2011年01月26日

外国人投資家が日本株を買う条件 菊地正俊/著 (書評、内容、目次 等)

外資投資銀行ストラテジストの著者が、外国人投資家が日本株をどのように見ているかを解説した一冊です。
全体として語られているのは、世界の中での日本株の相対的なプレゼンスが年々低下していっている現実、また、日本の問題とともに、外国人投資家からの率直な意見や冷淡ともとれる日本への見方です。
本書は、間接的に外国人投資家の声を反映し、日本への提言や警告等も含まれているような気がします。
手軽な新書でもあり、内容的には、概ね、新聞等で断続的に伝えられる類の話の通りで特別に目新しい議論はないですが、業務上外国人投資家の生の声に触れる立場の著者からの一次情報としての価値、また、普段の新聞等では部分的な情報になってしまうものがまとまった情報として確認できるという価値はあると思います。
日本経済については厳しい状況であることは十分に認識される中、著者は、時に悲観を煽るようなメディアとは一線を画し、客観的な記述をされているように見えます。
冷静な文脈でありながらも、著者として日本経済を何とか良くしたいと思っている気持が伝わってきます。(このまま外国人投資家からの日本株の売買やプライオリティが低下をしていくと職を失うリスクが高くなっていく危機感もゼロではないのかもしれませんが)

まとまった表現で接続詞をあまり使わない文章展開もあり、P168からP249までが外資系運用会社の紹介(公表データのみ引用)であることを差し引いても、新書としては、文字数以上には内容は濃いかと思います。

著者は、投資家には株式売買のヒントに、事業会社にはIRや資金調達の一助に、また本書を読む政治家や官僚は少ないと察しながら、外国人投資家の日本に対する厳しい見方と政策に対する期待を分かって欲しいと語っています(本書「はじめに」より)。

前書の「外国人投資家の視点」(2007年12月)、「外国人投資家」(2007年1月)、そして「お金の流れはここまで変わった!」(2008年11月)からは時間が空きましたが、是非一年に1度程度は情報をアップデートした新書の出版を期待したいところです。
個人的に、本書は日本にフォーカスされていますが、さらに、外国人投資家が見る世界経済についても是非ご出版頂きたいと希望します。

外国人投資家が日本株を買う条件 (日経プレミアシリーズ)
菊地 正俊
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 15098


初版発行日 2011年1月12日
全249ページ 新書

著者の菊地正俊氏は、メリルリンチ日本証券調査部チーフ株式ストラテジスト、マネージング・ディレクターです。1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社。大和総研投資調査部などを経て、2000年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。インスティチューショナル・インベスター誌ストラテジストランキング2010年1位。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2010年2位の著名ストラテジストです。(著者紹介文より、本書出版時のもの)
メリルリンチのレポートは広く一般に公開されていないと思いますが、著者個人は、JMM [Japan Mail Media] 「村上龍、金融経済の専門家たちに聞く」にて回答者の一人として、定期的にご意見の発信をされています。
JMM :http://www.jmm.co.jp/dynamic/economy/


<本書の構成と主な内容>
(*memoはブログ運営者による個人的な備忘録です)
第一部
外国人投資家の最近の日本株の売買動向についての解説
memo/
・東証の発表する「投資部門別株式売買状況」で外国人投資家の売買状況が発表される。東証の定義では外国人は外為法第6条に規定する「非居住者」。日本企業の在外支店及び現地法人も非居住者であるため外国人に含まれる。外国運用会社の日本法人も実際の売買注文が本国からであると外国人になる。東証も証券会社からの報告に基づき集計するため厳密な定義は難しい。(p18)
・外国人投資家の主要メディアは、新聞は「フィナンシャル・タイムズ」経済紙は「エコノミスト」が主流。米国では「ウォール・ストリート・ジャーナル」、週刊誌「バロンズ」「」ニューヨーク・タイムズ」の影響も大きい。
・投資家別の日本株保有比率は近年外国人が増加、金融機関が持ち合い解消により減少の傾向がある。(p21)
・海外投資家はROEを重視。国内投資家よりキャッシュフローベースのバリュエーションを用いる。FCFR(株価÷一株当たりキャッシュフロー)やEV/EBITDA(企業価値÷EBITDA)など。
・外国人の売買動向とTOPIXの動きには正の相関関係(0.19)がある。
・日本株の低PBRは低ROEの反映と見なされ、M&Aの欠如も加わり「バリュートラップ」(割安さの罠)から抜け出せないと思われている。
・日本株はアジアの中の一部とみるところが増加傾向。日本株の専門家が年々減っている。
・重視するポイントは@海外経済(米中景気や為替の海外要因)A企業動向B政治や国内景気。時価総額が大きい企業が基本的な投資対象。日本株全体が経済状況、政治要因等によりネガティブな傾向。Japaneseという形容詞に悪いイメージの傾向も。

