何冊も著書を書いておられ、平易に書かれており少し金融の勉強をされている方であれば内容も全く問題なく理解出来るかと思います。
ジャンル:マネー、資産運用、日本経済
テーマ:日本国債、日本財政及び個人の危機対応への著者の見解
出版年月日:2010年8月30日
全203ページ、ハードカバー
著者は、著名なのでご存知の方は多いと思いますが、現在、株式会社フジマキ・ジャパン代表取締役社長で元モルガン銀行の凄腕ディーラーです。
日本国債がどうなるかというのは、あらゆる専門家を交えて楽観論から悲観論まで様々な議論がありますが、著者がかなり以前より日本国債の危機を事あるごとに提唱している、悲観論の代表者の一人かと思います。
著者の想定するメインシナリオは、国債の未達、すなわち入札で予定通りに政府の購入資金が集まらないことによって市場の反乱が引き起こるというものです。その結果、国債先物で暴落が起き、株式の先物と現物市場で暴落、円も暴落し、「株・債券・円」のトリプル安が襲う。あとはハイパーインフレが起こるというものです。
実際に日本国債がデフォルトする前に日本国債暴落に端を発して金融危機が起こるのでしょう。
私は学者でもエコノミストでもないので、私自身は楽観論も悲観論も持ち合わせていませんが、日本の財政に憂いを感じていることは間違いありません。
本書で著者も述べていますが、日本に住んでいる限り、万が一日本国債がデフォルトあるいはそれに近い状態になった際は、どんな備えをしようが必ずダメージを受けます。著者も述べている通り、ヘッジは保険であり、もし何も起こらなければよりハッピーなのだから問題はない、何も備えをしないことが最悪ということでしょう。
問題はタイミングです。タイミングを外せば、ヘッジで行った取引で損するかもしれません。
藤巻さんですらタイミングは分からないと。予兆をつかむには、せいぜい毎回の入札結果を注意深く見守ることぐらいかもしれませんということです。
あとは私の素人考えですが、国債の95%は日本で消化されているのですから、日本の個人金融資産と国の債務のバランスを見ていくことです。
ヘッジの手段を知っておくことと、様々なニュース等で今後も注意していくのが現状出来る対応策です。
本書でどのようなヘッジの方法が紹介されているかは、本記事での目次以下をご覧頂けばおおよそ分かると思います。
長期期限の国債の先物をショートするか、日本国債のCDSを購入することが一番直接的な手段なのだと私は思っていましたが、一般個人はアクセスが簡単ではありません。本書でも紹介されている債券ベアファンドを金利下落時に買っておくのは安心料としてもありかなと思いました。
○国債の先物:ミニ長期国債先物取引(ミニJGB先物取引)という商品を東証は用意しているようです。ただ、取り扱っている証券会社が少ないようです。
東証HP:http://www.tse.or.jp/rules/jgbmf/index.html
(関連書籍:「日本国債先物入門」久保田博幸/著)
日本国債先物入門 (現代の錬金術師シリーズ 88)
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○債券ベアファンド:大手証券会社(野村、三菱UFJMS)やネット証券(SBI証券、マネックス証券)で取扱いがあります。モーニングスターのサイトでチェック出来ます。
モーニングスターのサイト:http://www.morningstar.co.jp/new_webasp/fund/sr_detail_hikaku.asp?fnc=10311965
また些細な話ですが、話の展開の中で根拠を示す際に、「確かこうだったと記憶しているが、」みたいな箇所がいくつかあり、そのあたりのざっくり加減がトレーダーっぽいなと思い、なんだか楽しめました。
2010年秋頃の日経新聞で読んだ内容だったかと思いますが、「日本の財政もうどうにもならないから国債のデフォルトの後のことを考えた方がいい」というような趣旨の発言をされている政治家もいらっしゃるとか・・・。
日本で一番優秀な官僚の財務省ですので、あらゆるシュミレーションに基づき対応策を考えているかと思いますが、本当に「その日」が来た時にはどうなることか想像は付きません。
著者の見解を絶対視する必要もないですし、インフレによりタクシー初乗りが100万円になるなど例えがやや極端ではないかと思えるところはありますが、読んで損はない一冊だと思います。
また、P141で紹介されている藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義 (光文社新書)
【日本財政について、その他の参考になる書籍】
日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか
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竹中 平蔵 池田 信夫 土居 丈朗 鈴木 亘
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ジャパン・ショック――国債暴落から始まる世界恐慌(祥伝社新書217)
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本書の目次は以下の通りです。(下記、「続きを読む」をクリックしてお進み下さい)
はじめに P1
第一章 欧州の財政危機を読む P13
(1)ギリシャ危機vs日本の危機
(2)ギリシャ危機の解決方法
(3)「夕張市vs港区」と「ギリシャvsドイツ」の差
第二章 日本の財政を直視する P24
(1)欧州と日本の財政危機はどちらが深刻か
(2)ギリシャ解決策の日本への応用は?
