来週(12/5の週)にも第三者委員の報告書が公表されるのではと報道されていますが、上場は維持されるのか、廃止になるのか、についての論点を整理してみたいと思います。
オリンパスが上場廃止になり得る要因として指摘されている点をまとめると、次のものが挙げられます。
1 四半期報告書の提出遅延(12月14日までに提出出来ず)により上場廃止
1をクリアーした場合、次に、訂正の内容の影響がどのようなものであるかが問題になります。
2 決算訂正により過去に2期連続債務超過であった場合
3 訂正後の財務諸表への会計監査人(監査法人)の監査意見
4 虚偽記載の影響が重大であるか
5 反社会的勢力との関わりの有無
これらは全て東京証券取引所の上場規則で定められています。関連する部分については本記事末尾にて抜粋しています。
個々の内容について見ていきましょう。
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1 四半期報告書の提出遅延(12/14までに提出出来ず)により上場廃止
上場会社は四半期に1度決算を行い、決算状況等を記載した「四半期報告書」というものを提出しないといけません。「四半期報告書」の提出ですが、四半期末日(3月決算のオリンパスは第2四半期末の9/30)から45日以内という法定期限があります。事情により45日以内に間に合わない場合、その後1ヶ月以内に提出出来ないと上場廃止になります。
オリンパスは、四半期報告書の提出が金融商品取引法の規定する11月14日に間に合わず、東京証券取引所から監理銘柄に指定されています。1カ月後の12月14日までに四半期決算を提出できない場合、自動的に上場廃止になります。
四半期報告書の作成作業がこの期限に間に合うよう、第三者委員会は12月初旬をメドに調査報告をまとめる方針と伝わっています。
11月30日には、ウォールストリートジャーナルの観測で12月14日までに間に合わないのではないかという報道を受け株価が下落しましたが、会社がその日のうちに「12月14日までに提出出来るよう準備を進めている」と発表し、株価も落ち着きを戻すという場面もありました。
<オリンパス開示資料 2011/11/30>
当社の平成24年3月期第2四半期報告書提出に関する一部報道について
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/data/tes/2011/pdf/nr20111130.pdf
<関連記事>
ロイター 2011/12/2
〔焦点〕オリンパス<7733.T>の四半期報告提出期限、延長は非現実的 上場維持に向け大詰めの作業
http://jp.reuters.com/article/stocksNews/idJPTK067591820111202
2 決算訂正により過去に2期連続債務超過であった場合
東京証券取引所のルールによると、上場会社がその事業年度の末日に、債務超過の状態である場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったときには、上場廃止になります。
オリンパスの場合、過去に1000億円もの有価証券投資の含み損の飛ばしを行っていたと報道されています。ただ、過去の英ジャイラス社や国内3社(アルティス、News Chef、ヒューマラボ)の買収を通じた資金の補てんにより解消しているとも伝わっています。
また、有価証券報告書の訂正自体は過去5年間について行い、それ以前の影響については数値の公表をもって行うということのようです。
オリンパスの平成19年3月期から平成23年3月期の純資産をざっと見ると、平成19年3月期には3448億円、平成23年3月期には1668億円です。平成21年3月期に、国内3社の減損損失やジャイラスのFAフィーの一部等で1103億円を特別損失に計上し、平成21年3月期の純資産は1687億円になっています。
(なお、2009年3月期をもって、監査法人があずさから新日本へ異動しており、1103億円の特別損失計上の経緯が原因と憶測されています。)
平成23年3月期の純資産は、過去に計上されたのれんの一部が修正になりそうです。対象となるのは、平成23年3月期ののれんの内訳のうち、ジャイラスの1353億円とアルティスの26億円です。
会社の説明によると、「Gyrusののれんの評価は外科事業の減損テストの中で確認されており、 2011年3月末時点で減損の兆候は無い」として、「1990年代ころからの有価証券投資等による損失は、 Gyrus社の優先株を買い取る前にすでに発生しており、当該損失が過年度の損益計算書の適切な期間に計上されていなかった可能性がある。適切な決算期に当該損失を計上するように訂正すると、結果として優先株の買取り及び最終的な株式取得に係るFA費用の支払自体がなくなり、のれん(2011年3期現在で418百万ドル(334億円))もなくなる可能性がある」ということです。一応は、334億円+26億円=360億円が修正額になりそうと言えます(ジャイラスののれん1000億円が残ると、修正後で1300億円程度と見込まれるオリンパスにとっては、今後の大きな減損リスクが残ることになります)。
<オリンパス開示資料 2011/11/17>
過去の損失計上先送り及び第2四半期報告書の提出に関する追加情報について
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/data/tes/2011/pdf/nr20111117.pdf