第二部
外国人投資家の日本の政治、経済、産業、企業を見る視点についての説明
(第2章:外国人投資家が見る日本の政治・経済の課題)
memo/
・日本の構造問題の解決には強い政治的リーダーシップが必要と考えられている。「日本の将来のため、大衆迎合せずに、国民に厳しいことをいう政治家が出てくることを期待しているが、そういうリーダーは出てきていない。(p63)」
・日本では個人政治献金の税制が不十分なため、政治家に影響力を与えるほど献金する投資家は少ない。(p64)
・なぜ消費税引き上げの議論がずっとされていて、実施できないのか不思議(p65)
・「近い将来の国債暴落はあり得ないだろう。」「現在は急落する可能性がないものの、将来的には暴落の可能性が高いとして、長期的視野から日本国債を徹底的に調べているマクロ・ヘッジファンドがいる。」(p68)
・Demographic Invetor(人口問題に注目して投資する投資家)という言葉がある。日本の人口問題に対する関心は強い(p69)。日本は移民が必要だとの意見が多い。「まだ日本に住みたいと思うアジア人がいるうつが花」(p72)
・日銀の金融緩和は不十分と思われている。「最近為替は中央銀行の資産の名目GDP比の変化に反応しているように見える。」(p76)
・海外には日本のマネタリー・ベースの伸び率の差で、円ドルレートを説明するソロス・チャートの信奉者が多い。(p76)
・ヘルスケア、金融は日本の国際競争力が低く成長分野と信じる投資家は少ない。原子力や鉄道は有望と考えられている。(p81)
(第3章:外国人投資家による日本の産業の評価)
memo/
・電機産業の国際競争力低下が著しい。要因@プレーヤーの数が多いAタイミングを控えた思い切った投資ができなかったB高度な技術に溺れて、需要が急増する新興国向け製品開発に遅れた(P86)
・太陽電池も海外の後塵。電池産業はまだ強みがある。
・日本の自動車メーカーが電気自動車時代にも成功を維持できるか疑問がある(p89)
・日本の銀行の構造的な低収益に対する諦めがある(p93)。日本が金融立国になれると信じる者は国内外の投資家で皆無(p96)
・「政府がインターネット、貸金業、介護、労働者派遣など本来は成長性のある産業を次々と縮小に追い込んでいるとの批判がある」(p95)
・日本企業の農業や農機事業に対する外国人投資家の期待は高い(p97)。水産・漁業もグローバルな視点で語られる時代になった(p99)。水関連大手企業が海外で大型インフラ・プロジェクトを受注する日が待たれている(p99)。
・医療、介護、ヘルスケア産業は成長牽引産業として否定的な見方が多い。(p101)
・観光、カジノ産業は成長期待は大きい。特に中国人旅行客に対する期待は大きい。成田は都心に遠いため羽田は24時間国際ハブ空港化へ向けた拡張が必要。カジノ法案のスムーズな成立は難しいだろう。(p102-105)

(第4章:外国人投資家が重視するアジアとの関係)
memo/
・「外国人投資家には日本を中国に対するワラント、悪い言葉で言えば、おまけ(appendix)と見なす向きが出てきた。」(p108)
・日本の新興国関連株より、新興国の株を直接買えばいいという考えが欧米投資家間では増えている。新興国株と比較した魅力を説明しないと日本株は買ってもらえない時代になった。(p110)
・日本の食品、機械等の資本財は評価が高い(p111-115)
・中国企業の日本企業へのM&Aは増えるだろう(p115-118)
・インドでの成長余地は大きい(p118-120)
・貿易立国である日本がFTAやTPPに参加できなければ国際競争力を低下させ、外国人投資家の日本株離れが加速するだろう(p122)

(第5章:コーポレート・ガバナンスとM&A)
memo/
・外国人投資家は、株主の利益増加につながるM&Aは積極的に行うべきと考える(p126)。M&Aで成長する企業は評価される。M&Aの観点で最も評価されるのは日本電産(p134)。
・東証一部(除金融)の11/3期予想ROEは6%。欧米アジアの主要企業のROEは10-15%で日本は低い。ROEは売上総利益率×資産回転率×レバレッジ、マージン(売上総利益率)が低いことが主因。低金利なので資本コストが低いため低ROEが許容されるという議論もあったが世界的低金利で通用しなくなった。(p128)
・依然として買収防衛策は否定的(p130)
・M&Aの内外不均衡も問題視(OUT-INが少ない)(p131)
・英米ではまれな親子上場は英米投資家からは問題視されている。(p138)
・海外投資家は株主重視の考えが徹底している。リーマン・ショック以降、海外投資家と経営者のコーポレート・ガバナンスの認識ギャップは拡大(p141)。
・アクティビストの撤退による不在が生じている。(p148-152)
・日本の運用会社は大手金融機関の子会社が多いため、一般に企業への発言や議決権行使は控えめ(p141、p152)
・役員報酬開示、独立役員選任義務化はそれほど高い関心は呼ばなかった(p156)
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第三部
外国運用会社の紹介
*インターネットなどから入手可能な紹介のみ
(本ブログでの以下の目次に続いて紹介されている外国運用会社の社名を列挙しております)

