2016年03月21日

【書評】株式ディーラーのぶっちゃけ話 (著)高野譲

「株式ディーラーのぶっちゃけ話」(高野譲さん著)を読んだ。
中小証券会社で自己勘定売買をしているディーラー(トレーダー)による、証券会社ディーラーの内幕を綴った本で、文庫本でさらっと読めて、生々しい内容が多く面白かった。
ここでのディーラーとは、要は、証券会社のお金を好きなようにほぼデイトレのように売買し、成功報酬で仕事をする人たち(プロップトレーダーなどとも呼ばれる)。当然、成果を出せなければ続けられない。実際、証券会社ディーラーとデイトレーダーの行き来もあるようだ。
証券会社ディーラーになろうと思っている人が職に就く前に読むのが一番役に立つだろう。
僕のようにデイトレとは無縁の長期投資家には関係ないし、自分の投資行動に役に立つわけでもないし投資アイデアに結びつくような内容はないが、日々のマーケットはどういうプレーヤーがどういうことを考えて投資行動をしているかというのは参考になるし、マーケット好きとしては楽しめた。

株式ディーラーのぶっちゃけ話
高野 譲
彩図社 (2016-02-12)
売り上げランキング: 322

初版発行日 2016年3月7日
全190ページ・文庫本

著者の高野譲さんは、個人投資家を経て、茅場町にある中小証券会社の自己売買部に属する証券ディーラー。キャリアは8年で、既に同時期に入った7人は全員クビ、前後3年に入社した者でも生き残っているのは2人だけだそうだ。

○給与体系・待遇
給与体系は独特な成果主義。基本給+歩合給であるが、トップディーラーの年収は4億円にもなるそうだ。外資系投資銀行のプロップトレーダーのような報酬が、日本の中小証券会社でもあり得るようだ。
ただ、皆が皆、稼げるわけではないし、多くは成績を残せず消えていく。著者の高野さんは年棒が400万から3000万という振れ幅。首はつながるが、表彰されるほどでもない成績のようだ。
雇用形態としては、下記のような形態がある(p83-)。
・正社員ディーラー    基本給20万〜40万 歩合給25%〜35%
・契約社員ディーラー   基本給15万〜60万 歩合給30%〜40%
・コミッションディーラー 基本給なし 歩合給40%〜60%

契約社員ディーラーは、正社員ディーラーより歩合が5%高いが、成績がダメなら3ヶ月でクビ。
正社員ディーラーは、クビにはらならないがダメなら部署異動になる。そうすると、ほとんどの人は辞めるそうだ。
コミッションディーラーは完全歩合のフルコミッション。腕に自信があれば1番稼げる形態。

著者は、「税金について詳しくないが」と書いているが、正社員ディーラー、契約社員ディーラーは従業員で給与所得、コミッションディーラーは個人事業主で事業所得になるということで間違いないだろう。
*事業所得になると事業に関連する支出を経費にして確定申告することになる。

個人投資家よりもディーラーが優れている環境は「資金力」「損の負担なし」「世間体」であると著者は分析している(p186)。子どもの教育、ローン審査、賃貸契約など信用力のある場面で「世間体」は大事で、ディーラーを続ける理由で最も多い要素かもしれないそうだ。僕は、「損の負担なし」で勝負できるのが良いんじゃないかと思ったけれど、確かに生活を考えると、そうかもしれない。

○取引規制
個人投資家よりも面倒な取引規制もあるようだ。これは証券会社が金融商品取引法の相場操縦等で刺されないための独自ルールが定められている。会社によってルールは異なるらしい。
例として、下記が挙げられている(p72-74)。
・買いと決済の注文を同時に出せない(買い注文が残っているのに、約定した分が株価が上がったからと言って売れない。売るには未約定の買い注文を取り消してからでないといけない)
・新高値の売買禁止(ディーラーは、その日の新高値を付ける買いが出来ない。相場操縦目的の株価の吊り上げ防止策らしい)

○アローヘッドとアルゴリズムトレーディング、呼び値の適正化
アローヘッドについてのくだりは興味深かった。
今や、東証の売買は出来高の6割がアルゴリズムによる取引で、要は機械による売買で出来ている。それに契機になったのが東証が2010年に導入した売買システムの「アローヘッド」で、約定処理がこれまで約3〜4秒かかっていた約定が、0..04ミリ秒以下になり、人間の目には追えなくなった。
僕は、日経新聞なんかで、「アローヘッドで証券ディーラーが消える」みたいな記事を読んでもピンと来なかったが、実際にその影響は大きいようだ。
例えば、日経平均が○%上がったらA銘柄が○%上がる、というような連動のプログラムが組まれていると、出した注文を一瞬でアルゴリズムが持っていき、板には何も残らず株価も動かない。「影を潜めた見えない存在に恐怖を覚える」(p113)そうだ。
そのため、流動性が低くアルゴリズムが入ってこない新興市場でトレードするディーラーが増えるらしい。東証1部の銘柄では、「銘柄間の価格差が固定されて、遊び(ボラティリティ)がなくなってしまった」(p114)ということが起きたらしい。

呼び値を細分化していったことも影響が大きく、今まで値幅が10円単位のものが1円単位になると、1つの株価での板が薄くなり、抜きずらくなったそうだ。要は、3000円の株価で10円単位なら、3万株買って3000円の次の株価である3010円で売れば30万の利益になるが、値幅が細かくなり1度に上げられる利益が少なくなるといった具合だ。

他に面白かったのが、取引ツールをゴールドマン・サックスから営業されたという逸話がある。著者は、「そんな有効なツールを提供するなんてウラがあるもではないか」と疑ったそうだ。結局、導入にはならなかったそうだ。
・アイスバーグ →1つの注文を分割して行うアルゴリズム(10枚の発注をするところ、アイスバーグで指定すると10回に分けて1枚ずつ自動で発注される)
・ステルス →隠れて発注(「ステルス買い」)するアルゴリズム(発注は待機状態になり、誰かの売りが出たときに瞬時に買いに行く。要は、気配が板に出ない)


デイトレは僕のような一般投資家には遠い世界ではあるけれど、日々の流動性はこうやって提供されているのか、ということと、その裏にある人間ドラマを知ることは面白い。

【関連記事】
2015/7/20 [感想・書評]勝つ投資 負けない投資 片山晃(五月) 小松原周/著
2012/9/19 外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々(藤沢数希/著)読後の感想

株式ディーラーのぶっちゃけ話
高野 譲
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2016年03月20日

映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」を観てきた感想

映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」を観てきた。
公式サイト: http://www.moneyshort.jp/
160320 マネー・ショート 華麗なる大逆転.JPG

「マネー・ショート」は、サブプライム危機が起きるのを事前に察知し大儲けした投資家たちを追った「世紀の空売り」を映画化したもの。原題は「The Big Short」。


リーマン・ショックの原因となったサブプライム・ローンと呼ばれる低所得で信用力の低い人たちへの住宅ローンをまとめて証券化した金融商品(MBS)が、皆が「住宅市場はずっと右肩上がりで堅調だ」と信じていた中で、あまりにもクソなローン債権がパッケージされ、高い信用格付けを得て、投資家に販売されていた。サブプライム・ローンは家を担保にして、住宅価格が右肩上がりであるので、住宅自体を売却すればローンは回収できる、という前提で、本来ローンの返済が出来ない人へどんどん貸し出されていった。そういった借り手たちは、どうしようもない低所得者たちだった。映画では、犬の名前でローンを借りているいかにもみすぼらしい黒人や、下品なストリッパーが出てきて、ローンの契約条件なんてまるで分かってないし、ローンを返せるかどうかもまるで分かってないことや、現場のローン斡旋会社は借り手の信用力を無視して自分たちの成績のためにどんどん貸していく様子が出てくる。投資家は「バブルだ」と確信する。
さらに、サブプライム・ローンは現場を知らない投資銀行で数学が出来る人たちの計算で、まとめられて、デフォルトによる損失負担順位をトランシェ(階層)に切り分けられ、利回りを求める世界中の投資家にバラまかれていった。ローンが、まとめられ、切り分けられていくことによって、どの債権の実質的なリスク負担者がどうなっていくか誰にも分からなくなっていき、さらに、バーチャルなCDO(債務担保証券)などという商品等に転嫁されていって、どんどん膨らんでいった。
住宅市場がバブルで、サブプライム・ローンは焦げ付くに違いない、そうするとサブプライム・ローン債権をパッケージにした金融商品の価値はなくなる。つまり、もしバブルでいつかは破綻するであろうということを事前に察知していれば、「空売り(ショート)」すれば大儲けすることが出来る。
サブプライム・ローンをパッケージした金融商品自体は市場性もなく空売りが出来ない。そこで、投資家たちが目に付けたのは、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を買うこと。CDSは、債権がデフォルトした際に額面(元本)をもらえる代わりに毎年一定の料率の手数料(保険料)を支払うというもの。デフォルト確率が上がっていけば元本がもらえる確率が上がるため、CDSの契約保有者の契約の価値が上がることになり、契約価値が上がったところで売れば儲けることが出来る。CDSは、通常は、債権保有者がデフォルト時の損失をカバーするために保険として購入するものだが、債権を持たずにCDSを買えば、その債権のショートポジションを持つことになる。
CDSの売り手は、サブプライム関連商品を売りまくっていた投資銀行で、投資銀行を相手方としてCDSを買うことになる。映画でも、ゴールドマン・サックス、ドイチェ証券、ベア・スターンズ、JPモルガンといった投資銀行の会議室でCDS契約をするシーンが出てくる。投資銀行の金融マンたちがCDSを売る時に、「安全」な住宅ローンのCDSを買うなんてまるで理解できない、保険料が儲けものだ、という様子で契約を締結する。
詳しい解説は、「世紀の空売り」を読むとよく分かる。同時期の「史上最大のボロ儲け」も同じような内容の本があり、本ブログでも当時紹介している。
(参考リンク)
2010/12/28 世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち マイケル・ルイス/著 東江一紀/訳
2010/12/24 史上最大のボロ儲け ジョン・ポールソンはいかにしてウォール街を出し抜いたか グレゴリー・ザッカーマン/著 山田美明/訳

