2011年01月08日

会計(簿記)の仕組み@(会計の基礎@)複式簿記の仕組み、取引と仕訳について

会計の仕組みを学ぶことは、会社がどう運営されているかの理解を深めることに繋がります。
また、様々なビジネスを知る好機です。ビジネスでのお金の流れや、どのようなビジネスではどのようなお金が掛かるのかが理解しやすくなります。
本来はお金の動きだけ追っていれば分かりそうなものでもありますが、お金(キャッシュ)の収支だけでは、どの程度の資産を持っていて、それに対してどのくらいの借金を抱えているかといった状況は分かりません。こうした会社情報を知ることが出来る仕組みが複式簿記の仕組みです。

「会計の勉強をしよう」というと、簿記検定のテクストや予備校に通い、そして勉強なんて面白いはずありませんから途中で挫折していく方も多いように見受けられます。
会計を知るために簿記の勉強をすることが間違った方法論ではないと思いますが、ビジネスや投資に役立てる上では、会計の仕組み自体をしっかり理解しておくことが大事です。
会計基準がどう変わっても会計処理の仕方が変わるだけで会計の仕組みは変わりません。

会計の仕組みの最大の特徴が、「複式簿記」です。
簿記の仕組みは、会社に関わる経済事象を二面的に捉えることです。資金の調達源泉(資金やビジネスの原資の獲得をどのように行ったか)と成果(調達した資金をどのように使用し、結果どうなったか)を表すことを意味します。
二面的にといっても、ルールでそうなっているものですから、深く考える必要はありません。学んでいるうちに仕組みが上手く出来ていることが分かるということが分かるかと思います。

会計はカネの流れを反映するものですから、会社のカネの流れを会計という手法で理解をする、というのも一つの方法です。
ここでは、まず理解がしやすいように会計の仕組みを会社のカネの流れとともに考えていきます。

会計の仕組みは、会社の個々の「取引」を仕訳という方法で積み重ねていって集計することによって出来ています。ここではまずは単純に、会社のカネの流れに伴う活動が「取引」になると理解しておきましょう。
取引は「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」のどれかの要素で仕訳されます。
なお、「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」だと大雑把過ぎて中身が分からないため、各々の取引では預金、資本、売上といった勘定科目で内容が分かるようにします。取引には「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」という属性があり、具体的な内容を表現するものが勘定科目となります。

T まず、会社の手元にお金がある場合を考えてみましょう。
会社の手元にお金がある時は、元手となるお金を集めた場合、借りてきた場合、ビジネスで利益を上げてお金が残った場合の3つに大分されます。
会社はキャッシュは多くの場合、銀行に預金として入れておきますから、キャッシュ=預金としておきます。
ここでは、会社に預金が100増えた場合を例に考えます。

@元手となるお金を資本金として集めた
I @元手となるお金を集めた場合.JPG

(説明)
資本金を理解するには、そもそも株式会社というものはどういう仕組みなのかを知っておきましょう。
資本金とは、会社に払いこまれる元手であるとイメージすると良いと思います。
株式会社においては、元手となる資金の出し手は株主と呼ばれます。その株主としての地位があることを確かなものとするため、会社は株式を発行し、株主は資金を出すとともに株式を受け取ります。
例えば、1株5万円で20人からお金を集める場合、会社に合計100万の資金が入るとともに、20人に対して5万円の株式を発行します。ここで仮に20人としましたが、もちろん1人で100万でも良いですし、20人で1人ずつ1万円でも構いません。1人の場合はその1人が20株受け取ることになります。
ここで元手となるお金は原則としては株主に返還されることはありません。原則としてビジネスで上げた利益を株主に分配するためのものです。
株式会社というのは、広く大勢の人達からお金を集めるための仕組みです。
この仕組みは日本では「会社法」という法律によってルール化されています。

A借りてきた
I A借りてきた場合.JPG

(説明)
借入は主に、銀行からの融資による「借入金」か、一般的には広く一般投資家から資金を借りる「社債」があります。
借入金や社債は利息をつけて貸主に返さないといけません。
通常会社は、会社の業態、資金使途や事業環境による借入条件等を勘案してどのようにお金を借りるのか決定します。

