溜池の山王パークタワーのバンガード・ジャパンで、20名弱のブロガー達とバンガードの方々との情報交換及び交流会をしました。
広報のショウジさんの進行で、Senior Investment Strategist のZahmさんから市場動向、ポートフォリオの構成についての講義と、投資戦略部長の塚本さんからはたっぷりとブロガーからの質問に答えるQ&Aコーナーで、その後は懇親会で個別にバンガードの方からのお話をお伺いすること出来ました。
米国では「ボーグルヘッド」という、バンガード創始者のボーグルの投資の仕方に賛同している人々がいて、ボーグルヘッドフォーラムという掲示板で情報交流がされているようです。また、ボーグルヘッドカンファレンスというイベントでは200人が投資テーマについてディスカッションをするそうです。
いずれ日本でもボーグルヘッドカンファレンスのようなイベントが出来ればということでした。
直接、運用会社の人たちと対話が出来る機会で身近に感じると、その運用会社についてよく知ることが出来るし、好感も持つようになりますね。よく知っている運用会社の商品には信頼性も増しますし、口コミなどでの信頼の輪も広がる気がします。バンガードの方々、ブロガーにお声がけ頂いたブロガーの水瀬ケンイチさん(梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー)、このような機会を提供いただきありがとうございました。
以下、交流会の概況です。
まず、Zahmさんから英語の資料をもとにマーケットの概況やバンガード流の投資の哲学をレクチャーいただきました。
バンガードではグローバルで運用資産5.2兆ドル、400商品を扱っている。
投資においてコントロールできることに時間を使う、注力するべき。成功できる可能性が高くなる。
コントロールできることは、資産配分、貯蓄/投資に回す資金、運用コスト。コントロールできないことは、市場の動向。
というようなお話。
ブロガーとのQ&Aの内容
・日本株の期待リターンが低い要因
人口動態(高齢化)、技術革新やグローバル化によるコスト低減により金利が引き下がることにより期待リターンが引き下がる。
・貿易戦争の影響は
年初は大きな影響はないと思っていたがエスカレートしている。全面的な貿易戦争には至らないだろう。全ての国が影響を受けることになる。
・日銀金融緩和の行方
ベースケースとしては現在の政策を当面続けるだろうと見ている。
買う国債やETFがなくなる時期には、何らかの形で別の成長を促進する措置を取るだろう。成長刺激策の継続が必要だから。
・香港でも投資ブロガーはいるのか。同じようにブロガーミーティングはしているのか
世界的に金融関連のブログは増えている。いずれの市場でもブロガーの影響は増えている。個人への影響や、FA(ファインシャルアドバイザー)向けにも影響力がある。
・富裕層向けのサービス
3年前にパーソナルアドバイザーサービス(PAS)。資産額5万ドル以上の人向け。費用が0.3%のフィー。もっと多くの資産を持つ人には信託、不動産、税務のサービスを提供。
・直販投信をやる予定は
Bloombergでニュースが出た。直販は重要なビジネスで、バンガードとして体制面等で様々な投資が必要になる。真剣に考えないといけないと思っているが、現段階では予定がない。
・楽天バンガードで組み込んでいる全世界債券(バークレイズ指数)にこれから中国が入る予定と聞いたが、どういう姿勢か
グローバルインデックスに追加すると発表された。変更に合わせて影響する全ての商品について、ポートフォリオ変更のコスト、最終投資家へのメリットやリスクを分析する。ポートフォリオレビューチームが分析のプロセスをしている。
次に、投資戦略部長・塚本さんとはたっぷりQ&Aの時間を頂きました。
主なやり取りは以下の通りでした。
・コストゼロファンド(フィデリティ)をどう思うか
*参考:日経(2018/8/17)「投信の手数料競争、過熱 米フィデリティ「ゼロ」型発表 日本でも顧客拡大へ 」
ニュースが出た瞬間からバンガード社内でもグローバルに話題になった。どんどん競合含めフィーが下がっていくのは顧客にとっていいこと。
ただ、コストがゼロなのが良いことなのかどうか。
バンガード社の運営の仕組みとして投資家がバンガードの株主になるため、経費控除後で顧客に還元している。アットコストにすることが良いことだと思っている。
ゼロコストは他で収益を得ないといけないのに、その収益源が分からないのは不透明感がある。腹切りのレベルのコストが良いことだろうか。
別ビジネスで儲けるのか?分配金を減らして配当金込のパフォーマンスを下げている?などの疑念が生じてしまう。
他のファンドで元を取る。自社証券に口座開設してアドバイスの中身でのコストが考えられる。また、ポートフォリオの中で貸株でリターンを得ることは可能。バンガードは貸株収入は100%投資家へ還元しているが、他社は半々にするなどで利益を得ていることがある。
