これは、税効果会計と呼ばれる会計処理によって出る調整額です。B/Sの繰延税金資産の前期末と当期末の増減が当期の法人税等調整額となります。
(最近は少なくなった気はしますが、)繰延税金資産について、新聞等で「税金の還付の前払い分」などと説明されることがありますが、繰延税金資産の増減にキャッシュの動きが伴うものではないため、正確ではありません。
法人税等調整額は、税効果会計と呼ばれる会計上の処理で、会計上の収益−費用と税務上の益金−損金による差異を調整するものです。
(正確には、会計上の資産または負債の額と課税所得計算上の資産または負債の額に相違がある場合において、それらの相違に係る法人税等の計上額を適切にP/Lに期間配分することを目的とする会計上の手続をいいます。)
以下、どういうものかのイメージとして、簡単な例を用いながら説明をします。
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P/Lで「法人税、住民税及び事業税」(以下、「法人税等」といいます)が計上されますが、この法人税等の算出は税金計算を行い、会計上の利益を調整して行われます。(*法人税等については下記参照)
利益は収益から費用を差し引いて計算するものでした(会計上の収益・費用に対する税務上の用語で収益を「益金」、費用を「損金」といいます。以下、混同しないよう使い分けます)。
利益の計算は、会社の適正な決算をする会計(一般に公正妥当と認められる会計基準)と税金の計算をする税務(法人税法)でそれぞれのルールにより定められています。
そのため、会計上の利益から、会計上の収益・費用と税務上の益金・損金の差異を調整して税金計算を行います。
税効果会計の基本について、簡単な例として下記の数値例のイメージで説明をします。
例えば、引当金は、会計上将来の費用の発生が見込まれた時点で計上するものでしたが、引当金の多くは税務上はキャッシュの実際の支払い時に損金となりますので、引当金の費用計上額を会計上の利益に加算して税金を計算します。
会計上、当期の税前利益が400で退職金の引当金を当期に100計上したが引当金の支払いは当期には行われていないとすると、400+100の500が税務上の所得(利益)となり、法人税等の利益に対して掛かる割合(実効税率)は日本は約40%ですので、500×40%の200がおおよそ当期の利益に対して納付する法人税等(P/Lの法人税等の計上額)となります。
ここで、次の期(翌期)に会計上の税前利益が400出ていて、退職金の支払いを100行っていたとすると、100が税務上の損金として認められますが会計上は当期(翌期から見て前期)に既に費用処理していますから、今度は400−100の300が課税所得になり、300×40%で120の法人税等が掛かります。
この時、当期は会計上の税前利益が400に対して法人税等が200、翌期は税前利益が400に対して法人税等が120となりますが、会計上の利益に対して発生するべき法人税等は400×40%で160と言えますから、この会計上の利益と税務上の所得の調整を行うのが税効果会計です。
当期は、税前利益400に法人税等200でしたが、会計と税務の利益の差額100に40%を掛けた40が差になりますので、法人税等200から40を調整し(法人税等調整額)、400−(200−40)=240が当期純利益になります。
この当期に法人税等から調整した40部分は、法人税等という費用をマイナスしたものですから、会計上は資産になります。この資産が繰延税金資産となります。
仕訳で説明すると、当期は(借方)繰延税金資産 40 (貸方)法人税等調整額 40となり、翌期は逆に(借方)法人税等調整額 40 (貸方)繰延税金資産 40となります。
これにより、税務の益金・損金の調整の影響が会計の法人税等の計上額から調整され、会計上負担すべき当期の法人税等が計上されることとなります。
この例の引当金等は、当期に加算するが将来減算されるものなので、将来減算一時差異と呼ばれます。会計と税務の費用又は損金の計上タイミングの異なるものは、ほとんどが会計が「先」で税務が「後」です。全ての差異の要因のうち、将来加算一時差異の項目は少なく、ほとんどが将来減算一時差異となります。
なお、引当金は会計と税務の費用又は損金の計上タイミングによるものですが、例えば交際費は冗長費として税務上損金算入が制限されており、税金計算において会計上の利益に加算しますが、これは計上タイミングによる差異ではなく一度加算したらおしまいで、その後永遠に損金になることはありませんから、一時差異に対して永久差異と呼ばれます。
税効果会計の詳細は有価証券報告書の注記情報として繰延税金資産の発生要因の内訳や、実効税率と税効果適用後の税金費用負担率の差異の要因が情報として記載されています。
