2016年11月8日にアメリカ大統領選挙が行われ、日本時間9日の日中に開票が進められた。
事前のメディア報道ではヒラリー優勢が伝えられていた。トランプ氏は大統領としてふさわしくない言動も多く意識の高い人々やマーケット関係者からはトランプ大統領の誕生は冗談かと思われていた。
マーケットは順当にヒラリー勝利を織り込んでいたため、トランプ氏優位が伝わった9日昼以降から、トランプ政権の政策の不確実性や疑心暗鬼から、お決まりの「リスク回避」の円買いにより9日のドル円為替は8日105円14銭から9日安値101円15銭に急激に円高が進行し、日経平均終値は919円安(前日比△5.4%)となった。
ヒラリーが勝てば不安定要素がなくなりマーケットは順当に推移しドル高・日米株高に、トランプ氏が勝てば「リスク回避」が広がり円高進行、日本株マーケットは暴落するだろうというのが大勢の読みだった。
9日の日本市場の動きでは事前予想の通りに見えたが、そこからが多くの市場関係者にとって想定外であっただろう。
トランプの勝利演説では今までさんざん叩き合ったクリントン氏の労をねぎらい、「皆の大統領になる」と意外と普通の政治家らしい演説をした。過激発言は鳴りを潜め、アメリカ株式市場はむしろ上昇するという意外と落ち着いた結果になった。
安心感を得て、10日の日本市場は、日経平均は1,092円高(前日比+6.7%)、ドル円為替は10日終値106円81銭に急激に円安になった。
トランプ氏は自国重視、積極財政や大幅減税、規制緩和を掲げている。財政拡大が意識されて米国の長期金利は上昇し、日米金利差の拡大により、ドル円為替は一時109円台にまで円安が進んだ。大統領選挙の翌週の11月16日の日経平均終値は17,862円と9日終値16,251円から大きく上昇した。
選挙前には、もしもトランプが大統領になったら世界は大変なことになるに違いない、と「もしトラ」などという言葉もあったが、トランプ勝利を受けてメディアもコメンテーターも手のひらを返し、大統領らしく振る舞い出したトランプ氏の悪口は急に減り、過激発言の多くは選挙パフォーマンスで大統領就任実現後は現実路線へ転換するだろうと期待し、優秀なブレーンも付くし重要事項は議会で承認するのだから血迷った暴走も止められるだろう、と実は意外と全うでトランプ大統領も悪くないかもしれないと評価し出した。
早くも「トランプノミクス」という言葉で経済政策への期待感に湧き出した。
現実のマーケットの動きを追いかけて証券会社も予想を右往左往しながら変更した。後追いで手のひらを返すのは金融市場にいる人たちにはお手のもののことだ。
何か言動や表情が鼻につくし政策もつまらないヒラリー氏より、トランプ大統領は大いに楽しませてくれることだろう。就任中、マーケットを上にも下にも大きく動かすような言動もしてくれるに違いない。
トランプ大統領の政策により今後の経済や金融市場にはどのような影響を与えるのだろうか?
既に数々の想定が色々なところから出されているが、ここでは、2016年11月13日付の日経ヴェリタスの記事でまとめられたトランプ大統領の政策とマーケットへの影響について見てみよう。
ここから何が分かるだろうか。ある重要なことが見えてくる。
〇トランプ大統領の政策と取り組み内容、市場の反応の想定
政策内容 | 詳細 | 取り組み | 市場の反応 |
大幅な減税 | 法人税率を35%から15%に下げ、さらに10%の特別税率も設けて多国籍企業の海外資金を還流 中間層世帯を対象に35%の減税 | 成長強化策の柱として、政権発足後100日以内に立法化 | 議会共和党の協力を得られれば、早期実現も可能 当面は米株高、債券安、ドル高要因に |
インフラ投資の促進 | 10年間で1兆ドルのインフラ投資 | 100日以内に官民協力での整備促進に向けた法律を立法化 | 民間資金の活用で財政中立をうたうが、財政悪化も 米株高・債券安要因に、財政悪化なら「米国売り」も |
米国第一の通商政策 | 雇用の流出を防ぐため、貿易協定を米国有利に見直し 中国やメキシコ製品に高率関税も | 就任初日にNAFTA再交渉・TPP脱退を宣言、中国を為替操作国に指定するよう指示 | 保護主義が広がる恐れ、長期的には米株安要因に |
規制の緩和・撤廃 | 規制の徹底的な見直し、オバマ時代の金融規制を大幅に緩和へ | 就任初日に、新規制を1つ導入するごとに、旧規制を2つ撤廃することを要求 | 過剰規制の解消が進めば、米株高要因に |
国内エネルギー産業の振興 | シェールなど石油・天然ガスの生産・利用を促進 石炭産業も振興 | 就任初日に、エネルギー産業をめぐる規制を撤廃 | エネルギー株に追い風、再生可能エネルギー産業には逆風も |
社会保証改革 | オバマケアの撤廃、新たな仕組みの導入 | 100日以内に関連法を立法化 | 新たな仕組みの導入には時間も、ヘルスケア株に不透明感 |
〇トランプ大統領の政策実行による楽観シナリオと悲観シナリオ
楽観シナリオ | 悲観シナリオ | |
政策 | インフラ投資や大幅減税 | TPP反対や移民排斥 |
↓ | ↓ | |
米国経済 | 国内生産拡大、経済成長 | 労働力や投資が減少し、成長率低下 |
世界経済 | 米国需要増が波及し成長加速 | 貿易が停滞、成長鈍化。地政学リスクも高まる |
↓ | ↓ | |