(3)私は危機を煽っているだけか
(4)いかに日本の財政が悪いか−元金の観点から
(5)いかに日本の財政が悪いか−金利支払いの観点から
(6)プライマリーバランスの黒字化は解決策か
(7)消費税上げで事態は解決するか
(8)福祉削減の必要性
(9)国債の発行年限は長くなったが
第三章 楽観論に対する反論 P49
(1)「企業同様、国もある程度なら借金をしてもいいはず」に対して
(2)「まだイタリアよりはマシ」に対して
(3)「国のバランスシートはまだ健全」に対して
(4)「実際の借金はもっと少ない」に対して
(5)「長期金利に財政破綻の兆しはない」に対して
第四章 なぜこの様な状態に陥ってしまったか? P63
第五章 解決方法はあるか P68
(1)累積赤字解消法を考える
(2)円安による緩やかなインフレ政策
(3)徳政令
(4)国債償還のリスケジュール
(5)預金封鎖
(6)市場の反乱は避けられない
第六章 「市場の反乱」のシナリオ P85
(1)95%が国内保有されている日本国債は安全か
(2)長期金利上昇のリスクは
(3)国債暴落シナリオ・その1−国債の格下げ
(4)国債暴落シナリオ−その2−海外債券市場の大暴落
(5)国債暴落シナリオ・その3−「日銀の買いオペ増額」の一報から
(6)国債暴落シナリオ・その4−経常赤字の膨張
(7)国債暴落シナリオ・その5−その他
第七章 「その日」は国債未達に始まる P101
(1)なぜ未達が起こりうるのか
(2)株・債券・円のトリプル安が襲う
(3)ハイパーインフレと取り付き騒ぎ
(4)「その日」はいつか
(5)予兆をつかむ方法
第八章 「その日」に備える資産運用の原則 P112
(1)「保険のつもりで」
(2)「国に頼らない」
(3)「リスクを認識する」
(4)「長期を見据える」
第九章 これで完璧! 預金封鎖対策 P124
(1)対策のコストは高い
(2)海外の銀行・証券会社での口座開設
(3)海外の不動産を購入する
第十章 ハイパーインフレに備える−基礎・中級編 P131
(1)円預金
(2)日本株
(3)日本国債・社債
(4)不動産
(5)借金をする
(6)国債分散投資
(7)金投資
(8)絵画
第十一章 どの国、通貨、金融商品に投資するか P149
(1)やはり米国が本命
(2)BRICs諸国への投資はどうか
(3)強い国のリスク資産を買え
(4)ドルの優位性は揺るがず
(5)人民元はどうか
(6)ドル建てで何に投資する?その1−米国株式
(7)ドル建てで何に投資する?その1−米国債券
第十二章 ハイパーインフレに備える−上級編 P165
(1)トリプル安で利益を上げうる商品
(2)先物の基礎知識
(3)債券先物とミニ債券先物
(4)国債下落で儲かる「債券ベアファンド」
(5)金利上昇の保険となる「キャップ」
第十三章 未来は暗いわけではない P184
第十四章 為替政策の重要性−私達の投資が国を救う P188
おわりに P201
その他の書評
活かす読書(ブログ2010/9/18)
http://ikadoku.blog76.fc2.com/blog-entry-966.html
本の虫(ブログ2010/12/28)
http://honn-no-mushi.blog.so-net.ne.jp/2010-12-18
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