決算短信や有価証券報告書等を見ると、平成23年3月期の期末決算から、一般に下記のような様式でのP/Lが標準になっています。
【基本的なP/Lの様式】
連結損益及び包括利益計算書
(自平成○年○月○日 至平成○年○月○日)
T 売上高
U 売上原価
売上総利益
V 販売費及び一般管理費
営業利益
W 営業外収益
X 営業外費用
経常利益
Y 特別利益
Z 特別損失
税金等調整前当期純利益
法人税、住民税及び事業税
法人税等調整額
法人税等合計
少数株主損益調整前当期純利益
少数株主損益(控除)
当期純利益
少数株主損益(加算)
少数株主損益調整前当期純利益
その他の包括利益:
その他有価証券評価差額金
繰延ヘッジ損益
為替換算調整勘定
持分法適用による持分相当額
その他の包括利益合計
包括利益
(内訳)
親会社株主に係る包括利益
少数株主に係る包括利益
従前のP/Lの「当期純利益」の下に「その他の包括利益」という項目が出てきます。
「包括利益」とは、ここではとりあえず、包括利益とは今までP/Lに反映しなかった保有株式の時価の変動等も含む概念で、会計における「利益」と呼ばれるものの概念のイメージが拡大したといった感じで捉えておけば概ね問題ないでしょう。
包括利益の計算は、当期純利益からの調整計算の形で示すこととなっています。
「包括利益」の増減を「損益計算書」の中に含めるか、「損益計算書」と別に「包括利益」の増減を表した「包括利益計算書」の2つの計算書とするかは会社の選択によります。もちろん、内容的にはどちらも同じです。
(補足)包括利益について別記事で記載:
(記事リンク)http://money-learn.seesaa.net/article/183442928.html
「連結」というのは、親会社とその子会社を合わせた財務諸表のことです。
会社として親会社のみの単体の財務諸表を個別財務諸表(新聞等では単体財務諸表とも呼ばれる)といい、子会社も含めて企業グループ全体の損益計算書を足し合わせたものを連結財務諸表と言います。
わが国では個別財務諸表も開示されていますが、世界の会計ディスクロージャー(開示制度)の潮流としては財務諸表は連結のみあれば良いのではないかというのが流れです。
そのため、これ以降は基本的に、「連結」財務諸表を前提に進めていきます。
P/Lとは会計の仕訳の集計の結果から、収益と費用を差し引き利益を計算するものでした。(会計の仕組みA(試算表とB/S・P/Lについて)⇒http://money-learn.seesaa.net/article/179717866.html)
P/Lの構成ですが、収益と費用をバラして並び変えたものになります。
P/L図のイメージをP/Lの各項目との関係は下記のようになります。
P/Lの各基本的項目の意味合いについて上から順を追って内容の説明をしていきます。
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【売上高】
商品やサービスの提供など、企業の主たる営業活動によって得た収益の総額です。
イメージが沸きやすいところで、スーパーで言えば、客が買い物してレジに集計された金額(売り上げた金額)の合計です。
一般的には企業規模の尺度ともなり、儲けの源泉ともなりますから、基本的かつ重要な指標です。
P/Lの1番上に乗っていることから「トップライン」と言われることもあります。例えば、「トップラインを伸ばす」と言ったら「売上を増やす」という意味になります。
【売上原価】
売上の元となる財やサービスを生み出すために直接必要とした経費の総称です。企業のプロダクトの提供に直接・必要不可欠なコストが売上原価として集計されます。例えば、メーカーでは売上に対応する製品の製造コスト、小売業では売上に対応する商品の仕入れ金額、IT産業ではエンジニアに係る人件費等のコスト、建設業では建築資材や建設現場の人員の人件費等のコスト等といったところになります。
売上原価は、売上高に連動して費用がかかる変動費であると説明されますことがあります。メーカーの製造コストの中に含まれる固定費(工場の減価償却費や工場で働く従業員の人件費等)は売上原価に含まれますので、売上が急激に変動した場合には必ずしも売上と同等の変動率で売上原価も変動するとは限りません。もう少し正確には、固定費は工場の生産数量等(操業度)に応じて単位当たりの製品の製造原価へ配賦されていきますから、例えば、売上の減少に応じて通常は操業度も減らしますから、単位当たりの製造コストが増加し、売上減少に伴い原価率が上昇することが考えられます。