平成19年3月期には3448億円の純資産がありますから、1000億円の損の計上タイミングが変わったとしても、有価証券報告書の訂正期間で2期連続債務超過になるということはなさそうです。1990年代等に遡ると2期連続債務超過になっていた可能性はありますが、その場合、虚偽記載の東証の判断に影響するものと思われます。
また、過年度の決算訂正を行った場合に、訂正後に2期連続債務超過であったことが明らかになった場合、「自動的に上場廃止」か「東証の虚偽記載の重要性の判断に影響する事項」かは不明です。
少し調べてみると、株式会社アイ・ビー・イーホールディングスという会社が上場廃止になった時の理由によると、「虚偽記載の内容は、(略)2期連続で債務超過であって過去上場廃止基準に定める要件に抵触するものであり、投資者の投資判断を大きく誤らせるものであった」ことが挙げられています。http://www.tse.or.jp/sr/activity/jokan-haishi/2347.pdf
「自動的に上場廃止」なら、2期連続債務超過であったから以上で説明が終わっても良いのですが、他の事由と合わせて上場廃止の理由とされていることから、「東証の虚偽記載の重要性の判断に影響する事項」として極めて悪影響を与えるという考えることも出来ます。
3 訂正後の財務諸表への会計監査人(監査法人)の監査意見
東京証券取引所のルールによると、監査報告書については「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨(天災地変等、上場会社の責めに帰すべからざる事由によるものである場合を除く)が、四半期レビュー報告書については「否定的結論」又は「結論の表明をしない」旨(特定事業会社の場合にあっては、「中間財務諸表等が有用な情報を表示していない意見」又は「意見の表明をしない」旨を含む。)が記載され、かつ、その影響が重大であると当取引所が認める場合に、上場廃止になります。
会社が頑張って訂正後の有価証券報告書、四半期報告書を提出しても、監査法人が監査意見を出せず(過去の資料の紛失等の理由により十分な証拠を確かめられなかった等)、影響が重大であると東証が認める場合には上場廃止になるということです。ケースとしては珍しいですが、限定付適正意見(四半期報告書においては限定付の結論)という場合には、上場廃止自由に当たりません。
4 虚偽記載の影響が重大であるか
東京証券取引所のルールによると、上場会社が有価証券報告書等に虚偽記載を行い、かつ、その影響が重大であると当取引所が認める場合には、上場廃止になります。
このポイントが、オリンパスにおいても1番の焦点となっています。
「影響が重大」という場合は、どういう場合かということが明らかでなく、東証の個別判断に委ねられています。
一般的な説明では、「刑事事件になると悪質性が高いとして影響が重大であるとの判断に大きく影響する」とされるようです。ルール上は、刑事事件イコール上場廃止ではありませんが、例として、役員らが刑事告発された、西武鉄道、カネボウ、ライブドアは上場廃止となりましたが、行政処分の課徴金となったIHI、日興コーディアルは上場が維持されています。
他に、過去の決算の訂正額の大きさや虚偽記載の期間、組織的に行われていたかや、手口の悪質さなどが東証の判断のポイントとされています。
オリンパスの場合は、蓋を開けるまでは何が起こるか分かりませんが、報道のムードからは、少なくとも法人としては行政処分による課徴金とし、上場が維持される方向性で調整が進んでいる模様です。
オリンパス問題の発端を受け、11月10日前後には400円台となった株価は、行政処分で上場維持の方向との報道で急速に切り替えし、1000円に戻したという経過となっています。
内視鏡で高い技術力と製品力があり世界で7割のシェアがあり本業は良好で、外国人株主も多く影響が大きいためというのが上場を維持する理由と思われます。長年に渡って巨額の損を隠してきたことは重大で、上場維持とすることは他の上場会社の経営者への規律が示されないので甘いのではないか、市場の健全性を保つ必要があるという理由で、上場廃止とすべきだという反論もあります。
事情は1つのニュースで急変する可能性もあり、余談は許さない状況です。
<関連記事>
ロイター 2011/12/3
オリンパス上場廃止なら、株式売却できない問題も=民主・作業チーム
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE7B102720111202
5 反社会的勢力との関わりの有無
東京証券取引所のルールによると、「上場会社が反社会的勢力の関与を受けているものとして施行規則で定める関係を有している事実が判明した場合において、その実態が当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を著しく毀損したと当取引所が認めるとき」には、上場廃止になります。
近年、反社会的勢力との関係排除は、極めて厳しい姿勢が取られていますが、この規定について、具体的な基準は不明で、これにより上場廃止になったという事例も見聞きしたことはありません。オリンパスの件では海外への資金の流れを通じて色々な憶測も立っています。
現地時間11月17日のニューヨーク・タイムズ電子版に、約49億ドル(約3760億円)の不透明な資金があり、うち1000億円を超える巨額資金が暴力団などの反社会勢力に流れたとする記事が掲載され話題になりましたが、オリンパスより否定するコメントが出されています。
<オリンパス開示資料 2011/11/21>