個人的に特に印象的なのは、「外国人投資家を日本に呼び込むために考えられる方策」(p54-56)です。
個人的には日本経済が弱くなっていくのは大いに困ります。
以下、引用させて頂きます。
・法人実効税率の10%引き下げ
・インフレターゲットの採用
・衆院と参院議員の定数の大幅削減、地方公務員の給与削減、国政選挙の1票の格差是正
・国有資産の売却と財政再建
・医療、労働、不動産市場の規制緩和、派遣労働法改正は廃案、産業間の労働移動を促進するような規制緩和を行う。混合医療の解禁、民間企業の医療事業参入の規制緩和。都市再生のための不動産の規制緩和。
・海外資金の呼び込み策(政府が海外企業による直接投資、日本企業内週を歓迎する旨を宣言する。投資ビザを解禁。
・国民経済のグローバル化宣言(英語・中国語教育の充実、公的建物・施設の外国語表示を増やす)
・証券税制の改善

しかし、一般の日本国民以上に外国人投資家の方が日本の政治がどうあるべきかを考えているように思えます。。。
日本が経済的に弱くなるのは私も困ります。上記のような政策を掛け声だけでなく本気で実行してくれる政党・政治家が出てくれば私個人としては間違いなく投票し、知っている全ての知り合いに投票を呼びかけますが・・・
日本はすでに「最少不幸社会」は実現されていないのか、と思います。過度に競争的な社会にするのが良いとは思いませんが、日本の政策は過保護すぎる気がします。優れた能力を持つ人へやっかみではなく賞賛を惜しまない、出る杭を打つのは止めて伸びるところを伸ばすに、そろそろ転換していければ良いのにと思います。

本書の目次は以下の通りです。(下の「続きを読む」をクリック下さい。)




目次
はじめに
第一部
 第1章 外国人次第の日本株式市場 P17
  外国人投資家を知るための情報
  外国人投資家の日本株保有
  外国人投資家の日本株売買
  外国人投資家の運用スタイル
  日本株への構造的弱気派が増えた
  外国人投資家に日本株を買ってもらうために必要な施策
第二部
 第2章 外国人投資家が見る日本の政治・経済の課題 P59
  頻繁に代わる日本の首相の不思議
  なぜスピーディな税制改革ができないのか?
  人口減少の先進国としての注目
  外国人投資家から不十分と見なされる日銀の金融緩和
  経済成長戦略への期待
 第3章 外国人投資家による日本の産業の評価 P85
  国際競争力の低下が著しい電器産業
  押し目買い意欲が強い自動車株
  銀行株は全く保有しなくてよいのか?
  世界的な食料・水不足問題に関心
  期待が小さいヘルスケア産業
  成長余地が大きい観光・カジノ産業
 第4章 外国人投資家が重視するアジアとの関係 P107
  日本は中国のおまけになったのか?
  中国関連消費財・資本財関連の日本企業への高評価
  中国企業による日本企業のM&A
  成長余地大きいインド・ビジネス
  遅れる日本のFTA締結
 第5章 コーポレート・ガバナンスとM&A P125
  外国人投資家のM&Aへの視点
  内外M&Aの不均衡
  M&Aの成果への厳しい評価
  外国人投資家は親子上場を問題視
  外国人投資家との認識ギャップが広がるコーポレート・ガバナンス
  日本から撤退するアクティビスト・ファンド
  国際比較で異常な日本企業の低収益
  役員報酬の開示と独立役員の義務化
  日本経済と日本企業の復活のために
第3部
 第6章 外国人投資家の紹介 P167
  再編で巨大化する外国運用会社
  北米の投資家
  英国の投資家
  英国以外の欧州投資家
  アジア・中東の投資家





【第三部で紹介されている外国資産運用会社の一覧】
著者は証券会社社員として顧客情報の守秘義務があるためインターネットなどから入手可能な紹介のみ。

【北米の投資家】
フィデリティ (Fidelity)
ピラミス (Pyramis Global Investors)他

【英国の投資家】
シュローダーズ (Schroders)
ヘンダーソン (Hendersen Global Investors)他

【英国以外の欧州投資家】
パイオニア (Pioneer Investments)
ドイチェ・アセット・マネジメント (Deutsche Asset Management)他


【アジア・中東の投資家】
ロックハンプトン・マネジネント (Rockhampton Management)
ネズ・アジア (Nezu Asia)他
posted by ASK at 01:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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