2015年07月25日

[感想・書評]全面改訂 ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド 山崎元 水瀬ケンイチ/著

前書「ほったらかし投資術」(2010年12月)からの改訂版、「全面改訂 ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド」を読みました。改定前の前書よりも分かりやすさが改良され、より実践的で行動に移すことのサポートになることに重きを移しているように思いました。
一般人には難しい金融の話をなるべく平易に読みやすく説明し、投資初心者の個人投資家の資産形成のための運用実務への指針として役に立つ内容になっていると思いました。
本書は、「資産運用が仕事でも趣味でもない普通の人」に向け、まともな資産運用法では最も手間が掛からない部類の方法で、「簡単」であると同時に「無難」で何よりも「負けにくい」(*)運用方法で、生活に支障なく大変な努力をしなくても、「ほったらかし」で続けられるというインデックス投信やETFを用いた資産運用法の実践方法を存分に伝える内容です。
20代~40代で、自分で資産形成を考えていかないといけないのかなという問題意識があり、これから証券口座を開いて投資をしてみようかなという方、資産形成の重要性は理解しているもののサラリーマンで個別株売買でなかなか利益を上げられないでいる方、積み立て投資を始めてみたけどどうしたら良いのか迷いのある初心者の方に特にお勧めです。また、(特に初心者の方へ)本書内容への補足と私見は本エントリーの下方に書いていますので、合わせてご参考になりましたら幸いです
(*)「負けにくい」という表現は誤解を生みそうですが、本書を読めば分かりますが、「損をしにくい」ではなく「アクティブ運用などの他の運用法に比べて負けにくい」という意味です。

全面改訂 ほったらかし投資術 (朝日新書)
山崎 元 水瀬ケンイチ
朝日新聞出版 (2015-06-12)
売り上げランキング: 215


初版発行日 2015年6月30日
全239ページ ・新書

本書で推奨する資産運用法は、「インデックス運用実践ガイド」ともあるように、株価指数(=インデックス)に連動した手数料の低いインデックス投資商品を用いて、資本主義経済の長期的成長に乗って長期運用で運用成果(利益)を得て行こうという方法です。
具体的な運用の中身は、本書では、資産運用のリスク資産割合のお勧めポートフォリオをあえて固定し、投資比率を国内株式50%、外国株式(先進国の株式)50%としています。チャレンジングな試みにも見えますが、「これから始めたい人が、何をどういう割合で買えばいいのか分からないから、とりあえずこれでどうでしょうか」という意味合いでは、本書に従っておくのも良いのかな、と思います。既にインデックス運用を実践している人には参考程度で考えれば良いかなというのが私見です。

著者は、個人投資家への資産運用にインデックス運用を推奨する経済評論家の山崎元さん自身がインデックス運用を実践しブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を運営するブロガーで有名な某IT企業勤務40代前半の水瀬ケンイチさんの共著です。
(私にとっては、インデックス投資ナイト等でもお世話になっているお二人です)

本書の構成は下記の通りで、大よそ、なぜインデックス運用か、具体的手順、投資対象とすべきインデックス商品紹介、インデックス運用における考え方や実務上の留意点が網羅されています。
序章 人はどのようにしてインデックス投資家になるか 水瀬ケンイチの投資遍歴
→水瀬さんがアクティブ投資家で、仕事に支障をきたすレベルで株価動向のチェックをしていたことから、インデックス運用提唱のバイブルとも言われる「ウォール街のランダム・ウォーカー」を読み、インデックス運用へ変わっていくさま。
・(本ブログでの参考)2010/12/31 ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理 バートン・マルキール/著 井手正介/訳 *現在、下記書評時より改訂新版が出ています。
http://money-learn.seesaa.net/article/177621542.html

第1章 さっそく、始めてみよう! インデックス投資の正しい手順ガイド(p17〜)
→自分の資金のどれだけを運用に回すか、具体的にどうやって進めて行くかの指南。確定拠出年金(DC)とNISAの活用法も含む。

第2章 一歩先を行くあなたへ インデックス投資説明編(p29〜)
→インデックス運用の長所を、@手数料が安い、A分かりやすい(特性が理解しやすい、指数の動きはニュース等でも自然と情報が入ってくるため現状把握しやすい)、B(アクティブ運用に比べて)負けにくいという説明と、短所(時間がかかり、退屈で、指数全体への投資であるためダメ企業にも投資してしまう)、商品の選び方、将来の売り方、リバランスやメンテナンスの方法、アクティブ運用について、といった実践面でのサポート部分です。

