日経2011/5/26「東電の11年3月期決算、監査法人が適正意見 」
http://www.nikkei.com/news/article/g=96958A9C889DE0EBE0E0EBEBEBE2E0E4E2E7E0E2E3E38698E2E2E2E2
東京電力(9501)の適時開示:
平成23年5月25日「平成23年3月期計算書類等に係る監査報告書受領に関するお知らせ」
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120110525036738.pdf
平成23年3月期の計算書類及びその附属明細書並びに連結計算書類につき、追記情報とともに無限定適正意見を表明した監査報告書を、会計監査人から昨日受領し、会計監査人の監査の方法及び結果が相当であることを認める旨の当社監査役会の監査報告書を受領したとされています。
そもそも監査法人による監査とはどういうものなのでしょうか。
一定規模以上の会社には、例えば銀行等の債権者、株主といった様々な利害関係者がいて、その社会的影響も大きなものになります。利害関係者は会社の財務情報(決算書)を一つの意思決定の判断材料として、債権者は会社に融資しても大丈夫か、投資家は会社に投資すべきかどうか、決めるわけです。
それが、そもそも財務情報が信頼出来ないかもしれないとなると、融資や投資の可否の意思決定の前提が揺らぐこととなります。公表されている財務情報が正しくないかもしれないと思ったら、不安になってしまい、融資や投資出来るものも出来なくなってしまいます。会社としても資金調達の支障が出るため困りますし、かと言って、債権者や投資家が個別に会社の状況を調査するのもコストが掛かりすぎます。
そのため、会計の専門家が会社に「会計監査」を行い、会社の公表する財務情報について「信頼しても大丈夫かどうか」という意見を付ける会計監査制度があります。
この「会計監査」を行うことが出来る国家資格が「公認会計士」という資格です。
監査を行うために公認会計士の集まった組織を「監査法人」と言います。
監査法人(又は公認会計士)による監査を受けることは上場会社は必須です。
「決算書へのお墨付き」などと言われることもありますが、会計監査制度というのは、資本主義経済の社会的インフラというわけです。
「無限定適正意見」というのは、少々分かりずらい言葉ですが、「財務諸表の全体において意思決定の判断が変わるような重要な誤りはないですよ」という会計専門家の「意見」になります。何で「全体において重要」なのかというと、1円単位の細かい金額まで正しいかどうかチェックすることは、財務情報を必要としている人たちにとって大きな問題ではないですし、会計監査をする方もされる方も社会の要求に対して費用対効果が合いません。また、利害関係者は決算日から少しでも早く決算の状況を知りたいわけですが、財務情報の細かい誤りまでいちいち修正していたら、コストだけでなく時間もものすごく掛かってしまいます。そのため、「例え情報に誤りがあったとしても利害関係者が判断を変更するようなものではないでしょう」という程度を基準として、会計監査は行われます。この程度は、「重要性がある」とか「重要性がない」という言い方をします。
なお、無限定適正に対し、財務情報に個別に重要性が高い問題が残ったままだと、「この部分については誤りがあるが、他の点には総じて重要な誤りはないですよ」という「限定付適正意見」になります。個別に重大な問題か複合的な重要性の高い問題があると、「不適正意見」になります。最後に、例えば会社の提示する情報に不足があり会計士が問題があるのか大丈夫なのかが判断が出来ないような事態である場合は、財務情報が信頼して大丈夫かどうかの意見を行わない「意見不表明」となります。
財務情報が無限定適正意見でない場合は上場廃止という罰が会社に与えられ、ほとんどの場合、公表している財務情報に無限定適正意見が付くことは実務的には「いわば当然」であるため(後述の通り今回の震災に関しては特例もありますが)、通常、無限定適正意見である場合に適時開示が出たりニュースになったりすることはないのですが、東京電力の決算に、「監査意見がどうなるか」に関しての注目がそれだけ高かったということなのでしょう。
決算短信発表後、監査報告書についてのニュースが出るまでの間、一部において、偶発債務の金額的影響が大きすぎるので、あるいは、継続企業の前提に関する注記について、意見不表明になるのではないかという見解等が指摘されていました。
代表的なものは下記の記事です。
現代ビジネス経済の死角 2011/5/23
在ロンドン会計評論家 細野祐二「東京電力「疑惑決算」に出される「不毛監査意見」会計のプロが警鐘」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/5660
このブログでは、この記事には誤解を招くような内容もある気がしますがあえて論表は行いませんが、著者は偶発債務の金額的影響と会計処理を問題視しています。
細野氏はキャッツという会社の会計監査を行っていた件で事件になり色々あった方ですが、財務分析の論評には一定の評価をされている方ではあります。
下記本は会計的には一般にはマニアックな内容ですが、日興やJALについて問題が表面化する前に指摘していたもので、目の付けどころは秀逸であります。
また、決算発表後の記者会見において、清水社長の下記のようなコメントもあり、大丈夫なのかという心配を誘う場面もありました。
産経ニュース2011/5/20
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110520/biz11052016480043-n2.htm
清水社長「これから先は監査法人の厳しいチェックが待っている。感触を含めてどうなんだと尋ねなら、結果を含めて、事業者としては何ともお答えしかねる。ただ、意を尽くして先生方にもご説明を尽くした気持ちでいる。先生方からの監査報告書がいつになるかは分からないが、お待ち申し上げている」
決算短信と監査報告書の関係について。
決算短信というのは、東京証券取引所の上場規則に基づく開示書類であるため、それ自体に監査意見が法的に要求されているわけではありません。
決算短信のP2は下記のような記載があります。東京電力に限らず、他の会社においてもお決まりの文言です。
「*監査手続の実施状況に関する表示
この決算短信は、金融商品取引法に基づく監査手続きの対象外であり、この決算短信の開示時点において、金融商品取引法に基づく財務諸表の監査手続きは終了しておりません。」
決算短信と監査意見の付される有価証券報告書との関係等は以前書いた下記記事をご参照下さい。
会計の基礎B P/L・B/Sの説明の前置き(そもそも決算書はどこで見る?何が公表されているのか?)http://money-learn.seesaa.net/article/183399342.html
震災を受けての監査意見の特例について。
東京証券取引所より(2011/3/18)「東日本大震災を踏まえた決算発表等に関する取扱いについて」
http://www.tse.or.jp/news/07/110318_e.html
「3.意見不表明を受けた場合の上場廃止基準の適用について
本震災により、上場会社の財務諸表又は四半期財務諸表等に添付される監査報告書又は四半期レビュー報告書において意見不表明等が記載されることとなった場合、監理銘柄指定及び上場廃止の対象とはなりません 。またその旨の開示も必要ありません。」
これは、「本震災により」決算のための資料の一部紛失等で意見不表明等になった場合は特別に上場廃止にはしないよという意味だと思われます。
東京電力の決算が仮に意見不表明になった場合、東京電力の場合は震災を原因とした原発事故によるもので、「本震災により」直接的な原因によるものではないため、この特例が適用されるのかどうか個人的には断定出来ないところではありました(社会的影響を考慮し適用されていたのでしょうが)。
(続きます)
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