2010年12月31日

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理 バートン・マルキール/著 井手正介/訳

インデックス投資を推奨、実践する人々のバイブルのような本です(インデックスは市場平均、例えば日経平均のような'指数'を指します)。バイブルだけあって完成度も高い。
株式市場について理解があり、あるいは、ファイナンス理論でランダム・ウォークだの効率的市場仮説だのCAPMだの市場リスク非市場リスクだのを学んだことのある方にとっては、勉強にもなり、知的好奇心を満たしてくれる本です。数学的な話は出てきませんので、基礎的な理解のある方にとっては難しい内容ではありません。
資産運用の入門者や初心者に対して平易な本でもないので、またアカデミックな部分もありますので、本業と関係なく投資が趣味でない方があえて読む必要はないと思います。

本書は第9版ですが、2011年1月10日に第10版が出版されます。サブプライム金融危機を踏まえた内容に改訂されているようです。
急ぎでない方は第10版の翻訳が出るまで待たれても良いかもしれません。

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理
バートン マルキール
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 880


出版日:2007年5月24日(原書出版日:2007年1月30日)
全475頁、ハードカバー
原書名は「A Random Walk Down Wall Street」。原書はこちら(第9版を今からリンクしても仕方ないので第10版のリンクを付けます)⇒2011年1月10日発売原著AmazonへA Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing

著者のマルキール教授は、1932年生まれ、1964年プリンストン大学経済学博士で、現在同大学経済学部を代表する経済学者です。ETFの開発でも知られる世界的な投信会社バンガード・グループなどの社外重役でもあります。
フォード政権下で経済諮問委員を務めたり、アメリカン証券取引所の理事を歴任されたり、金融・経済の権威といえる先生です。

一言で言いきれるところではありませんが本書の結論を誤解を恐れず一言で言うなら、効果的な投資法はインデックスへの時間分散による投資、平たく言えば、特に資産形成層はインデックスファンドへのドルコスト平均法による積立投資が有効であるというものです。
インデックスファンドが最も有利な投資手段である、と言う結論に至るまでの様々な分析が非常に多様で、文章の上手さもあり平易に説明し、そして納得感があります。
最初にバイブルと表現した理由ですが、インデックス投資の推奨本は山のように出版されていますが、たいていはまず本の前半でなぜインデックス投資が良いのかという章立てになっています。その中で、本書と同種のデータを日本用や最新のものでアレンジして説明したり、本書の内容を易しく説明したり、話の例えを引用したりされているように見受けられます。過去のデータからアクティブファンドの平均的な長期リターンは手数料その他コストにより市場平均を下回ることや、アクティブファンドを選ぶのは猿がダーツで選んだポートフォリオを運用するのと等しいといった例えなど、元を辿れば恐らく本書でないかというような話がたくさんあります。また、最近では「ほったらかし」「月1回で」とかを強調したマーケティングがやたらと目立ちますが。


インデックス投資は多くの支持を集めていますし、私も実践していますが、インデックス投資が最も効果的であるとは言い切れないところはあるのではないかと思います。将来の予測や見通しには人によってばらつきがある以上、現実の市場が完全に効率的になることはあり得ないと私は思っています。同じ条件でも人の能力には差がありますし、コンスタントに市場平均に勝っている人たちも実際いるのですから、インデックスに継続して勝つことが全て確率論とか統計上のエラーのようなものというのが現実の答えではないでしょう。時間分散投資の手法としてドルコスト平均法があらゆる場合に良いのかという疑問もあります。

それでも、ドルコスト平均法によるインデックス投資は、資産運用について考えることが苦痛で退屈な普通の個人の方にとっては良い方法なのだと思います。分かりやすさ、実践のしやすさ、費用対効果、時間対効果、個人の力量によるリスクを低減出来ること等を総合して考えたとき、他にさらにより良い方法は現時点で私の知る限りは見当たりません。
興味のない方が毎日資産状況の動きをチェックしたりするより、各人のより興味のある分野、得意な分野に精進する方が世の中のためでもあります。
みんながインデックス投資をしたら市場が効率的でなくなり、アクティブ投資家がいるから効率的な市場が保たれ流動性が提供されるがインデックス投資家は貢献していないというような批判もありますが、アクティブ投資家は絶対いなくなりませんし、「プロ」はどうあるべきかという議論はあるかと思いますが、一般の個人投資家が気にする問題ではないかと思います。

英語版になりますが、2010年12月25日付での第10版についても解説されている記事がありますので、リンクを付けておきます。
'Random Walk' author Malkiel bullish on international index funds
本書の目次は以下の通りです。(下の「続きを読む」をクリック下さい。)



第1部 株式と価値
 第1章 株式投資の2大流派
 第2章 市場の狂気
 第3章 株価はこうして作られる
 第4章 史上最大のバブル
第2部 プロの投資家の成績表
 第5章 株価分析の2つの手法
 第6章 テクニカル戦略は儲かるか
 第7章 ファンダメンタル主義者のお手並み拝見
第3部 新しい投資テクノロジー
 第8章 新しいジョギング・シューズ――現代ポートフォリオ理論
 第9章 リスクをとってリターンを高める
 第10章 行動ファイナンス学派の新たな挑戦
 第11章 効率的市場理論に対する攻撃はなぜ的外れなのか
第4部 ウォール街の歩き方の手引
 第12章 インフレと金融資産のリターン
 第13章 投資家のライフサイクルと投資戦略
 第14章 ウォール街に打ち勝つための3つのアプローチ

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理
バートン マルキール
日本経済新聞出版社
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