以上が税効果会計の簡単なイメージですが、重要な点として留意しておきたい点について一点加えておきます。
「繰延税金資産の回収可能性」についてです。過去にりそな銀行で繰延税金資産の計上が認められず破綻したといった話で有名な論点です。
上記の例に従って説明を加えます。
ここでは、税前利益が翌期にも400ありましたから、翌期において課税所得が発生し100の減算がされ、無事に会計上のあるべき法人税等の負担額が調整されました。
ここで、翌期に会計上の税前利益がゼロになったとします。そうすると、税務計算上は翌期に100の減算はされますので、課税所得はマイナス100になります。課税所得がゼロ以下になると法人税等が発生しなくなります。会計上負担すべき法人税等は税前利益がゼロなので、本来はゼロとなるべきです。しかし、当期に計上した繰延税金資産がB/Sに残っており、翌期に一時差異の減算によって法人税等調整額の40は発生することになりますので、結果的に、翌期に会計上負担すべき法人税等はゼロであるのに法人税等調整額40が計上されることになってしまいます。
このように、将来の課税所得の発生が見込まれない場合には、当期の繰延税金資産の計上はするべきではないというように考えます。税効果会計による当期の法人税等の調整をしないということです。この場合は、当期の法人税等調整額40を行わないということになります(ここでは例なのでこうなりますが、実際には、当期に利益をベースにした課税所得がしっかりと出ていて翌期は出ないと見込まれるケースは極めて少ないです。あくまで説明用の数値例なのでご了承下さい)。そのため、会計上、将来の課税所得の発生を見積り、当期の繰延税金資産を計上すべきか、どれくらいの繰延税金資産を計上するべきかの検討が必要となります。
そこで、過去の課税所得の発生実績や会社の利益計画の見通し等から、将来の課税所得の発生の有無や程度を見積り、一時差異の減算時に課税所得の発生が見込めない分は繰延税金資産の計上が認められなくなります。りそなのケースは、監査法人から事業等の見通しの期間が5年間から3年間に変更するよう指導され、課税所得の見積期間の短縮により減算が見込まれる一時差異の合計額が減少し、一時差異の合計額が減少に伴い繰延税金資産の取崩が行われ、その影響により自己資本が毀損し、公的資金の注入に至ったというものです。
この検討にあたってのルールは、日本公認会計士協会が出している監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」に定められており、これに従って行われます。
監査委員会報告第66号 日本公認会計士協会「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」 :
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/post_693.html
このような繰延税金資産の回収可能性の判断の影響もあり、業績が悪化した際に繰延税金資産の取崩によって法人税等調整額が多額に計上され当期利益がさらに大きく悪化する、逆に、今まで業績等の低迷により繰延税金資産の計上が認められていなかったが業績が回復してきて将来の課税所得の発生が見込まれるようになった段階で繰延税金資産が計上され当期利益が大きく改善する、ということが起こり得ます。
そのような場合に、株価にはこのような税効果による影響の振幅分の影響が織り込まれているのに、見た目のPERが過大になったり過少に見えたりしますので、一般投資家の方は注意が必要となります。
*【法人税、住民税及び事業税】
法人税、住民税及び事業税は利益を課税標準とする税金、すなわち、会社の利益に対して税額が掛かる税金です。
納付先が国だったり市区町村だったりする違いで、それぞれ分かれています。
税金の発生が会社の利益を基とする以外の税金は固定資産税や印紙税等たくさんありますが、販管費として計上します。事業税は利益を課税標準とする分と、付加価値割と資本割といって利益を課税標準としない分があり、利益を課税標準としない付加価値割と資本割は販管費となります。
これは、利益がゼロの場合は発生しません(細かい話をすると、住民税の均等割という最低徴収額のようなものがあり、会社の規模等に応じて数万円とか数十万円とかは発生します)。また、会計と税金計算はルールが別で、いわゆる会計上の利益に調整をして税務上の利益(課税所得)を算出するため、税前利益がゼロ以下なら発生しないというものではありません。
【本ブログでの関連記事】
・会計の基礎C P/Lの見方、読み方
http://money-learn.seesaa.net/article/183402072.html
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