第3章 商品ガイド編 インデックスファンド、ETFの「ミナセ・ミシュラン」(p185〜)
→本書執筆時現在で水瀬さんお勧めの、インデックスファンド、国内外ETFを17本紹介しています。インデックス商品は日本の投資環境で黎明期を過ぎたあたりで、今後変わってくる可能性があるかなとは思います。水瀬さんのブログなどでアップデートしましょう。

第4章 マニア向けの特別付録 ETF運用の現場を知りたい!日興アセットマネジメント社 ETFセンター長・今井幸英さんに聞く(p209)
→インデックス運用の現場のお話です。私には面白い内容でしたが、個人投資家の運用実務にはあまり関係なく、運用パフォーマンスに影響するものでもないので、対象に記載の通り「マニア」以外は読み飛ばして良いかなと思います。

あとがき(p237)

〜本書への私見〜
ここからは、読後における本書の指針への個人的な私見と補足です。これは、資産運用には色々な考え方があり絶対的な正解はありませんから、本書の内容を批判したり反対意見を述べることを目的としたものではありません。色々な考えを示すことにより、本書及び本ブログの読者にとって資産運用へのヒントが少しでもあれば、ということで記載しました。

・運用の手順を踏む前にすべきことは自分の目標設定
本書の運用手順は、@家計の状態を把握、A資産配分(アセットアロケーション)を決める、Bアセットクラスごとにベストな商品を選ぶ、C商品を売買する金融機関を決める、DDC、NISAを最大限に活用、Eモニタリングとメンテナンス、となっています。(p30〜)
この手順の中で、本書では、何かあった時(仕事を失う、病気など)のために、生活防衛資金(山崎さんは生活費3ヶ月、水瀬さんは生活費2年分を推奨)を除いて、運用に回しましょう、としています。

私は、具体的実行の手順の前、@家計の状態を把握とともに、「自分の資産運用のゴール(目標設定)」をすべきであると考えます。ガチガチに考えず、人生は色々あるので大まかで良いですが、将来どのように生活したいか、そのためには何歳で資産をいくらにする必要があるのか、ということを考えてみるべきです。
そして、将来欲しい資産額と自分の収支予測や今の貯蓄額から、自分の想定運用期間での資産運用で得るべき目標利回りをイメージし、目標利回りが高すぎたら将来プランをより現実的に変えたり、あるいは夢をグレードアップして、目標利回りに応じたリスクを把握し、そのリスクは自分の精神衛生や投資経験に見合っているか(リスク許容度)を考慮して、アセットアロケーションは決められるべきです。

貯蓄がそこそこあって生活防衛資金に余裕のある人には、本書のポートフォリオでは、リスクが過剰になる可能性があります。
まあ、「貯蓄がそこそこあって生活防衛資金に余裕のある人」が20~40代にはそもそも希少かもしれませんが。
明記はされていませんが、本書の試みは、本である以上コンパクトにまとめる必要があり、なるべく個別性をもたせずに、一般論としておしなべて解説する、そのため、アセットアロケーションをあえて固定する、という点があるように私は推察したので、上記のような話をし出すと、「資産配分の決め方」で一冊になるような話になりますので、「インデックス運用の実践解説」としては省略されたのかもしれません。

・投資許容額を投資初心者が一括投資することのリスク
本書では、投資すべき資金が既にあり、最適な投資額が決まっているとすると、時間・手間・コストがそれぞれ余計にかかるのと共に、投資が完了するまでの期間に十分機会を利用できない「機会コスト」もかかるので、時間分散は「気休めにはなっても、合理的ではない方法」であり、「いいタイミング」はどの道分からないので、適正投資額は遠慮なく一括投資で1回で投資してしまうよう推奨されています(p76)。

私が考える資産運用で最も注意すべきことは、「ゲームオーバーにならないこと」です。確率論で「ゲームオーバーになる可能性が低い」というのはリスクを取って良い理由にはならず、起きる確率が低そうに見えても現実では1度起きたら終わりなので、いかに起きないようリスク管理するかが重要です。
特に投資初心者は、まとまったお金を一括投資した直後に痛い損失を受けたら、始めようと思っていた積み立て投資での追加投資が出来なくなったり、嫌になって資産運用自体を辞めてしまう、という可能性が高いです。
投資が初めての方は、少額から始めてみて、資産価格の変動に慣れてから、ある程度の時間をかけながら、リスク資産への割り振りをしていき「これくらい損しても自分は大丈夫」という心理的要因を自己認識しながらやっていく方が、結果、続けやすいと思います。
この数年のアベノミクス相場では上げ相場で強気になりがちなので、「株価が上がっているから」と欲張ってやりたい気持ちを抑えることが大切です。これは、長年の経験と失敗を経ないと実感として分かるようにはなりませんが・・