日本の現行開示ルールでは、連結損益計算書における売上原価の費目別の内訳は出されないため、企業がIR資料等で公表しない限り、売上の変動に応じてどの程度売上原価が動くかといったことを費目別に分析は出来ません。(個別財務諸表においては「製造原価明細書」「売上原価明細書」等で内訳が開示されますが、連結財務諸表は開示が必要とされていません。)
売上原価÷売上で売上原価率となりますが、売上1単位に対して何%の売上原価が掛かったかという指標になります。単に原価率とも呼ばれます。
【売上総利益】
売上高からこの売上原価を控除した額は売上総利益となります。一般に、粗利(あらり)と呼ばれます。
企業のプロダクトが生む付加価値、すなわち、企業の営業活動においてどのくらい利益をあげられるかを概算する際によく用いられる指標となります。
売上総利益÷売上で売上総利益率となり、売上のうち粗利がどの程度かという指標となります。粗利率とも呼ばれます。
【販売費及び一般管理費】
略して販管費(はんかんひ)と呼ばれます。英語でのSelling, General and Administrative expenses を略してSGA(えすじーえー)とも呼ばれます。
売上原価のように企業がプロダクトを提供するをするために直接要した費用以外の、企業を運営するために必要な費用全般をいいます。例えば、メーカーで本社と工場が分かれている場合の本社で働く役員や従業員の人件費や本社の家賃又は減価償却費をはじめ本社で発生する諸経費の全て、営業マンの人件費や営業所に係るコストや営業所で発生する諸経費の全て、広告宣伝費、研究開発費等があります。
販売促進費や広告宣伝費、営業コストといった販売費と、管理部門に係る一般管理費を合わせて、販売費及び一般管理費となります。
一般に売上高に関係なく固定的にかかる費用であると言われることもありますが、販売促進費等は売上に対する連動性が強いと言えますから、必ずしも当てはまりません。
【営業利益】
そのまま営業利益と呼ばれることが多いですが、一部の外資系のアナリスト等を中心に英語でのOperating Profitを略したOP(おーぴー)と呼ばれることもあります。
企業の営業活動の成果として重視される利益指標です。
営業利益÷売上で営業利益率となり、売上のうち何%が企業活動全般で残る利益かという指標となります。企業の競争力、価格決定力(プライシング・パワー)がどれほどあるかを示す指標とも言えます。英語でのOperating Profit Marginを略してOP Margin(おーぴーまーじん)とかOPM(おーぴーえむ)とか呼ばれることもあります。
営業利益率はビジネスの特性もありますから、業種によってばらつきがあります。日本企業では、医薬品、自動車、鉄鋼などでは営業利益率が10%を超えている企業が多くみられ、一方、小売、食品、電気等は低い傾向があります。
【営業外収益】
【営業外費用】
企業の本業以外の活動で経常的に発生する収益や費用、財務活動により発生する収益や費用です。
財務活動とは金融収支のことで、簡単な例としては、銀行預金や投資の成果による受取配当等の収益や、借入・社債の利息等の費用があります。
本業以外の活動とは、一般には定款に書かれた活動による収益は売上となり、定款に書かれていない活動による収益は営業外収益とされることが多いかと思います。
営業外収益は、受取利息、配当金、仕入割引、持分法による投資利益などの金融上の収益の他に、本業ではない不動産賃貸収入などが主に挙げられます。
営業外費用は、支払利息、社債利息、持分法による投資損失、繰延資産の償却費、有価証券売却損・評価損、原材料評価損等をいう。ただし、特別損失に記載することが適当であると認められるものを除く。
【経常利益】
営業利益から財務活動等の成果も含めた経常利益は「ケイツネ」と呼ばれ、日本では伝統的に長い間重視されてきている利益の指標です。
英語でRecurring Profit(RP)とも呼ばれ、日本語に造詣がある外国人投資家等からは「ケイツネ」と呼ばれることもあるようですが、外国ではなぜ経常利益が重視されるのか分からないという意見もあるようです。
経常利益÷売上で経常利益率となります。
【特別利益】
【特別損失】
特別損益は、税引前当期利益を算出する際に、経常利益に加算される項目です。企業活動の中で臨時、異常、一時的な巨額な収益や費用として発生した損益のことです。
不動産などの固定資産の売却損益、長期間保有した株式等の売却損益、臨時的な保険料収入等があります。
特に特別損失は、特損(とくそん)と呼ばれ、リストラ費用等を一括して計上される傾向があります。