他社がどういう運用をしているかは、目論見書・運用報告書の両方を見る必要がある。
・楽天、セゾン以外との提携は
バンガードの名前が入るので、責任を持ってプロダクトを作る必要があると考えている。投資哲学に本当に合意してもらえているかを気にしている。
セゾンは、中野社長がかねてより長期・分散・低コスト・積立を提唱している。パートナーとしても啓蒙したい。
楽天は、幅広く出している。ウェブでコーナーを作り、バンガードの哲学を掲載している。考え方が一致している。
長期・分散・低コスト・積立の理念が共有できれば今後も提携先は増えていく可能性はある。
中身が全く同じファンドを出すと顧客が迷うかもしれないので考慮するかもしれない。
月に1回は日本の証券会社・運用会社が米国本社を訪問している。色々な形でパートナーシップのミーティングをしている。
・スマートベータETF
日本での登録は出来ていない。昨年アメリカで立ち上げた。ヨーロッパでファクターETFを数年前に出している。
ファクターETFの購入は機関投資家だと思っている。個人にニーズがあれば検討したい。
他の市場でアドバイザーが活用している例がある。プレミアムを取る。
・VTへの投資について、税金控除後で海外ETFでのVTがいいか、楽天バンガードへの乗り換えがいいのか。
米国で分配金時に税金が源泉徴収により取られているので、確定申告で外国税額控除を取るのであれば直接VTを買う方がいい。
楽天バンガード投信では米国での源泉を取り戻されない。ただ、楽天バンガードでは分配金を再投資する複利効果はある。
・為替のヘッジコスト
ヘッジコストは足元1.5%。債券を持つ意味は株式と合わせた緩衝材という意味がある。
バランス型では債券をヘッジした方がいいのではないか。
長期でインフレ率を考慮した利回りは同じくらいになる。
現状、日銀金融緩和の影響で日本国債と株式の相関が低く、クッションが低い。今の環境だと海外債券の方がいいかも。
・バランスファンドの為替ヘッジについて
セゾンだと為替ヘッジなし。楽天だと為替ヘッジあり。
ヘッジあり、なしはどういうポイントがいいか。
セゾンは為替リスクは長期では中立であると考えている。長期は為替リスクを取っても大きなリターンの差は出ないだろう。過去11年では為替ヘッジなしで、円高になっていない、ヘッジコストがない点。ただ、リスクはヘッジありより高い。
楽天は、トータルでポートフォリオのリスクを抑えた方が良い。安定度合いは高い。
・運用資産(AUM) 5.2兆ドルのうち、3.6兆ドルが株式、債券は1.2兆ドル。残りがMMF、バランス型で0.4兆ドル。
バンガードはアクティブもやっている。インデックスが3.9兆ドル、アクティブが1.3兆ドル。
同じ運用をファンドとETFを別々、機関、個人などで別商品だったり、米国籍、ヨーロッパ籍などで分かれている。元が同じでも商品が別だったりする。
投信4.2兆ドル、ETF1兆ドル。積立は米国でも投信の方が多い。コストは投信の方が掛かる。直近の流入額ベースでは流入額の3割くらいはETFに流入していてETF割合は増えている。
機関投資家の利用。アクティブからパッシブへの流れ。アメリカはFAがやっていて、低コストを志向するのでETFを選ぶ。少しアクティブな資産配分にしたりする。ETFは使い勝手がいい。FAの活用が増えるとETFの活用が増えるのでは。
*懇親会で塚本さんから伺った話では、日本の投資家の運用残高は非開示とのことでしたが、まだまだ大きくはないが採算は取れている水準であるそうです。
・オフショア商品について。香港のHSBCのアリアンツが出しているS&P連動の保険商品で7%などある。香港で口座を作る魅力がある。他社の商品を見てどういうスタンスで営業しているか。
保険商品は複雑かつコストが理解されていない。約束されたリターンの実際のダイナミクスが個人投資家に理解されていないことが多い。実際にS&P500で7%は資本の低減を考慮していない。
バンガードの香港では、香港上場のETF、PBと連携、プロフィデントファンド(年金の一環としてのバランスファンド)などのサービスを提供している。
・ミューチュアルファンド。マネックスがかつて高コストでやっていた。他の国では直販等の状況は。
一般の個人投資家へ投信を販売するのはコミッションにバイアスを掛けないことが難しい。アメリカは例外的で規制が変更になったわけではなく、投資家教育が出来たため。イギリス等は規制が変わりローデットの商品が提供できるようになった。
日本での懸念は、販売手数料と信託報酬の中で販売会社が取っている手数料が大きい。日本では二重にコストが掛かる。楽天やセゾンとパートナーシップを取っているが、販売会社が取らないようにするのが難しい。
ファンドを提供する形はできるが制約が掛かる。
顧客本位の業務運営で変化の兆しは見えているが、全体としてまだ投信残高は増えていない。
ヨーロッパでは販売手数料をゼロにしている。