Bビジネスで利益を上げてお金が残った場合
I Bビジネスで利益を上げてお金が残った場合.JPG

(説明)
お金を資本あるいは借入により調達する以外に、会社にお金がある場合は、会社が自分で稼いできた場合です。
預金が増え、それの原因となる利益(収益)が発生します。
会計では会社が自分で稼ぎだした分は「利益」と呼ばれます。「利益」の残った分は「利益剰余金」と呼ばれていて、B/Sではこの利益剰余金は「純資産の部」に入れることになっています。
「利益」がマイナスになった場合は「損失」となり、「損失」が残ると「欠損」と呼ばれます。
この「利益剰余金」がB/SとP/Lのつながる部分です。

*利益というのは収益と費用の結果なので、利益という仕訳はありません。そのため、ここでは収益としています。
*実際は会計上の収益の計上タイミングは預金の入金時点とは異なることがほとんどですが、ここでは分かりやすいように説明しています。「Wまとめと追加の説明」で再度説明します。


U 次に、会社の手元のお金を使った場合を考えてみましょう。
会社のお金を使った場合、他の「資産」に振り替わるか、「負債」が減るか、「費用」が発生したか、に概ね大別できます。
ここでは、会社に預金が100あった状態から50を使った場合を例に考えます。

@建物や機械を購入(設備投資)した
II @建物や機械を購入(設備投資)した場合.JPG

(説明)
預金が100あるところから、設備投資に建物や機械を50で購入し、お金(預金)を支払った場合です。
この場合、100あった預金から50を使ったので、預金は50になります。
50の対価でもって建物や機械を購入した分はそれぞれ建物・機械として表します。ここでは合わせて「固定資産」としています。
資産の総額は100のままですが、資産の内訳が振り替わることになります。

既にキャッシュフロー計算書を学習されている方は「資産の増加はキャッシュの減少」と覚えている方も多いと思いますが、これは、資産全体(総資産)が増加しているのではなく、会計の仕組み上、「キャッシュ(預金)以外の資産が増加している場合はキャッシュ(預金)から振り替わっているため、キャッシュ(預金)の減少が伴っている」という意味になります。(あるいは、売掛金の資産は計上されても利益は計上されているがこの利益はキャッシュの増加を伴っていないため利益から減少の調整をしますが、ここではご参考まで。)

A人件費や家賃等の費用を支払いした
II A人件費や家賃等の費用を支払いした場合.JPG

(説明)
預金が100あるところから、人件費や家賃等を50支払い、お金(預金)を支払った場合です。
この場合、100あった預金から50を使ったので、預金は50になります。
50の対価でもって支払った人件費や家賃等は費用となります。

*実際は会計上の費用の計上タイミングは預金の出金時点とは異なることがほとんどですが、ここでは分かりやすいように説明しています。「Wまとめと追加の説明」で再度説明します。

B借入金の返済として支払いをした
II B借入金の返済として支払いをした場合.JPG

(説明)
借入金100、預金100があるところから、借入金の返済に50支払い、お金(預金)を支払った場合です。
この場合、100あった預金から50を返済したので、預金は50になります。
50の対価でもって返済された借入金は、もともとの100から50減って50となります。

V また、その時のお金の動きと関係なく費用が発生する場合を考えてみましょう。
このあたりからややこしく感じてくるかもしれませんが、その時のお金の動きと関係なく費用が発生する場合というのがあります。
主なものとして、減価償却費と引当金を例としてみていきます。

@減価償却費
III @減価償却費.JPG

(説明)
U@でキャッシュ(預金)を支払って固定資産を購入しました。
ただ、固定資産というものは劣化していきますから、いつまでも使っていけるわけではありません。
そこで、使用期間の時の経過に応じて固定資産の支払った金額を費用として計上し、その分の固定資産を減少させるという処理が行われます。理論的には固定資産の価値の減少分を費用化するものであるとも考えられます。
ここでは、固定資産の使用可能期間を2年間で均等に価値が減少するものと見込み、100/2年の50を費用とし、同額の固定資産を減少しています。
固定資産の購入時に全て費用計上ではなくいったん資産計上してから何年かにわたって費用で資産を減少させていく理由は、会社の毎年の業績(期間損益)をより適正に把握するためです。つまり、固定資産は使用期間にわたって会社の事業に役立っているわけですから、それによって事業の用に供するであろう期間でもって各期の費用とすることにより、会社の業績を一時的な要因に左右されずに測ろうというものです(この考えは費用収益対応といいます)。例えば大型の設備投資をすると最初の支出時に大赤字になってその後何も費用が出ないということになると、最初の支出がどの程度その後の儲けに貢献しているのか見えにくくするため、収益と費用の期間をなるべく合わせようという考えです。
現在の日本の実務上は、資本金1億円以上の会社では10万円以上の資産の購入は固定資産として計上している会社が比較的多いと思います。これは税法のルールに則っているものです。