最も、リーマンショックのような大暴落の最中でも資本主義経済の発展を信じ、継続をかたくなに続けることが大事であるということが本書の主張で、その通りです。そのための機械的運用「ほったらかし投資術」なんです。
初心者には、下げ相場や万が一の暴落時では、この「継続」が困難になってしまい(本当は下げ相場でこそ積極的になるべきなのですが)、損失だけが現実化する可能性がないよう、少々慎重な考えも提示しておきたいと思いました。山崎元さんはファイナンス理論原理主義的なところがあるので、現実的な心理的な面には配慮した方がいいかなと思った次第です。

・将来の売り方
本書では、基本的には、「お金が必要になった時に、必要な分だけ売ればよい」(p167)という原則が示されています。

私は、「目標資産額に達したら、最大損失予想を低下させる資産配分に切り替えるべき」と提唱します。すなわち、株式の比率を落としていき、より資産価格の変動が小さくインカムゲイン中心の資産(債券など)や通貨分散に重きを置いていく、というように資産配分を変えていく、ということです。目標資産額に達したら、「殖やす」より「守る」をより重視すべきと考えるからです。
本書には登場しませんがターゲットイヤーファンドのように、年代別にリスク許容度を下げていく、という方法も提唱されますが、私はあまり支持しておらず、年齢ではなく自分の資産額・仕事での収支状況・今後の生活の予測や人生計画に合わせて変えて行く方がベターであると私は考えます。(要は、個別裁量の要素が強いので、こういうのはアドバイザーの仕事で、商品化が難しいということだと思いますが。)

これは、本書の中でも、考え方2(p171)でも「リターンではなく、リスクはコントロールできる」として考え方は示されています。
インデックス投資家は資産形成世代に実践者が多く、投資運用中のステータスの方が多く、まだ売るステージに達していない人が多いので、出口戦略については、今後のテーマになってくるかなと思います。本ブログでも、引き続き研究テーマとして参りたいと思っております。

(もう少し補足したいことがなくもないですが、長くなったので終わります。)

【本ブログの関連記事】
・2011/2/13 ほったらかし投資術 インデックス投資実践ガイド 山崎元、水瀬ケンイチ/著 (書評、内容、目次)
http://money-learn.seesaa.net/article/185718948.html
・2015/7/11 インデックス商品(ETF及び投資信託)による長期志向でのグローバル分散投資のメリット・デメリット
http://money-learn.seesaa.net/article/422197628.html
・2015/7/5 インデックス投資ナイト2015無事に終了!【当日の様子】
http://money-learn.seesaa.net/article/421837387.html
・2011/12/5 インデックス投資のメリット・デメリット 〜「退屈」なインデックス投資
http://money-learn.seesaa.net/article/238891935.html

【山崎さんのコラム「ホンネの投資教室」】
第246回 個人のインデックス投資、4年間の進歩 〜「全面改定 ほったらかし投資術」(朝日新書)の変更点〜
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/opinion/fund/yamazaki/0246.html




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2015年07月20日

[感想・書評]勝つ投資 負けない投資 片山晃(五月) 小松原周/著

「勝つ投資 負けない投資」(片山晃(五月)・小松原周 2015年)を読みました。
著者は、バイトで貯めた65万円の資金を10年間で25億円にまで増やしたスーパー個人投資家・片山晃さんと、徹底したリサーチと業績予想に基づき投資判断を行うファンダメンタリストで大手資産運用会社にて現職のファンドマネージャー・アナリストを務める小松原周さんで、別々にパートを設け、それぞれの投資観が記されています。
数十億の資産を作った個人投資家と大手運用会社のファンドマネージャーの2人が投資のコンセプトを主眼とした内容で、カジュアルでさらっと読めばよく、結果を出している投資家が書いているということが目玉かなと思います。
アマゾンレビューでは叩かれていますが、基本的には投資初心者向けです。個人的には、片山晃さんの章は、デイトレーダーから長期投資家、個別株投資家からインデックス投資家まで、投資の考え方について、あらゆる「投資家」が読んで得るものがあるかと思います。アクティブ投資家でなくても、自分には真似できないからインデックス投資家になろう、というのもまた気付きかもしれませんし、どのような運用手法であっても、マーケットを知ることと、マーケットのプレーヤーを知ることは大切です。

勝つ投資 負けない投資
片山 晃(五月) 小松原 周
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
売り上げランキング: 3,036