・インデックスの過去の値動きのデータがクローズで出てこない。アメリカでは大学でデータをプーリングしているなどあるのか。
指数はお金払って買っている。投資運用でインデックスコストは大きい。プロバイダーをクリプスというところに変更している。
・取り崩しの時の考え方。積み上がってからどうしている人が多いのか。
ETFの利点は柔軟であること。売却時に重要な点は税制。あまり上がっていないものを売る。
どういう時が売るべき時かは、ポートフォリオ全体のリバランシングを考慮するのが良い。元の資産配分に戻す。
ビットアスクのスプレッドの影響を考慮。成り行きではなく指値で行う。
退職後の所得という意味では、ハイブリッドアプローチで決めていく方法がある。
退職を迎える人に予測可能な所得にしたいニーズがある。市場環境を無視するとポートフォリオ全体が毀損する可能性がある。
ダイナミックスペンディングはポートフォリオから引き出す額を決める方法。市場が悪い時に取り崩しを減らす、良いときに取り崩しを増やすなど、ある程度の幅をもって行う。
かなり複雑なのでFAのようなプロのアドバイザーの価値がある。なかなか1人でマネージできないので、アドバイザーの助言に価値がある。
ポートフォリオのパーセンテージで売っていく。マーケットが悪い時は支出を減らす。
・アメリカのバンガードでは口座管理がシステム上で出来るし、社内にアドバイザーがいる。
アメリカでは直販をやって顧客が自分でポートフォリオを作るツールを与えている。調査するとアドバイスしてもらいたいニーズがあった。フィーをいくらなら払うかをデータを取ると0.3%だとニーズが多かった。
直販のプラットフォームが前提になっている。
・フィー自体が下がっているので、フィーの中でのベンチマークのコストが上がっている。
ファンドサイズが大きくても運用会社が0.1%取ることもある。VTは全部で0.1%。
インデックスの構成が優れているものを使いたいが、インデックスのフィーも定額、残高が増えたらフィーのパーセントが減るような契約をしたい。バンガードがインデックスを変更するニュースが出たら、変更前のインデックス提供会社の株価が大きく下がるということも起きている。インデックス提供会社もフィーの取り方を変えてきている。
・運用のコストの中身でインデックスプロバイダーへのコストが高いという話があるが、自前でインデックスを作れば良いのではないか。
セルフインデックスが流行っている。インデックスは第三者が提供するから公正でトラッキングエラーが測られている。その方が計算も向上していくと考えている。
交流会では、参加者のブロガーの皆様との交流や、塚本さんやショウジさんからバンガードでの仕事内容やどのような組織運営やがされているのかなどについての貴重なお話を伺うことが出来ました。
バンガードの運用資産は2016年末では3.9兆ドルだったのが、5.2兆ドルに増加しているのは地道に投資哲学を啓蒙してきて多くの個人投資家に支持されてきた活動の成果も大きいのかもしれません。日本の全ての運用会社の投信残高合計が113兆円なので、1社で日本の投信残高合計の約5倍を運用していることになります。
今回、全体として感じたことは、バンガードの運用資産5.2兆ドルのうち過半は米国での預り資産のようですが、ETF・投信信託の商品提供だけではなく、誰しもが投資の仕方を自分でできるわけではないので外部のフィナンシャルアドバイザー経由やバンガード自身でのアドバイスや情報提供の付加価値と合わせ、車の両輪となってワークしているようでした。アメリカでは1万人を超える従業員がいるようですが、カスタマーサポートの人員が多いようです。このようなブロガー交流会もバンガード投資哲学の啓蒙活動の一環と言えるのでしょう。
バンガードのレポート「Putting a value on your value:Quantifying Vanguard Advisor’s Alpha」ではアドバイザーの付加価値について分析されています。間違った投資意思決定や行動にならないよう補正してもらうのがアドバイザーの役割のようです。自分で資産運用設計や商品選定、投資の継続が出来る人は自分の力で足りますが、興味深い内容ではあるので、こちらについてはまたブログ記事で紹介できればと思います。
また、夜の時間での開催だったため、今半のすき焼き弁当も頂きました。美味しかったです(笑)。
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・2015/9/27「日本の投資家の皆さまが成功する投資家になるためのバンガードの4つの基本原則」(byバンガード)はインデックス投資のためのエッセンスが詰まっている良コンテンツ(何よりも無料!)
・2015/9/12「やり直し相場ではじめるETF超入門」週刊東洋経済(2015年9月19日号)を読み解く
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