金融の知識は何もなくても資産運用の基本的なところから分かるように書かれています。ETFよりインデックス投信に内容が注力されていたり、アセットアロケーションの考え方の説明がやや少ないところなどは気になりますが、投信の内容についての説明も分かりやすく、良書であるかと思います。
資産運用の経験があまり多くなくどのような観点で金融商品を選べば良いのか学びたい方、金融機関に投資信託を勧められたが今ひとつそれが良いのかどうかの判断がつかない方、投資信託って何だという方にはお勧めです。
「だます」と言うと言葉は悪いですが、残念ながら現状では金融機関は顧客サイドに立った最善の提案をしているとは限らないという事実はあると私も思います。状況は少しずつ改善されていますが、まだまだ時間は掛かるでしょう。顧客側が賢くなっていくことで状況は変わっていくと思います。
著者は、出版社や新聞社勤務などを経て独立したFP(ファイナンシャルプランナー)の方でLIFE MAP,LLC代表です。新聞や雑誌などを中心に執筆活動を行ういっぽう、投資信託やETF、確定拠出年金セミナーなどの講師でもお馴染のファイナンシャル・ジャーナリストです。
本書は、2007年4月に発売された同書名「投資信託にだまされるな! −本当に正しい投信の使い方」の改訂版です。「日本の投信は問題だらけで、金融機関で配布されるきれいなパンフレットや親切そうな営業トークにだまされてはいけない、人気の投資信託にはプロの仕掛けた巧妙な罠がたくさん隠されている」とし、序章では広告例を通じながら投信の中身を解説した上で、資産運用の考え方の基本やインデックス投信について説明されています。
投信は手数料フィー(投信の売買に応じて発生する手数料及び金融商品の保有残高に応じて発生する手数料)が金融機関の儲けで、デリバティブを含む商品はリスクが顧客へ移転されていますから、基本的な注意点はここかと思います。
裏側は見えませんが、デリバティブを含む商品はリスクが顧客へ移転する過程でも金融機関は利益を「抜いている」可能性もあります。
ところで、私は、何故ETFの普及が本来あっていいと思うはずの水準まで進まないのかを疑問に思っていました。機関投資家の売買が少ないのが1番大きな要因かもしれませんが、対面の金融機関(メガバンクはじめ銀行や店頭窓口のある証券会社)の販売の仕方を見て理由が分かりました。
私の知る限り対面の金融機関はまずETFを勧めてきません。
投信を販売する方が手数料等で金融機関は儲かるためです。
ただそれは、金融機関の販売員は悪意があるのではなく、会社の方針に従い、自分たちの職務を堅実に全うしているだけです。
例えば、家電を買う時にビックカメラの店員が自らカカクコムの最安値を示して「こちらを見てネットで買った方が得ですよ」とか、車を買う時にホンダの販売員が「トヨタの○○の方が性能・価格とも優れていますよ」などとは絶対に言ってこないのと同じです。ETFを扱っていてもほとんど勧めてこないという点は異なりますが。(注:ここの固有名詞は例えであって何らかの意味はありません)
金融機関の販売努力の成果なわけです。
想像ですが、家電や車を買う際に研究を惜しまない人の数に比べて、恐らく一般には金融商品をきちんと調べる人が少ないということはあるのかなとは思っています。
本書の目次は以下の通りです。(「続きを読む」をクリック下さい。)
【本ブログでの関連記事】
(本の紹介)2010/12/25 お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 勝間和代/著
(本の紹介)2010/12/31 ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理 バートン・マルキール/著
はじめに P3
第1章 こんな投信は買ってはいけない! P16
「おすすめの金融商品」は誰のためのものか P16
要注意商品1 定期預金とセットで販売されている投信 P18
要注意商品2 「高利回り」を強調された投信 P22
要注意商品3 毎月分配型投信 P26
要注意商品4 通貨選択型投信 P35
要注意商品5 資産分散型投信 P38
要注意商品6 テーマ型投信 P42
要注意商品7 リスク限定型投信 P46
コラム「STAMインデックスシリーズ誕生秘話」 P53
第2章 これだけ知っておけば金融機関にだまされない! P54
まずは、投信のしくみを理解しよう P54
販売手数料の高い投信はできるだけ避ける P56
高い信託報酬は長期の運用成績を確実に悪化させる P58
プロが運用する投信だから好成績とは限らない P61
パッシブ運用とアクティブ運用 P62
アクティブがインデックスに負ける理由 P65
新聞・雑誌のランキングで未来は読めない P68
上昇する地域・国も毎年変わる! P71
実績のない新商品には手を出さない P72
コラム「リスクとリターンは表裏一体」 P75
第3章 では、どんな商品を買えばいいのか? P78
まともな投信で資産形成をめざす P78
4つの資産に分散投資をする P79
日本と外国の株式や債券を一緒に持つと安定する P81
どのような商品に投資していけばよいか P83
(A)低コストなグローバルバランス型の投信を買う P84
(B)複数のインデックスファンドを自分で組み合わせる P90
(C)ETF(上場投資信託)を買う P99
コラム「ファミリーファンドとファンド・オブ・ファンズはどう違う?」
第4章 世代別にみる、投資信託の活用法 P108
人生のステージでお金の運用方法は異なる P108
(1)リタイアした人向けの運用はどうする? P108
お金がたくさんある人は無理に運用しなくてもOK/ひどい商品に手を出してお金を減らさない/10年以上運用できるなら
(2)現役世代向け「資産形成プラン」 P113
分散+積み立てがいちばん/10年以上積み立てるとかなり安定/時間を味方にするとグンと複利効果が効いてくる/自動積み立てのススメ/積み立てたあとはどうすればいいか?
コラム「確定拠出年金が使える人は積極的に利用する!」 P128
第5章 投信の疑問にすべて答えます P130
まとまったお金がない/すでによくない投信を買ってしまった/分散投資をしてお金が減った/大手証券や銀行以外でも大丈夫か/基準価格について/基準価額が高い投信は買わない方がいいか/投信に回すお金はどれくらいがいいか/「資産配分」の決め方/60歳までに3000万作るには毎年いくら積み立てる必要があるか/目論見書の見方/運用報告書の見方/実質的な保有コストの見方/投信の情報が取れるサイト/利益が出ると売りたくなる場合/投信を買って放っておいていいか/持っている投信を他の証券会社へ移せるか/まとまったお金で投資したい/リタイア後の取崩の方法/窓口への相談/商品投資について/個人年金保険について
コラム「日本に独立系投信は根づく?」 P174
おわりに P176
● 本書に登場するおもな販売会社/運農会社の連絡先一覧 P178
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