減価償却費は非現金支出費用であるとか、減価償却分は利益からキャッシュが浮くというような事を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。
これは、減価償却費はキャッシュの動きと費用の計上のタイミングが異なるということです。「固定資産として計上する際にすでにキャッシュの支払いを済ませており、一旦資産として振り替わっているが、ずっと資産としておくのではなく使用に応じて費用としているから」と考えると分かりやすいかと思います。実際には固定資産をリースしたり分割支払いで購入することもありますが、キャッシュの動きと会計上の費用の計上タイミングが異なるということです。


(補足)
どうやって減価償却の使用期間を決めるんだと思われる方も多いと思います。
現在の日本の会計実務の慣行では、固定資産の償却していく年数(耐用年数といいます)は、税法で細かく資産ごとの耐用年数表が定められており、それに基づいて償却すれば間違いではないということとされているため、一般的に多くの企業では税法上の法定耐用年数に応じて減価償却を実施しています。
2015年頃の導入が検討されているIFRSでは、減価償却については、「有形固定資産(IAS第16号)」に規定されており、減価償却にあたり、耐用年数は企業での使用可能期間等、期末毎に耐用年数と残存価額を見直すとされています。そのため、企業は個々の実態に応じて耐用年数等の見直しが必要と考えられます。
IFRSが導入された場合には、減価償却の計上時期や計上方法等が今と変わることが見込まれます。

A引当金
III A引当金.JPG

(説明)
まだ支出が確定していないが、将来的に支出が見込まれるものは一定のルールに従って引当金として計上します。引当金は将来の支払い義務として負債の項目となります。
考え方としては、例えば従業員の退職金を例にすると、従業員Aさんが50年勤めあげた場合に退職金を2500万円一括で支払う場合、会社での支出は50年勤めあげた後に2500万円一気に出るわけですが、Aさんに退職金を払うにあたり、Aさんの退職金は在籍中の功労に支払う理由があるわけですから、Aさんの在籍期間に応じて均等に費用を計上(ここでは2500万円÷50年で年間50万円を費用計上)しようというものです。
引当金を支払った際には、引当金(負債)が減り、支払った分の預金(資産)が減ります。UBの借入金の返済と同じ仕組みです。
具体的な例をいくつか挙げると、貸倒引当金(未回収の債権を回収不能と見込んだ時点で費用を計上するもの)、賞与引当金(賞与の支給に当てるもの)、退職給付引当金(将来従業員が退職した際に支払うもの)、修繕引当金(工場やビル等の修理に当てるもの)、ポイント引当金(ポイントを発行し、換金や使用に備えるもの)といったものがあります。
引当金は性質上、将来の支出の額の見積もりや対応期間など、不確実性が伴うものですので会社によって判断や主観がどうしても入ってくるものになります。会計の中でも「会計上の見積もり」といって、慎重な検討が必要な項目とされています。



(補足)
なお、現在の日本の会計慣行の原則では、@将来の特定の費用又は支出であってAその原因が当期以前の事象に起因し、B発生の可能性が高く、C金額を合理的に見積もれるものは、当期の発生分を見積り、引当金を計上することとなっています。
2015年頃の導入が検討されているIFRSでは、引当金については,偶発負債および偶発資産と共にIAS第37号「引当金,偶発負債および偶発資産」に規定されており,「支出の時期または金額が未確定の負債」と定義されています。@過去の事象の結果として,現在の義務を有しているA義務を決済するための経済的便益のある資源の流出の可能性が高い(probable)。IFRSにおいては,Probableは「more likely thannot(50%を超える蓋然性)」と同義とされているB義務の金額が信頼性をもって見積り可能である、という要件が原則とされています。
IFRSが導入された場合には、引当の内容や計上方法等が今と変わることが見込まれます。

