2000032406
・アジア製造業ファンド /ベアリング投信投資顧問 / 国際株式・エマージング・複数国(アジア製造業関連) /(2) 基準価額30,870円、純資産94億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=1996032801
・フィデリティ・ストラテジック・インカムA / フィデリティ投信 / 世界債券(含む日本、原則として為替ヘッジあり) / (2) 基準価額8,447円、純資産 26億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=1998093005
・フィデリティ・日本バリュー・ファンド / フィデリティ投信 / 日本株・国内大型ブレンド / (1) 基準価額15,277円、純資産 13億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=2002022802
・大型株ファンド / 大和証券投資信託委託 / 日本株・大型ブレンド / (1)基準価額364円、純資産 9億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=1961120201
・インベスコ 店頭・成長株オープン / インベスコ投信投資顧問 / 日本株・小型グロース / (1)基準価額13,413円、純資産 52億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=1993122904
・三菱UFJ/メロン グローバルバランス /三菱UFJ投信 / 日本を含む世界先進主要国の株式、債券、短期金融資産 (GTAAモデルを活用して資産別・国別配分や、為替ヘッジ比率を決定) / (1) 基準価額10,296円、純資産 22億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=1998031701
・JPM ワールド・CB・オープン / 世界各国の、主に低プレミアムおよびディスカウントの転換社債(割安の転換社債)(為替ヘッジは弾力的に実施) / (1) 基準価額8,633円、純資産 97億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=2001092803
・フィデリティ・ハイ・イールド・ボンドBコース / 海外債券 / Ba格以下またはBB格以下の格付けの米ドル建高利回り事業債(為替ヘッジあり) / (1) 基準価額8,336円、純資産141億円
http://www.morningstar.co.jp/FundData/SnapShot.do?fnc=1997052302
投信の説明や誰が選定したかは、日経記事をご参照頂くとして、本ブログ記事では、モーニングスターの該当ファンドへのリンクを張っています。
共通点は、深野氏によると、「個性や運用哲学がはっきりしている」「株や債券などにシンプルな手法で投資しているのも特徴」とのこと。
私は、アクティブ型の投資信託は基本的には投資対象として検討していないため、投資信託については詳しくないので、存在を知っていたのは「JFザ・ジャパン」くらいでした。一通り見たところでは、純資産(投資信託のファンド規模)は比較的小さいものが多いようです。
基準価額は、10,000円から開始していると見て良いと思いますが(大型株ファンド・大和投資信託は1,000円からスタートかなと推察されます)、設定来でプラスのものばかりではないようです。
日経の記事の一覧では過去10年の平均収益率(年率)が載っており、マイナスのファンドはなく、リターンもそこそこ良好なのかと一見して思えたのですが、過去5年といった期間で見るとそうでもないものもあるようです。例えば、過去10年の平均収益率(年率)が11.76%の「JFザ・ジャパン」は、同様の平均収益率(年率)の過去1年(△2.62%)、過去3年(0.01%)、過去5年(△2.04%)で、過去5年以下の期間で見たトータルリターンのパフォーマンスはそんなに良くないようです(ベンチマークとの比較は省略します。なお、モーニングスターでは「分配金(税引前)はすべてファンドに再投資されたものと仮定して計算」してトータルリターンとして表示されています。)。
「JFザ・ジャパン」について過去10値のチャートを見ると、パフォーマンスが良かったのは2002年から2005年末までで、その後はでこぼこしながら横ばいです。標準偏差(基準価額の動きの大きさ)はどの期間でも20%台半ばで、シャープレシオは5年以内の期間ではトータルリターンがマイナスだったりするので無視するとして、10年間で0.48。シャープレシオとはリターンを標準偏差で割ったもので、どれだけ価格変動に対して効率的にリターンを上げたかという指標です。株式運用のシャープレシオとしては悪くなさそうですが、個人的にはう少し高いと嬉しいかなといったところです。ただし、今回取り上げられている投資信託の中で株式型では「JFザ・ジャパン」の期間10年のシャープレシオは最も高いことは付け加えておきます。信託報酬は年間1.81%。販売手数料は1〜3%掛かります。「JFザ・ジャパン」は本日経記事で唯一プロ5名の「注目」が一致したファンドとなっており、「12年の運用期間に東証1部と2部・新興市場の投資比率を大きく変えてきた。新興市場に勢いがあった2003年から05年は東証1部銘柄を6割前後に抑制。ライブドア・ショックで新興市場が崩れた06年から08年は逆に8割前後に増やすという具合だ」と運用が上手いファンドであるようです。
(JFザ・ジャパンの2002年〜2012年8月までの基準価額チャート、モーニングスターより)
当初は「やはり長寿の投信には探せば素晴らしいものがある」と書くことを想定していたのですが、ぱっと見たところ、「これは是非ただちに投資を検討しよう」というものは見当たりませんでした。ただ、債券運用型の投信では良いかなと思ったものもあります。具体的には、「フィデリティ・ストラテジック・インカムA(信託報酬1.60%)」「フィデリティ・ハイ・イールド・ボンドBコース(信託報酬1.73%)」、もう1本加えるなら「BAM ワールド・ボンド&カレンシー・ファンド(信託報酬1.52%)」といったところです。この3本は、過去10年、5年、3年、1年のトータルリターン(年率)でマイナスなしでリターン水準も5%程度以上を目標とするならば全てではないですが概ねクリアーしており、シャープレシオも高いように思います。なお、フィデリティの2本はリーマンショックの時期に20%〜30%と大きく基準価額を下げており、現在も1万円を割っていますが、分配金再投資後のトータルリターンでは長期的には安定したパフォーマンスが出ているようです。分配金を再投資する手間とコストはありますが、海外債券をETFや現物で買って為替ヘッジをしたいと思ってもテクニカルに大変だったりもするので、債券クラスの運用でこれらを検討するのは一考かもしれないと思いました。
信託報酬はもう少し低ければ良いのですが。。。同種の投資信託ではもう少し信託報酬が低いものもありそうですので、おいおい見ていこうかと思います。
投資信託は、純資産が増えると信託報酬も下がるという変更を行うつもりがあるのか(変更ルールがどうなっているか分かりませんが)、コスト面でも改善されていくと、いち個人としては嬉しいところであります。
長寿ファンドを5名は独立した立場にあり、信頼のおけるレベルにある方々だと思いますので、ここに掲載されているのは、10年以上の長寿投信の中で選ぶのならば恐らく間違いなく「良い投信」であるのだと考えて良いのだと思います。
日経記事では、プロが「推薦」する投信ではなく「注目」する投信という表現になっている点も、念のため申し添えます。
米国では、80年以上も運用が続いている投信が多数あり、紹介がされています。運用会社は、MFS、パトナム・インベストメンツ、パイオニア・インベストメンツ、DWSインベストメンツ、バンガード、フィデリティ、ドッジ&コックス、イートン・バンス、アライアンス・バーンスタインといった面々。「共通する特徴的な運用方針と積極的な情報提供、そして着実なリターン」とのこと。日本発でもこのような運用会社が誕生して欲しいものです。
なお、日本で買える最も古い株式投信は本稿でも選ばれている61年に誕生した「大型株ファンド」(大和投資信託)ということです。
最後に、本記事の中で、モーニングスターの朝倉社長は、「米国では老後の年金のため、個人が投信でじっくりお金を増やすのが一般的」と指摘しています。ファイナンシャル・ジャーナリストの竹川氏によると、「投信は長期の資産形成のために買う商品。日本の個人は意識を高める必要がある。プロの腕に資産を託すアクティブ型ではなおのことだ」ということです。
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