特別利益・特別損失は、臨時の損益は通常の活動として経常的に得られる利益と一緒にしてしまうと、かえって会社の利益を歪める恐れがあるので、個別の欄を設けて区別してあるものと説明されますが、特別損失にすると営業利益や経常利益が良くなるため企業は特別損失で計上したいという誘因もあり一時的な費用として巨額の特別損失が計上されることもあります。そのため、特別損失で計上する区分が曖昧ではないかという批判もあります。例えば、固定資産売却損益といった項目は、経常的に発生している会社は営業外損益としていたり、常に特別損益としている会社もあったり、バラつきもあったりします。
なお、2015年頃に日本での適用が検討されているIFRSでは、P/Lの上記区分の様式が変わり、特別利益・特別損失という区分がそもそもありません。
【税金等調整前当期純利益】
経常利益に特別損益を加えたもので、一般には税前利益(ぜいまえりえき)と略されます。
税金以外の一定期間の全ての企業活動の成果を表した利益となります。
【法人税、住民税及び事業税】
法人税、住民税及び事業税は利益を課税標準とする税金、すなわち、会社の利益に対して税額が掛かる税金です。
課税標準となる利益の計算は同一ですが、納付先が国なら法人税、市区町村だったら住民税といった違いで、名称が分かれています。
税金の発生が会社の利益を基とする以外の税金は固定資産税や印紙税等たくさんありますが、販管費として計上します。事業税は利益を課税標準とする分と、付加価値割と資本割といって利益を課税標準としない分があり、利益を課税標準としない付加価値割と資本割は販管費となります。
これは、利益がゼロの場合は発生しません(細かい話をすると、住民税の均等割という最低徴収額のようなものがあり、会社の規模等に応じて数万円とか数十万円とかは発生しますがこれは法人税等で計上します)。また、会計と税金計算はルールが別で、いわゆる会計上の利益に調整をして税務上の利益(課税所得)を算出するため、税前利益がゼロ以下なら発生しないというものではありません。
【法人税等調整額】
税効果会計と呼ばれる会計処理によって出る調整額です。B/Sの繰延税金資産の前期と当期の増減が当期の法人税等調整額となります。
最近は少なくなった気がしますが、繰延税金資産について、新聞等でも「税金の前払い分」などと説明されますが、正確ではありません。
税効果会計と呼ばれる会計上の処理で、会計上の収益−費用と税務上の益金−損金による差異を調整を行いますが、法人税等調整額は、この調整によって行われる前期の繰延税金資産と当期の繰延税金資産の増減金額になります。
(補足)税効果会計について別記事で記載:
(記事リンク)http://money-learn.seesaa.net/article/183446783.html
【少数株主損益調整前当期純利益】
税前利益から法人税、住民税及び事業税、法人税等調整額といった税金費用を差し引いたものが少数株主損益調整前当期純利益となります。
これは、企業グループで創出した利益の総額といったイメージになります。
【少数株主損益】
連結損益計算書は、P/Lの作成の主体となる親会社とその子会社のP/Lを合算したものでした。
企業グループは実質的に支配している子会社が含まれ、基本的には議決権が過半数(50.1%以上)の株式を保有する全ての子会社や議決権が50%未満でも40%以上を保有しており意思決定を実質的に支配している会社を含んで構成されています。連結子会社は関係会社と呼ばれます。
子会社の親会社以外の株主は、少数株主と呼ばれます。この子会社の少数株主に帰属する利益を少数株主利益といいます。
例えば、親会社の利益が1000で、60%の株式を保有している会社の利益が500だとすると、少数株主損益調整前当期純利益は1500となりますが、子会社の利益500に対して少数株主の分の40%の200は親会社に帰属するものではありませんから差し引きます。この200が少数株主利益です。
少数株主「利益」は親会社の利益からみたらマイナスの項目になります。ここでのイメージでは、少数株主損益調整前当期純利益1500、少数株主利益200で、当期純利益が1300となります。
【当期純利益】
少数株主損益調整前当期純利益から少数株主損益を加味した親会社の株主に帰属する利益が当期純利益となります。「純」を取って当期利益ともよく呼ばれます。
当期純利益÷売上で当期純利益率となります。単に「利益率」と言った場合には、どの利益に対する売上の割合かはまちまちではありますが、最終利益である当期純利益を指すことが多いようには見受けられます。
【その他の包括利益】
(補足)包括利益については別記事で記載:
(記事リンク)http://money-learn.seesaa.net/article/183442928.html
P/Lは以上です。
B/Sへと続きます。
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