W まとめと追加の説明
上記は本的なパターンを例に取ったもので全てのパターンではありませんが、会計における基本となる取引の仕組み自体は、おおむね上記の考えのパターンとその応用で理解していくことが出来ると思います。
ここでは複式簿記の仕組みの理解の促進のためイメージが沸きやすいようにおカネの流れとともに会計の仕組みを説明しましたが、実際は、費用や収益の計上タイミングはおカネの流れではなく会社の経済活動の成果が発生した時点で行います。
(収益の計上の場合)
収益(売上)の計上は通常、キャッシュが会社に入った時ではなく、実現主義といいますが、モノの引き渡しやサービスの顧客への提供が完了し、対価が成立した時点で行います(概ね取引先からの納品書や検収書の受領時点とイメージしましょう)。
これはTBで見たところの左側の箱が預金ではなく売掛金という資産の増加になり、右側で売上という収益の増加となります。その後、取引先に請求書を送り収益額が入金されると、売掛金という資産が減り預金という資産が増えることとなります。U@はキャッシュ(預金)が減って他の資産が増えますが、逆のパターン(キャッシュが増えて他の資産が減る)として理解が出来ます。
(費用の計上の場合)
費用の計上は通常、キャッシュが会社から出た時ではなく発生時点、つまり、モノが会社の手元に来た時点や、サービスや役務の提供を受けた時点で行います(概ね取引先へ納品受領書や検収書を発行した時点とイメージしましょう)。
これはUAで見たところの左側の箱が預金の減少ではなく右側で買掛金という負債の増加になります。その後、取引先から請求書が来て費用額を支払い、買掛金という負債が減り預金という資産が減ることとなります。UBが借入金の返済ではなく買掛金の支払いということで同様に理解が出来ます。
*売掛金は売り上げた金額のツケで、逆に商品や材料等の仕入のツケは買掛金といいます。
補足:(材料や商品等の在庫がある場合)
メーカーでは材料等を加工して製品にして販売し、小売業では商品等の仕入れを行い販売します。どちらも通常、材料等の仕入、商品等の仕入を行ってから販売までの間にはタイムラグがあります。
一定期間を区切った会社の業績を知るためには、また、どの製品で儲かってどの製品で儲かっていないかを知るためには、売上にその売上のために掛かった材料や商品の費用を当てる必要があります。
例えばAという商品を50で仕入れて販売する際に、ある一定時点ではまだ売れていないとき、売上ゼロ・費用50となり利益がマイナス50となり、その後100で売れた時に売上100・費用0で利益100となると、きちんとした業績が測れないので、商品が売れた時に、売上100・費用50で利益50を測ろうということです。今はモノが1つで例えているので分かりますが、数百個・数万個となってくると訳が分からなくなりますね。
そのため、在庫は、売れるまでの間は費用ではなく資産となります。売れたところで資産を費用にします。
なお、在庫は会計上の用語では棚卸資産といいます。

押さえておくべき基本的なイメージのまとめです。
・資産が増える場合はその原因として負債が増えたか(借入金等)か収益が上がったか、増資により資本を増強し元手が増えたかになります。
・資産が減る場合はその原因として借入金の返済や買掛金の支払い等に伴い負債が減った場合になります。買掛金の支払いには先立って費用が発生しています。
・会社の損益は収益か費用で把握されますが、資産が左側にあり、資産の増加原因は収益のためハコの右側は収益、資産の減少原因は費用ですから、ハコの左側は費用になります。
・資産の中では、キャッシュの支払いを通じて他の資産になったり(建物等の固定資産)や、売掛金等の入金により他の資産が減りキャッシュが増えたりしています。
・キャッシュの支出原因は発生した時点で費用になるか資産になります。
・キャッシュの支払いを通じて他の資産(主に有形・無形の固定資産)になったものは減価償却という方法等で費用となっていきます。なお、時間の経過とともに価値が減少せず換金価値のあるような資産(株式等の金融商品や土地)は減価償却は必要ないため行わず、時価の変動時や売却時(換金時)まで損益は発生しません。

繰り返しですが、会計の仕組みは、上記のような個々の「取引」を仕訳という方法で積み重ねていって集計することによって出来あがります。
取引は「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」のどれかの要素で仕訳されます。
「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」だと大雑把過ぎて中身が分からないため、各々の取引では預金、資本、売上といった勘定科目で内容が分かるようにします。取引には「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」という属性があり、具体的な内容を表現するものが勘定科目となります。




posted by ASK at 17:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 会計/税金 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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