世紀の空売りは文庫本も出ている。
世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)
マイケル・ルイス
文藝春秋 (2013-03-08)
売り上げランキング: 218


映画は、実話をもとにしたドキュメンタリーといったまとめ方になっている。
何人かの金融関係者が「マネー・ショート」を観てきたというSNSでの事前情報では、一様に「面白かったけど用語の意味とか仕組みが分かってないとよく理解できないのでは」という感想だったが、そうかもしれない。
個人的には楽しめた。「世紀の空売り」を読んで面白かったという人は映像で見る楽しさがあるし、金融ビジネスに興味がある人には面白いと思う。大儲けして派手に騒いだりということもなく意外と真面目な内容になっていて、映像的には、そんな派手なシーンがあるわけでもなく、映画館で見る必要があるかどうか、後日DVDで観ればいいかも、という気はしなくはない。
サブプライム・ローンをパッケージしたMBSや、サブプライム・ローンを加工したCDO(債務担保証券)などは、バスタブに入った美女が語ったり、料理人が料理に例えたり、カジノゲームに例えたり、途中で趣向をこらした短時間の解説が入る。まあ。その解説が分かりやすいわけでもないけど(笑)。

登場人物は皆、個性的で面白い。
サイオン・キャピタルという自分のファンドを運用するマイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)、JPモルガン参加のヘッジファンド・マネージャーのマーク・バウム(スティーブ・カレル)、変わり者でサブプライムのショートに賭けたドイチェ証券の投資銀行マンのジャレド・ベネット(ライアン・ゴズリング)、11万ドルを3000万ドルにしたという大学生のような年齢の個人投資家にCDSを買うためにISDA同意書を協力をする元金融マンのベン・リカート(ブラッド・ピット)ら豪華俳優陣が登場する。ISDAとは、大きな取引をするのに必要なライセンスらしい。
これらの登場人物が同じ時間軸で、それぞれの動きを追った構成になっている。住宅ローン市場がバブルと気付き、CDSを買っていく。途中、読み通りにデフォルトが増えているのにCDSの価格が上がらず当惑する様子。そして、サブプライム危機、リーマンショックが起きて、ついにCDSが莫大な利益をもたらす。儲かったところのシーンは意外とあっけない。
誰もが堅調だと思っている住宅市場の逆に賭けるマイケル・バーリが途中でファンド出資者の投資家に詰め寄られたり賛同を得られないシーンもなかなか見ごたえがあった。

最後に、字幕のテロップで、2015年に銀行が凝りもせず新たなハイリスクデリバティブ商品の販売を始めた、というのが出てくる。これは、具体的に何だか分からなかった。
また、マイケル・バーリはファンドは解散し、(恐らく個人資産を)小規模に運用していて、今の投資対象は「水」だと出てくる。「水」って何だ。少し気になる。

全体的には、こういう金融映画に興味がある人には面白いし、ない人にはつまらない映画でしょう(笑)。

また、個人的には、いつか、何かのタイミングで、ディープ・アウト・オブ・ザ・マネーのプットオプションを仕込めるなら仕込むことには興味がある。現時点で具体的な投資アイデアはないし、投資対象も見出してはいないが、何かないか、ということにはアンテナを立てておきたいと思っている。
この投資法は、一定の支払の損失は発生するが、場合によってはもし起こった時には莫大な儲けが期待できるため、私は勝手に「宝くじポジション」と呼んでいる。
「宝くじポジション」は悪くない。ただ、人生は短いので、人生の中で数回はある頻度のオポチュニティーに賭けなくてはならない、ということには注意を払わないといけない。もし、そのオポチュニティーが決まれば、「一生ものの儲け」の可能性があり、損失が限定される範囲内なら、悪くない。
宝くじは、1等を当てるためには人生何回過ごさないといけないか分からないので、宝くじを買い続けることは現実的ではないが、歴史は繰り返すのであれば、金融危機は人生で何度かはやってくる。
【参考】2015/5/4 宝くじを買うことは経済合理的に正しい事である2つの理由【宝くじの経済学】






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