分量は61頁と多いですが、オリンパスの報告書を引用しながら的確に要約されています。
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新日本有限責任監査法人 2012/3/29
「新日本有限責任監査法人 オリンパス監査検証委員会報告書」
http://www.shinnihon.or.jp/about-us/news-releases/2012/2012-03-29.html
ロイター 2012/3/29
新日本の検証委、オリンパス監査で「法的責任認められず」
http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPTYE82S05720120329
オリンパスの行った「第三者委員会調査報告書」「監査役等責任調査委員会の調査報告書」の上に、新日本有限責任監査法人が独自に外部調査委員会を立ち上げ、自らの会計監査に責任はなかったかを検証した報告書です。
オリンパス 更新日:2012年1月17日
第三者委員会など調査委員会報告
http://www.olympus.co.jp/jp/info/2011b/if111206corpj.cfm
国内3社の買収を機に、それ以前の会計監査を担当していたあずさ監査法人とオリンパスは2009年3月期に契約解除し、2010年3月期以降、新日本監査法人がオリンパスの会計監査を行っています。
オリンパス事件は、1980年代からの財テクの失敗を1998年〜2000年にかけて960億円もの含み損を連結対象外のファンドに簿価で買い取らせることにより簿外に飛ばし(「損失分離スキーム」)、その後、2003年から2008年にかけての国内三社のM&Aや2008年2月の英ジャイラス社の買収にあたり過大な評価を行い資金を流すことにより含み損を補填した(「損失解消スキーム」)ものです。
オリンパス事件の本質は、金融商品の含み損の表面化を損失分離スキームにより後ろ伸ばしにし、損失解消スキームにて「のれん」を計上し損益への影響を平準化しながら償却しようとした、すなわち、「上場会社の各決算期の資産、負債、損益等の財務内容が証券市場に正しく開示されなければならないという公正開示義務に違反し、証券市場の公正を害したことに求められる」(p15)としています。
大きな特徴として、「一般的に、多額の負債を隠蔽する粉飾決算が行われる会社は、収益力が低下し、長年にわたって損失を出し続けて実態は債務超過に陥っている場合が多く、粉飾決算によって損失を隠蔽しても、それは「一時しのぎ」に過ぎず、最終的には経営破綻という結末に至る」(p13)ものなのですが、「損失の発生は、会社の事業とは別個に行われた金融商品取引によって発生したもので、事業そのものの収益力には格別の問題はなく、それどころか、「飛ばし」によって、損失を隠蔽した後に、各事業部門の収益力がさらに拡大したことで、隠蔽していた損失までも比較的短期間で解消することが可能となった」(p13)ため、要は、「その損失が原因で最終的に経営破綻したというのではなく、会社の本業には過去も現在も格別の問題はなく、現在の事業の状況にも大きな問題はなく、金融投資の失敗によって発生した損失を、過去の一定期間隠蔽していた問題である」(p14)としています。FACTAの記事により元社長のウッドフォード社長が問題視をしていなければ、やり過ごして逃げ切っていた可能性もあるということです。
本報告書は、あずさ監査法人との引き継ぎが適切だったかや、新日本監査法人に引き継いでからのジャイラスの優先株の評価等についての監査手続について、結論としては、新日本監査法人に善管注意義務違反なし(法的には責任なし)としています。
テクニカルな部分は省略しますが、会計監査人の責任の有無として、結果として問題を見過ごした監査法人にはやはり責任があるんじゃないのかという声がよく聞かれます。
この点について、本報告書では「監査役等責任調査委員会の調査報告書」を引用しつつ、「責任調査委員会報告書においては、不正の兆候を認識していたあずさ監査法人の監査は、基本的に監査基準委員会報告書第11号「違法行為」、第35号「財務諸表の監査における不正への対応」等に従った妥当なものであるとしている。また、松本報告書と、違法性監査を職責とする監査役が不正がないと判断している点について、その判断を不当として意見不表明等すれば、オリンパスや株主などから責任を追及されるリスクを負うが、そのようなリスクを負ってまで監査人が不正の発見を要求することは法が予定していないとして、無限定適正意見を出したことは監査人の注意義務に違反しないとしている(同報告書138頁)」(p12)と説明しています。松本報告書というのは、国内3社のM&A金額が巨額であるとしてあずさ監査法人が監査役会に調査を促し、第三者により調査がされ、特段の問題は指摘されなかったとするものです。
なお、「第三者委員会調査報告書」では、「監査役に業務監査権限の発動を促したり、金融商品取引法第193条の3の発動を仄めかしたりして、問題提起をしていることは評価しつつも、監査役会が松本報告書をベースに問題なしとの結論を出したことに対し、その内容を吟味することなく無限定適正意見を出したことは、問題なしとしないと指摘していた(オリンパス報告書170頁)」(p12)とされています。
このあたりは一般に理解しずらいものですが、取締役会やその業務のビジネスジャッジの妥当性を監査する立場にある監査役がM&Aの金額は妥当であると判断しているにも関わらず、取引の結果が適正に財務諸表に反映されているかを判断するべきである監査法人が取引の妥当性の判断を不当として財務諸表に無限定適正意見を出さないということまでは要求できないし、疑わしいというだけで「おかしい」という明確な根拠もなく意見不表明等すれば、オリンパスや株主などから責任を追及されるリスクを負うが、そのようなリスクを負ってまで監査人が不正の発見を要求することは酷であり法も予定していないということなのかと思います。
どんなに十分な疑念をもっても、会社の外へ支払われ、監査の対象外であり何のアクセスも出来ないその先の資金の流れ(先の先への資金の流れ)は分からないし、今回は本当に問題があったものの、他に問題のないものを少しでも怪しいのなら全て「疑念あり」(意見不表明)としたら、かえって混乱を招くとも思えます。
一方で、社会は、やはり会計情報の公正な開示を資本市場の前提として期待しており、その期待ギャップをどう埋めるかは永遠のテーマでもあり、会計監査の限界論という話にもなります。
本報告書のp50以降では、「第5章 会計不正への対策としての監査品質向上に関する提言」を見ても分かります。今後の公正開示義務違反の発生防止・早期発見のために新日本監査法人としていかなる取組みを行うべきかを検討したものが挙げられています。
内容は、「第1 会計監査の実務面に関する取組み」として、1 リスク要因の把握と活用、2 会計不正に関する情報の収集と活用、3 引継ぎに関する監査法人間の連携・協力、4 クライアントの会社機関との問題意識の共有、情報交換等の連携・協力、5 不正調査体制の強化と実施についての判断基準の明確化、6 監査法人内における研修・教育の充実が、「第2 制度の見直しに対する働きかけ」として、1 金融商品の会計基準の改訂、2 企業結合に関する会計基準の改訂、3 監査基準委員会報告書 900(前第 33 号)の改訂とあります。
このあたりはどうしても決め手には欠く印象があり、隠蔽が行われる中で、取締役会や監査役が機能不全の状況において、本質的に解決できる方法論はないのだなという気がするものであります。
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(本ブログでの関連記事)
・2012/1/21 オリンパス上場維持決定!
http://money-learn.seesaa.net/article/247509665.html
・2011/12/4 オリンパス 上場廃止か維持かの可能性についての論点まとめ
http://money-learn.seesaa.net/article/238620624.html
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