当社に関する一部報道に対する第三者委員会からのコメントの受領について
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/data/tes/2011/pdf/nr20111121.pdf
まとめると、このブログの掲載時点(2011年12月4日昼)では、今のところの報道の流れとしては上場維持の方向が示されており、また、決定的に上場廃止になりそうだという要因は見当たりません。
ただ、調査報告書次第では流れが変わっていく可能性はあります。飛ばしの実行行為を行った前経営者や法人としてのオリンパスにどのような対処がされるかも影響があります。
<参考:東京証券取引所の有価証券上場規程より抜粋>
http://www.tse.or.jp/rules/regulations/1-6.pdf
(上場内国会社の上場廃止基準)
第601条 本則市場の上場内国株券等が次の各号のいずれかに該当する場合には、その上場を廃止する
ものとする。この場合における当該各号の取扱いは施行規則で定める。
(5) 債務超過
上場会社がその事業年度の末日に債務超過の状態である場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき。
(10) 有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延
2人以上の公認会計士又は監査法人による監査証明府令第3条第1項の監査報告書又は四半期レビュー報告書(公認会計士又は監査法人に相当する者による監査証明に相当する証明に係る監査報告書又は四半期レビュー報告書を含む。)を添付した有価証券報告書又は四半期報告書を、法第24条第1項又は法第24条の4の7第1項に定める期間の経過後1か月以内(天災地変等、上場会社の責めに帰すべからざる事由によるものである場合は、3か月以内)に、内閣総理大臣等に提出しなかった場合
(11) 虚偽記載又は不適正意見等
次のa又はbに該当する場合
a 上場会社が有価証券報告書等に虚偽記載を行い、かつ、その影響が重大であると当取引所が認める場合
b 上場会社の財務諸表等に添付される監査報告書又は四半期財務諸表等に添付される四半期レビュー報告書において、公認会計士等によって、監査報告書については「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨(天災地変等、上場会社の責めに帰すべからざる事由によるものである場合を除く。以下このbにおいて同じ。)が、四半期レビュー報告書については「否定的結論」又は「結論の表明をしない」旨(特定事業会社の場合にあっては、「中間財務諸表等が有用な情報を表示していない意見」又は「意見の表明をしない」旨を含む。)が記載され、かつ、その影響が重大であると当取引所が認める場合
(19) 反社会的勢力の関与
上場会社が反社会的勢力の関与を受けているものとして施行規則で定める関係を有している事実が判明した場合において、その実態が当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を著しく毀損したと当取引所が認めるとき
<関連記事>
2011/11/14
大和総研 資本市場調査部 制度調査課
いまさら人には聞けない有価証券報告書等虚偽記載
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/securities/11111401securities.pdf
(メモ)
ロイター 2011/11/11
インタビュー:オリンパス、制裁金活用で上場廃止回避を=大杉教授
http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPJAPAN-24127220111111?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0
・投資家の利益を守るため、会社側が再発防止対策を徹底して東京証券取引所が東証が2008年7月に導入した上場契約違約金(制裁金)制度を活用、上場廃止を回避することが望ましい、と指摘
・現在の法律の条文に照らすと(虚偽記載の)時効は10年。だが、(事件が発生した)当時の法律が適用されるため、粉飾決算が行なわれたその時の法律をみる必要がある。時効の期間はかつての法定刑によると3─5年あたりになりそうだ。菊川前社長の前任者やさらにその前任者は罪を免れる可能性
・金融商品取引法(21条の2)は、投資家が直接会社に対して損害賠償請求できるとしている。下落した金額のすべてを請求できるわけではないが、有報の虚偽記載から生じた損害は請求できる。粉飾決算で上場廃止になったライブドアのケースでも、損害賠償請求訴訟があった。裁判所が算出する損害額の計算の仕方はそれぞれ違い、まだ最終的に判例が確定していないため、一定のベンチマークやパターンはない。いずれにしても、集団訴訟は今後増えるだろう
・監査法人は今回の大規模なM&Aについて当然チェックはするが、最終的に払っているお金が適正か否かには経営の判断が入る。会社側が自分たちの判断で、将来性があるためM&Aに高額を支払ったと言い張れば、監査法人はどこかで引き下がらざるを得ないこともあるだろう。監査では、帳簿上の数字がおかしいとか、お金の出入りの後付けができない場合は会社に問いただせるが、取引の妥当性について問いただせることは限られている
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