金融政策 | 米利上げは緩やか。資源高など背景に新興国の経済成長が加速する | 米国は急速なインフレ対応で利上げ加速。新興国から資金流出懸念高まる |
為替 | 金利上昇と資金流入でドル高 | 米財政不安高まりドル安・円高圧力拡大 |
株 | 世界的な株高に | リスク回避姿勢強まり世界的株安 |
この表を見て分かる重要なことは、「今後の金融マーケットがどうなるか誰にも分からない」ということだ。
楽観シナリオと悲観シナリオなんて、要は反対の事を並べて書いているに過ぎない。
初期段階で意外と楽観的にマーケットが反応したに過ぎず、まだ政策の具体案がどうなるかは予想や期待しか出来ない。経済政策だけでなく、安全保障や外交面においてはグローバルに地政学リスクが上がるだろうことは間違いない。
上げ材料と下げ材料は今後ランダムに出てくる。それはいつ起きるか分からない。
ニュースに反応して利益を上げるトレーダーには喜ばしい相場が期待できるかもしれない。
長期投資家やインデックス商品を積み立て投資している投資家であれば、短期的なマーケットの動きに反応して右往左往しないことだ。投資を本業にしていて、アルファの実績と能力のある投資家や投資を仕事にしているプロであれば別だが、そうでなければ、現在のところでは、余計な行動はマーケットの後追いになるだけに傷口を広げかねず、慎む方が賢明であるだろう。
もしも、投資を予定する今後の資産運用期間にわたって大きな影響を与えるような経済のファンダメンタルの変化を認識し、現実の価格との乖離が見い出せれば、アセットアロケーションの変更や、ポートフォリオの調整をすれば良いだろう。
ちなみに僕は、トランプ大統領誕生前後の現時点では長期投資口座のポートフォリオは全くいじっていない。
長期投資のポートフォリオとは別口座で行っているトレーディング口座は、Brexitの時以来の出動をした。事前の予想を裏切り今後の不確実性が増した金融市場のリスク回避の動きという文脈で、Brexitの時と同じ構図であるので、同じように比較的すぐに戻るだろうという読みもあったが、難しいのは、それが「1日」にして起きたことだった。
9日に少ししか仕込むことが出来ず、戻した翌日にはさくっとポジションを閉じ、利益は出したが儲けそこなった気持ちもあるが、やはり9日の時点で思いっきりポジション取りに行くのは難しかった気もする。
そういえば、9日の夜はムサコ会で優雅に高級イタリアンを堪能していた。そもそも昼頃までSNS界隈が騒がしくなるまで選挙結果を気にしていなかったくらいだw
しかし、選挙結果がBrexitの時と同じ結果になったことは興味深い。ポピュリズムだとか反グローバリズムによる反動だとかで片付けるべきものでもないだろう。学んでおくべきことは、人間は高潔なことを考えているわけではなく、常に自分の身が1番かわいいということだ。人々にとって、地球の反対側でどんな悲惨なことが起きても、自分や自分の身の回りに起こることの方がよっぽど重要事だということだろう。国民は、他国との協調より、自国や自分の経済事情を、苦しければ苦しいほど優先したくなる。
また、後解釈も含めて少し考えたのだが、このような上か下かでボラティリティが発生するイベントでA or Bの結果がある時、Aになっても大きなダメージは負わず、Bになったら大きく儲けられるというポジションを考えられないか、ということだ。
Aは順当な上げ材料、Bはサプライズな下げ材料という場合が多いし効果的だろう。大統領選であれば、A:ヒラリー勝利、B:トランプ勝利、Brexitで言えばA:残留、B:離脱となる。
発生確率等を踏まえながらリスク量やポジション調整をする感じかなと。
長期資産運用では、既存ポートフォリオはロングしかないので、リスクヘッジや損失回避の対処として導入し得る方法でもある。長期間の投資のパフォーマンスにおいては、大損の発生を回避することが重要で、一方で正直細かい動きはあまりしたくないのだが、ビッグイベント時はさすがにお仕事もした方が良いのかもしれない、という気もする。
とは言えすぐに思いつくのは、VIX買い(2035か1552)かプットオプション買いを事前にしておくくらい。イベント結果が与えるインパクトを予測してロングショートの組み合わせの複合ポジションもあるかもしれない。Aになったら益が出るだろうと想定される損失の範囲内でヘッジのためのポジションを作っておけば、Aが起きた場合の機会利益は失われるが、Bが出た時に大きく儲けられるかもしれない上に、損失クッションになる。
ただ、「イベント日時が決まっている」という特殊性はあるので、あまり適用できる機会も少ないかもしれないし、2016年がたまたまBの目が続いただけかもしれないが。
僕にとって長期投資の良いところはマーケットから距離を置いて本業の仕事に専念することでもあるので、結果を予想したポジション取りや方向性に賭けることなどはしたくないし、ビッグイベントくらいかな。統計発表レベルのイベントで対応したくはない。
なお、これはBrexit後に考えたことだが、今回の選挙では少し考えたが、結局事前には何もしなかった。メディア報道見てたら、やっぱクリントンが勝ちそうだと思うもんね。。。だからこそ逆張りが当たった時に大きく儲かることになるのだが。
このあたりはより深く研究し、本ブログでも報告をしていきたい。
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