初版発行日 2015年5月21日
全223ページ ・ソフトカバー

片山晃さんは、ネット上では、五月(ごがつ)のペンネームでも知られています。また、2013年から1年間ほど、ひふみ投信を運用するレオス・キャピタルワークスで機関投資家業務もしていたことで知られています。
「東証Project」というブログを運営しています。
・「勝つ投資 負けない投資」 出版しました(2015/5/16)
http://blog.livedoor.jp/love_aeria/archives/51914682.html

小松原周さんは、大手資産運用会社に勤めているということなので、コンプラの関係などだと思いますが、個人情報は公開されていません。
「仙人の祈り」というブログを運営しています。
・【告知】「勝つ投資 負けない投資」(2015/5/1)
http://senninn.blog.fc2.com/#entry702

担当分けがされていて、前半は「勝つ投資」というパートで片山晃さん(p36-p103)、後半は「負けない投資」というパートで小松原周さん(p108-216)です。
著者たちは、「これまでにない誠実な投資本にしよう」というコンセプトで、具体的な手法などよりは投資の考え方、向き合い方などが内容の多くを占める作品にしたと語っています。
一方、本としてはニーズがありそうな、個別の投資手法(いつ何に投資をして儲けたのかという具体例)についての言及はほとんどなく、読み手によってはこれを読んでも勝てるようにならないじゃないか、という意見があることも承知の上だということで、そこにこそ投資の本質があるからだという趣旨とのことです。
片山晃さんは最近、雑誌や新聞などへの露出がちょいちょいあるので、トレーディング内容を知りたければ、そういう記事を読んだ方がいいかもしれません。スマホ広告の黎明期にファンコミュニケーションに張ったなど、個別のトレードについてもインタビュー記事で読んだ覚えがあります。

片山晃さんのパートは、ネトゲ廃人からデイトレーダーになり、割安株投資へと投資スタイルを変化させていった変遷や、投資についての考え方が書かれていて、味わい深い洞察がありました。
「どんなやり方が向いているかは人それぞれ」「かけられる時間と情熱によって取れる手法が決まる(=片山さんと同じようなやり方をするのならそれなりの時間と情熱を注ぐことを覚悟する)」「大事なのは「変化」と「想像力」」「「いつか上がるかではなく「いつ上がるか」「チャンスは平等にはやってこない。大きく勝つにはチャンスに対して大胆にリスクを取っていく」「数字の先にあるストーリーを見る」など。
投資の考え方それ自体は特別な事が書かれているわけでもないと言えばそうで、同じようなことを言うことはある程度の経験者なら出来そうですが、実際に勝ち続けている投資家が語っているということに意義があります。本質的な事柄が書いてあるので、内容を「分かっている」と言うのと、本当に「腹落ち」しているのとでは、天と地の差があり、その差が「自分が見えているもの」の差になって、パフォーマンスを上げ続けながら長期的に生き残るかどうかに鍵なのかもしれません。

個人的に目を引いた箇所は、時間も情熱もかけられない、地道な作業が向いておらず、値動きを読んでトレードで勝つほどのセンスもなさそうだという人は、投資には向いていないので他の分野に目を向けた方がいいというアドバイスとともに、それでも投資で勝ちたい人への3つの選択肢です(p49-50)。
1.あまり適性がない事を自覚して、無理のないリターンを上げる手法を磨く
2.信頼できるプロフェッショナルを見つけ、自分のかわりに運用してもらう
3.投資で勝つために自分自身を殺し、勝てる性格に少しでも近づける

私は、情熱はなくはないですが、本業が別にあるので時間がないのと、マーケットの波に乗る事が得意ではない・個別株トレードで思いっきりリスクを取っていくのに似合わないというので、現状では長期志向のグローバル分散投資という「1」に近い状態になっているのかなと思いました。

小松原周さんのパートは、どちらかというと株式投資の基本です。株式投資をしたことがない人、経験が浅い人向けといった感じです。
だいたい、レオス・キャピタルワークスの藤野英人さんが言うのと同じような内容です。あまりにも似ているので、これは実は藤野さんのペンネームなのか、というくらい頭が混同しましたが、確かな筋から確かめたところでは、藤野さんの弟子のような人らしいです。弟子なので限りなくポリシーが近いのだなということで理解しました。

また、アマゾンレビューが荒れているのは、片山さんのブログで、「Amazonへの開示請求とレオス在職中の資産増加について」(2015/6/14)という記事にあるように、色々なやっかみなどがあるようで、このあたりの対応への反発などもあるようです。
足元では25億円より資産額が増えているようで、カブドットコム証券の評価額と、未上場株が数億円、現預金、貸付金、その他資産で数億円あり、合計すると30億円の中盤が2015年6月現在の資産額だということです。





posted by ASK at 18:04| Comment(1) | TrackBack(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする