・「日本の投資家の皆さまが成功する投資家になるためのバンガードの4つの基本原則」を読む(PDF)
バンガードは、個人投資家向けインデックス商品の生みの親とも言えるジョン・C・ボーグル氏が設立した運用会社で、世界のETF運用会社御三家の1社です。
投資家への資産運用のコンセプトとして、「長期・分散・低コスト」を提唱し、それにふさわしい商品を提供していることで知られています。
日本のネット証券で最も買われている海外ETFのトップ3は全てバンガードが押さえています。
(参考)2015/8/8 海外ETFのネット証券大手3社の残高ランキング ダントツ1位はVTで残高299億円、上位20本の合計残高は1178億円
http://money-learn.seesaa.net/article/423812856.html
もとより、バンガードでは、「投資家の皆さまが成功する投資家になるためのバンガードの4つの基本原則」という冊子を公開していましたが、本書は、今般、内容を日本円と日本籍投信のデータを極力用いて日本人投資家向けカスタマイズしたのが趣旨のようです。旧版と内容自体に大きな変更はないようです。
ボリュームは本編が26頁ほどとコンパクトに、長期運用を学ぶための基本的必須事項が凝縮されています。
まだ読んでいなくてこれから読んでみようという方は、日本向けの同書を読むのが良いでしょう。
電車に乗りながらスマホで読めるようなボリュームで、無料コンテンツとしては非常にお勧めと言えます。
コンパクトな分、全くファイナンスの前提知識や投資経験がないと理解が難しいところはあるかもしれません。分からないところは流しながら、入門書も合わせて読んで実践に入っていけば良いでしょう。
重要なことは、シンプルなルールで始め、継続し、目標となる成果を出すことです。ルールを深く理解することが、長期的な継続への自信になり、結果へ結びつきます。
受け入りだけだと、途中で脱落してしまう可能性が高まります。人間、「分からないことを続ける」ことは大きなストレスだからです。さらに都合が悪いことに、人は長期的な先よりも目の前で起きていることに捉われやすいことも手伝い、得てしてマーケットが悪い時に諦めてしまう人が多いのは、このためです。
そういう意味でも、是非、多くの個人投資家(特に資産形成世代で長期運用の必要が高い方)が、本書を読んで、理解を深めて頂くと、本人にとってもハッピーなゴールになるかもしれませんし、ひいては金融リテラシーの向上が日本の資産運用サービスの健全な発展に繋がるものと思います。
・バンガードの4つの基本原則 〜「投資家の皆さまがコントロールできることに注力してください」〜
多くの人が、マーケットや経済、運用会社ランキング、個々の株式や運用戦略のパフォーマンスといった、本来コントロールすることのできない要素に目を向けがちで、見過ごされがちな、投資で成功するために最良の機会をもたらす不朽の基本原則が下記の4点として挙げられています。
目標(明確で適切な投資目標の設定)
バランス(幅広く分散しているファンドに投資し、適切な資産配分を)
コスト(コストの最小化)
規律(規律ある長期的な視点を)
詳細はコンテンツを読めばいいのですが、私自身の理解の整理のため、重要だと思った要点をピックアップしてみました。
・目標(明確で適切な投資目標の設定)
適切で、達成可能な目標を定めることが重要。長期の投資計画がないと、投信格付けといった一時的な要因に左右され、「高値づかみ・安値売り」といった非効率な投 資に陥る可能性が高まる。
どれくらいのリスクを取るか認識する→具体的で達成可能な投資額と、ポートフォリオを見直す時期や頻度を決めるというのが正しい手順。リターンから追わない。
基本的な投資計画例で考えること(p3に計画例があり)
・目的
・前提条件や制約
・貯蓄や拠出額の目標
・資産配分の目標
・補完する資産クラスの エクスポージャー
・パッシブかアクティブか
・リバランスの方法
・確認方法
知っておくべき事実(図表やグラフあり)
・好成績を維持出来るファンドは少ない(p5)
・投資信託への資金流入はパフォーマンスの後追いである(p5)
・バランス(幅広く分散しているファンドに投資し、適切な資産配分を)
アセットアロケーションは、合理的なリスクとリターンの予測に基づいて決定する必要があり、資産を不必要なリスクから守るために、分散させる必要がある。
株式や債券、その他の投資対象の組入れ割合によって、そのポートフォリオのリター ンとボラティリティ(変動性)はほぼ決まる。ボラティリティや短期的な損失をおそれるあまり、株式への投資を最小限に抑えると、 インフレに対応できない、また、投資目標に到達できないといった他のリスクが生じる可能性がある。
アセットアロケーション(資産配分)の決定にどのような前提条件を用いるかということは、ポートフォリオの資産の組み合せと同じくらい重要。
ある特定の時点でのマーケット環境が、投資家のリターンに大きなプラスやマイナスになりうる。長期的な過去の実績データを分析することで、ある程度リターンを予測することは可能だが、同時に、マーケットは常に循環しているので、ある一定のリターンを前提とするのは 非現実的である。
損失に対する保険をかけることにはならないが、必要以上に大きな損失を防ぐことには役立つ。
なぜ分散なのか?
トップパフォーマー銘柄は、絶えず、そして素早く入れ替わり、事前に当てることは困難である。
投資をしないことのリスク
・機会費用 ・・マーケットで利益を上げられる機会 があるのに、何もしないことによって生じる損失。
・インフレリスク ・・インフレ経済では、投資家は長期的に購買力を失う可能性がある。
知っておくべき事実
・株と債券の組み合わせ比率の違いが運用成果に違いをもたらす(p8)
・投資カテゴリーごとの年率リターンには規則性がない(市場のベスト・パフォーマーは不規則に毎年変わる)(p12)
・コスト(コストの最小化)
マーケットは予測不可能で投資家がコントロール不能だが、コストは常に発生しコントロール可能な要素である。投資コストが低ければ低いほど、リターンに対する投資家の手元に残るお金は増える。学術的な調査によると、低コストの投資は高コストの投資をアウトパフォームする傾向があると指摘されている。
特に2%を超える高い信託報酬のファ ンドが高いリターンをあげる可能性は非常に低いことがデータからも明らかである。
知っておくべき事実
・投資の年間コストの大小がポートフォリオ残高に与える長期的な影響(p16)
・コストが高いと運用結果は悪化することがパフォーマンスに対する影響を検証した様々な調査により立証されている(p18)
*ファンドラップのコストはどうなのでしょうか?(笑)
(参考)2015/9/22 銀行の投信販売現場に行ってきました。親が銀行のお客様(上カモ)だった!(その3)http://money-learn.seesaa.net/article/426530132.html
・規律(規律ある長期的な視点を)
自制心と長期的な視点を持ち続けることで、たとえマーケッ トが不安定なときでも、投資家は投資目標の達成に向けて、焦点を定めることができるようになる。
アセットアロケーションの決定は、目標を達成するための重要な礎の一つであると同時に、時間の経過に伴い、資産の比率が変わった場合、投資目的達成のために設定した当初の資産配分へと戻すには、定期的なリバランス が必須。ジャコネッティ、キニリおよびズィルベリングは2010年の論文で、最も幅広く分 散投資されたポートフォリオの資産配分を毎年または半年ごとに確認し、当初の配分目標から5 パーセント以上乖離した場合はリバランスする必要がある、と結論づけている。
ファイナンスの学術研究では、アクティブ運用のファンドが常にベンチマークをアウトパフォームし続けるのは極めて困難であることが示されている。
定期的なリバランスを通じて、ポートフォリオのリスクを管理することができる。
ポートフォリオの見直しを怠ると、大きな損失を被る場合がある。
マーケットを出し抜こうとすると、たいてい損失につながる。
知っておくべき事実
・規律を維持することの重要性:リバランスを怠ると、投資家は意図しないリスクにさらされることがある(p21)
・規律を維持することの重要性:市場の変動に反応してしまうと、マーケットの後追いをしてしまう結果、リターンを損なうことがある(p22)
・トップ・パフォーマーはすぐに変わる(p25)
・貯蓄率・資産運用への拠出率(拠出額)を増やすと目標資産額達成までの年限が短縮される(p26)
・「市場が乱高下しているとき、何をすべきか?それは「何もしない」こと
加えて、2015年8月の株価下落に際して、2015年9月1日付では、バンガードCEOビル・マクナブ氏からのメッセージが出されています。
・バンガードCEOビル・マクナブからのメッセージ
https://www.vanguardjapan.co.jp/retail/articles/resources-learning/saving-investing/what-to-do-about-market-volatility.htm
ここでは、市場の熱狂を上手く切り抜けるためのシンプルなルールが言及されています。
第1のルール:ボラティリティと周期的な調整は株式市場ではよくあることであると認識すること。
第2のルール:雑音を消して、投資から感情を追い払うこと。
第3のルール:ボラティリティを味方にすること。
「何もしない」という計画を立てること。(ポートフォリオが既に広く分散されていて、投資家の投資目標、投資期間、リスク許容水準にとって適切なバランスがとれているのであれば、それを堅持することが賢い選択である)
*わりと、私も本質的には近いような考えかなと思います。
(参考)2015/8/25 日経平均下落や世界同時株安に長期投資家はどう対処すべきか
http://money-learn.seesaa.net/article/424782159.html
・まとめと感想
読んでいるとピックアップの箇所が多くなってしまい、長くなってしまいました。。
いわゆるインデックス投資(こつこつ積み立てながら長期志向でインデックス投信やETFによるグローバル分散投資を行う方法)のエッセンスが詰まっています。
目標を持つことと、規律が大事、というのは、重要であるものの、この大事さは、実際にやっていかなければ深く分かるようにならないし身に付かない、という要素ではあるのですが、客観的な現状把握に則った「目標設定」が全ての根幹ではあります。
また、バンガードの原則はシンプルで誰でもやりやすい方法ではありますが、知っておくべき事実をファクトとして理解し、ここにあるような原則はしっかりと知りつつ、あとは好みで自分の型を作っていけば良いのだと私は思います。資産運用の正解は、自分の目標に達することが出来るかどうかだけで、投資法がインデックス運用でもアクティブ運用でも、そこに善悪はありません。(パフォーマンスの低い高コスト商品は投資家にとって「悪い」と言えますが)
あとは、具体的なアセットアロケーションの方法論、商品選択、ネット証券の使い方、税金(特定口座を使えば基本は不要)などの理解を徐々に深めていけば良いでしょう。
【関連記事】
・2015/9/12 「やり直し相場ではじめるETF超入門」週刊東洋経済(2015年9月19日号)を読み解く
http://money-learn.seesaa.net/article/425852864.html
・2015/7/25 [感想・書評]全面改訂 ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド 山崎元 水瀬ケンイチ/著
http://money-learn.seesaa.net/article/423002177.html
・2010/12/31 ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理 バートン・マルキール/著 井手正介/訳
http://money-learn.seesaa.net/article/177621542.html
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