2011年06月08日

東京電力 2011年3月期決算 監査法人による監査意見についての解説 2





(前回からの続き)
前回:http://money-learn.seesaa.net/article/205594435.html

前回記事では、「そもそも監査法人による会計監査とは何なのか」「無限定適正意見とは何か」「震災を受けての監査意見の特例について」というようなお話をしました。
今回はその続きです。

改めて、東京電力(9501)の適時開示です。
平成23年5月25日「平成23年3月期計算書類等に係る監査報告書受領に関するお知らせ」
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120110525036738.pdf

監査報告書に「追記情報」の記載があるとされています。
(東京電力の追記情報の記載事項の要約)
1.継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる
2.賠償支払いの引当について、賠償額を合理的に見積ることができないことなどから、計上していない
3.原子力発電所の廃止コストについて、燃料取出しに係る費用も含め変動する可能性があるものの、現時点の合理的な見積りが可能な範囲における概算額を計上している
4.原子力発電所の解体費用の見積りについては、被災状況の全容の把握が困難であることから今後変動する可能性があるものの、現時点の合理的な見積りが可能な範囲における概算額を計上している
5.「資産除去債務に関する会計基準」及び「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」を適用している




監査報告書に付される追記情報とは、監査人の意見とは別に、説明又は強調することが適当と判断した事項については、情報として追記するものとされています。
すなわち、会計監査人が、監査証明を付ける財務情報(決算書)について、財務情報の利用者に対して特別に「この点は気を付けてね」と留意を促している事項ということです。
会計監査制度は、あくまで決算書を作るのは会社、会計監査人は決算書の作成には関与するものではなく、決算書を信頼して大丈夫か(適正性)ついて意見を述べるものというのが大前提の建前となっています。財務諸表の作成責任は会社にあり、監査する責任は監査人にあり責任分担が別途であるという二重責任の原則と呼ばれます。
東電の場合、まず、財務諸表及び継続企業の疑義の注記や賠償支払いの引当について賠償額を合理的に見積ることができないことなどから計上していない等の点について決めたのは東電の経営者であり、会計監査人はその内容について全体として信頼して大丈夫だよと意見を述べ(無限定適正意見を表明)、ただ継続企業の疑義の注記や賠償支払いの引当について賠償額を合理的に見積ることができないことなどから計上していない等の点については注意が必要ですと注意を促している(追記情報)ということになります。
現実的には、監査報告書に「無限定適正意見」が付かないことは震災の特例を除き通常の場合には上場廃止になってしまう一大事ですから、決算書の作成過程では決算の方針等について、東電の経営者と会計監査人の新日本有限責任監査法人の会計士と十分な打ち合わせや擦り合わせを行っているのでしょうが、決算の方針を一義的に決めるのは会社の経営者ということです。
一般の報道等で、いかにも会計監査人である監査法人が決算の方針を決めているかのような記載がされていることがありますが、監査法人は「そんな決算の作り方では無限定適正意見にならないよ」と会社を「指導」する立場ではありますが、厳密には正確ではありません。
具体的にどのようなものを追記情報とするかは、日本公認会計士協会による実務指針(監査報告書作成に関する実務指針)や監査基準に定められ、それに則って記載がされます。1継続企業の前提や5会計方針の変更で影響のあるものは常に重要なためルールに基づき追記情報となり、賠償等の特に影響が大きい2〜4の項目は新日本有限責任監査法人が重要な事項として注意喚起を行っているものと言えます。
(参考)
監査基準の改訂に関する意見書及び監査基準(平成22年3月26日 企業会計審議会)
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/tosin/20100329/01.pdf





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posted by ASK at 21:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 会計/税金 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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